第6話 もうボクはキミを信じられない

「ようやく私たち、解放されたんですね」


 騒ぎが鎮まり、静かになった所でキュリーが呟いた。


 気を失って倒れたズクシは周りのギャラリーが引きずって街の外まで運んでくれた。


「•••私は、最後までトドメを刺すべきだったと思う」


 周りの反対を押し切り、気を失ったズクシの傷を治すように指示をしたのはベックだった。


 そして、壊れてしまった机や壁の修理費もベックが出すと言った。


「あんな男、生かしておいても何の価値も無い」


「•••あれでもボクの友人だったんだ。何かあったら、その時はボクが責任を取る」


「•••その時じゃもう手遅れかもね」


 キュリーの呟きに、ベックは答える事ができなかった。


「•••それで、これからどうするんですか?」


「しばらくはこの街にいようと思うんだ。お金も無いし、ズクシが動くかも知れない」


「まぁ初めからその予定でしたからね。異論はありませんよ」


「ありがとう。キュリーもそれで良い?」


「ワタシ、もそれで•••構わない、です」


 キュリーの歯切れの悪い返事をベックは見逃さなかった。


「何か思う事があるなら、今言って欲しい」


「•••私、なんでこのギルドに居ようとし続けていたのか、わからなくなっちゃって•••あの男が嫌だったら、私が抜ければ良いだけだったはずなのに」


 キュリーの疑問にはサラも思う所があった様だった。


「確かに•••私、このギルドに入ってキュリーから、あの男に気をつけるよう忠告されても、抜けようって思わなかった。どうして?」


「•••彼のスキルは交渉人だ。君たちがギルドを抜けない様に、スキルを使っていたのかも知れない」


 ベックの発言は2人を傷つけてしまった様だった。


「じゃあ、なに?私たちはずっと、あの男の思い通りにされてたってこと?•••ふざけないで!そんなのって、酷すぎる•••」


「私、帰る•••」


 キュリーの表情は普段からは想像もできないほど生気を失った様に暗く、沈んでいた。


 重い足取りで帰っていくキュリーを見送ったことを確認してサラは話を始めた。


「貴方達って、たしか、『クレーグ』の生まれって言ってたよね。あの村について少し調べた事があるの。忌子と勇者が同時に生まれた村って言われてて、少し有名だったから」


 ベックは急に立ち上がり「その話はやめよう」と言った。


 ベックの表情も、いつもと違っていた。まるで洗脳から解けた様だった。


「また明日、ボクはここに来る。キミたちがボクと一緒に来るならここに来て欲しい。キュリーにも伝えてくれ。来なかったからと言って、恨む事はしない」


 そう言ってベックは早足で出て行ってしまった。


「•••あの男を殺す指示を出せない様に交渉したの?•••あるいはもっと昔から?」

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