第1話 予兆
僕は黒宮 颯馬。ただの中学三年生だ。
特別楽しいこともなく、嫌な事もほぼない。毎日毎日同じような生活を送っているだけなのだ。そして何故か僕は自然と一人でいる事が多くなった。いつからだろうか。考えても答えは出ない。嫌われているのだろうか。だとしたらなんだ。
別に友達と過ごす意味もない。自分が幸せならそれでいいのだ。
みんなそうだろう。自分が幸せになる為に、自分のために努力をしているのだろう。
人の為に何かをしている人の方が少ないはずだ。
僕のような孤独な人でも、それが幸せならそれでいい。
無理に友達を作る必要がない。これもひとつの生き方であり、個性なのだ。
このまま一生平穏に暮らしていくことが出来たならそれは幸せだろう。
僕はいつもこんなことばかり考えている。
突然先生たちの話が耳に入る。
「いよいよ明日はカタストロフィの日だな」
「今年の生徒はどうかしらね」
カタストロフィってなんだろうか。
和訳すると「大惨事」とかそんな感じだった気がする。
もうすぐ大惨事の日だな……? どういうことだ? 意味不明すぎる。
今年の生徒は、とか聞こえた気がするが流石に僕には関係ないだろう。
もし僕に関係があるのならば僕だってなにか少しくらいカタストロフィについて知っていてもいいはずだ。
つまり、あまり気にしなくても良さそうだ。
僕は都合のいい男だと自分でも思った。自分が面倒なことに巻き込まれたくない。故に都合のいいように話を組みたててしまう。
そうだな、この想像力を生かすのであれば、僕には小説家や脚本家が向いているだろう。
……妄想話はここまでにしておいて、カタストロフィの事はほかのクラスメートも知っているのだろうか。まあ知っていたところで何か変わるわけでもないだろう。
もう気にするのはやめよう。それが一番いい。
今日はあと二限残っているのか。五限目までには三十分ほど時間がある。少し仮眠をとるとしよう。
……しまった。寝過ごしてしまった。授業に十五分も遅刻している。しかしあの先生に怒られるのは嫌だ。体調が悪かったことにして保健室に居よう。
実際今は少し気分が悪い。寝すぎたせいかもしれないが。
「失礼します」
僕は保健室に入った。そこには担任の高良先生が居た。保健の先生である竹内先生と話しているようだ。
なんの話をしているかは分からなかったがあの高良先生が涙を流しているところを見た為、異常だという事はすぐに分かった。
竹内先生は注射器を取り出し、高良先生に打とうとしている。
「あ、あの……。それはなんの薬ですか……?」
僕は好奇心に負けて尋ねてしまった。
……しかし、先生は何も答えなかった。
僕は気まずくなり、保健室のベッドに横になった。
「はぁ。妹に会いたい」
口にしたつもりは無かったのだが、心の声が漏れていたようだ。
「……もうすぐ嫌でも会えるかもね」
僕はその言葉の意味が分からなかった。
保健室とはまるで思えないような緊迫した雰囲気に疲れ、全身の力を抜いた。
僕は嫌な気配を感じた。この保健室の雰囲気ではない。それとは比べ物にならないくらい、邪悪な気配を。
僕は生まれつき不吉な出来事に対しての勘が鋭い。
交通事故や地震など、ありとあらゆる最悪な出来事が近くで起こる前には何かしらのテレパシーのようなものを感じる。
直接送られてくる訳ではなく、どこかに違和感を感じる、そんなイメージが近い。
そして今回に関しては違和感の正体が分かりそうなくらいに強い。僕の近くで最悪な出来事が起きるのかもしれない。
僕は少し身構えた。
外では授業で野球をやっている。そのボールが誤って保健室に向かって飛んできた。
保健室のガラスを破り、その先にあった棚に衝突した。
その上に置いてある六つの花瓶のうち、四つが落下し、割れてしまった。
「すみません……」
ボールの回収と謝罪に一人の生徒が保健室に入ってきた。
幸いのこと、けが人は一人も出ていない。
しかし僕には違和感があった。
おそらく僕は疲れているのだろう。今日はいつもに比べ、やけに考え込んでしまう。
そんなことを考えているうちに熱が出てきたので早退させてもらうことにした。
家に帰ってきた。お気に入りの謎解き小説を読む、これが僕の日課だ。
僕の頭の良さの秘訣はそこにある。推理小説を毎日読む、これだけでもかなり賢くなる。
最初はおばあちゃんに勧められて読んでみたのだが、すっかりハマってしまった。
「同じ本を何周もして何が面白いの」
と時々言われることがあるが、読む度読む度に発見があるのだ。それを探るのも面白さである。と、好きな小説について少し語ってしまったが、僕はこれほどまでに好きなのだ。
今日一日もいつも通り、平穏な日だった。少し頭が疲れたような感じはしたが、事件は何一つ起きていない。
やはり、平和というものは素晴らしい。
そんなことをいつものように考えながら、床についた。
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