第2話 カタストロフィ

 また今日も平穏な日を過ごせますように。そう願いながら学校に来た。

 三限目が終わった頃、急に先生が改まって話し出した。

「これからカタストロフィを始めるわ。頑張って生き残ってね」

 先生はそう言い残し、教室に鍵をかけて去っていった。

 カタストロフィ……どこかで聞いたような。

そういえば昨日の先生らの会話で聞いた。

 噂によれば結構やばい感じだったが対象はまさかの僕らかよ……。

 僕は昨日の保健室での出来事を思い出し、一気に気だるくなった。

 何やら教卓に紙が置いてある。恐らくこの「カタストロフィ」とやらの説明だろう。



 机に置いてあるコップの水を飲め。その中には特効薬が入っている。

 ただし、たった一つだけ、特効薬が入っていない水がある。

 十二時に教室に毒ガスが撒かれる。吸い込むと三日後に突然死する。

 教卓に一つだけ特効薬を置いた。


 特効薬を飲んでいない人にこれを与えたら全員生き残る事ができるって訳か。

 なんだこれ、無茶苦茶じゃないか。これがカタストロフィというものなのか。

 先生の話し方的に、これは去年もやっているのだろう。

 教室には泣く人も居れば、絶望しておかしくなった人も居る。まあ当然な話だ。


 時刻は十一時五十八分。

 二分以内に教室を抜け出せれば確実に生き残れるが、たった二分でこの部屋から脱出できる方法はない。

 僕はとりあえずコップの水をがぶっと飲んだ。


……とりあえず僕一人では何一つできる気がしない。仲間を集めよう。


 まずは「夜桜 紅葉」だ。彼女に関しては状況を既に飲み込んでいる。

 次に「高柳 星太」だ。こいつは少し面倒くさそうだが、まあ戦力にはなるだろう……。

「時雨沢 広樹」も余裕そうだ。彼はとても頼りになる。

「五十嵐 香」は確か紅葉ちゃんと仲が良かったはずだ。

 そして「山神 海斗」も冷静だ。彼は頭がいいから本当に頼れるだろう。

 この中でまともに会話できそうなのは僕を含めてこの六人と言ったところだろうか。


「ソーマ。この状況、お前ならどうする」

 早速、星太が話しかけてきた。すまない。さっき面倒くさそうと言ったのは撤回しよう。

「僕もどうしたらいいか……。とりあえず力になりそうな人に声をかけてみようと思う」

「俺もこんな所で死にたくはねぇ。協力させてくれ」

「もちろん。僕も協力してほしい」

……と、こんな感じで星太くんが加わった。

 十二時だ。毒ガスが撒かれた。

 一瞬頭がぼーっとしたが、それ以外は普通だ。

 しかし、これで本当にこのままだと死者が出ることが確定した。

 尚更ここでじっとしている訳にはいかない。

 気を取り直して、次は……そうだな、香ちゃんと話してみよう。

 香ちゃんは病気持ちだ。詳しくは知らないが、心臓病を患っているらしい。

 病死してしまう可能性もあるという。

 どうして優しい人ばかりこうなのだろうか。実に神様というのは不平等だ。

 そんなことを考えながら香ちゃんに話しかけた。

「香ちゃん、あのさ。このカタストロフィを終わらせるために手伝って欲しいな」

「もちろん! 私もここでは死にたくないよ」

 香ちゃんは微笑んでそう言った。しかし微笑みの裏に悲しみを感じた。


 次は広樹くんに話しかけてみようか。広樹くんとは昔からの友達で僕の中では勝手に親友だと思っている。

 そんな広樹くんがこの状況で冷静でいてくれて本当に良かった。

「広樹くん」

「言わなくても分かってる。自分も今颯馬に話しかけようとしていたところだ。君のことだ、全員無事でここを出たいんだろ?」

「その通りだよ」

 流石広樹くんだ、話が早い、早すぎる。

 きっとこの騒動を解決するためのキーマンになるだろう……。


 次は海斗くんにしよう。

 彼は人の命にまるで興味が無いようだが、もしかしたら戦力になるかもしれない。

「海斗くん。カタストロフィを終わらせるために協力して欲しいんだ」

「なんで俺が黒宮に協力してやんなきゃいけねえんだよ」

 げ、やっぱり面倒くさい……。しかし僕もこうなることは想定していたぞ。

「もしかしたらここで死ぬのは海斗くんかもしれないよ」

 これならどうだ。頼む、協力してくれ。

「……しょうがねえな。分かったよ黒宮、協力するよ」

 よし、上手くいったぞ! 海斗くんは面倒な性格だけど頭はいいのだ。

 きっと戦力になるぞ……。


 おっと、まだ紅葉ちゃんに協力を頼んでいなかった。

「紅葉ちゃん、あの……」

「もしかしてソーマくんうちのこと忘れてたりした?」

 げ、バレた。

「そ、そんなことないよ……!」

「嘘つき。汗かきまくってんじゃん」

 そうなのだ。僕は嘘をつくのがものすごく下手なのだ。それは自分でも痛感している。

 とりあえずここは頑張ってお願いしよう。

「わ、忘れてたことは謝るから……ここから無事に脱出出来たらプリン奢るよ。だから協力して?」

「プリンじゃだーめ。プリンアラモードにして頂戴。そしたらうちもソーマくんに協力する!」

「分かりました……」

 なんとかなったのか……?

 と、とりあえずこれからはこの六人で解決していこうではないか。僕達は絶対に解決してみせる……!


 なんだかんだで日が暮れてしまった。ところで食料はどうするのだ……?

「おい、ソーマ! 食料で困ってたりしないか?さっき高良が焼き鳥焼いてきてくれたぞ!」

 高良と言うのは高良 理世のことだ。このクラスの担任でありながら、僕達をこんな目に合わせる酷いやつだ。

 でも何故そこまでするのだろうか……。

 僕たちを殺すのが目的ではなく、本当に遊んでいるだけなのだろうか……?

僕たちの命を弄んでいるのだろうか……? とんでもない奴だ……。

 とはいえ、食料問題が解決したのは大きい。ここは感謝するとしよう。

 現在時刻は二十時。あと五十時間もないのか……。

 僕は時間の短さに焦った。

他の五人もかなり焦っているようだった。今日はあと四時間。今のところなんの手がかりも掴めていない。

 何か一つでも掴むことが出来れば……。

 僕は今日一日、頭を使いすぎてそんなことを考えているうちに眠りについてしまった。


 これは……。僕が小三の時、初めて星太くんを追い抜き、徒競走で一番を取った時だ……。

「そうまくんすごい! なんだかカッコイイかも……」

 紅葉ちゃんか……。

 僕はこの光景が夢だとすぐに分かった。何故なら自分の姿を外から見ているのだから。

 昔聞いた事がある。人は死ぬ直前になると強く思い出に残っている光景が次々と蘇るらしい。

「走馬灯」なんて言ったりするんだっけ。

 もしかしたらそれが見えてるのかもしれない。きっと僕はこの先死ぬのかもしれない……。

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