篠原花玲
鏡#1
「それで、行きたい大学は決まった?」
ここは放課後の教室、節電のため蛍光灯を切っていて光源は窓から漏れ入る夕日のみである。その頼りない光が窓枠や机、椅子を照らし織り成す影、そして自らと担任教師しかいない殺風景な教室。
「それが、まだ…」
担任の高齢な男性の先生は顎に蓄えた髭を触りつつ鼻からため息をついた。
「そうだねぇ、篠原は家庭のこともあるけど、やっぱり今は皆進路に向かって頑張ってる時期だから早めに決めたいね〜」
今は時代的にも生徒を男女関係なく、さん付けで呼ぶ先生も多いが篠原の担任の先生はスタイルを変えずにずっと呼び捨てにしている。
「はい…」
先生はわざとらしく咳払いをした。
「まぁ!大学以外にも選択肢はあるし、オレも相談があれば乗るから。今日はこんくらいにしとこうか」
「わざわざありがとうございます」
「いやいや気にしないで。じゃあ」
そういって担任は教室から出ていった。
篠原は肩の力を抜き大きくため息をついた。先生の前ではしおらしい態度をとっていた篠原だったが、その実まったく悪いとも思っていないし、焦ってもいなかった。
進路希望が決まっていないのは確かだし、学力が低いのも確かだが、なんとかなるだろうと高を括っていた。最悪進学できなくてもお嫁に行けばいいだろう、とそのくらいの考えだ。
篠原は横に置いてあったキーホルダーがジャラジャラついたカバンから手鏡を取り出し、自分の容姿を確認する。なんたって私はカワイイんだから、と心の中で呟いた。
事実、篠原の美貌はクラスメイトの全員が認めるところだった。篠原花玲はカワイイ、ただそれだけで女子生徒は群がりついてくる。
しかし篠原は思った。今自分には彼氏がいないと。高校に入ってからも中学の時も彼氏はほぼ常に居たのだがあまり長続きしたことはなく、現在はここ半年間お付き合いはしていない。
どうせ結婚するなら玉の輿に乗りたい。しかし今同級生に金持ちなんているわけないし、年上の殿方とお近づきになるにも、高校生の身分では難しいだろう。まぁそれこそ法律の限りなく黒に近いグレーゾーンを辿ればなんとかなるのかもしれないが、そこまで切羽詰まっていないのも事実。
しかし、灯台もと暗し。篠原が通っているのはそこそこ頭のいい高校なのだ。つまり将来有望な金の卵が多数いる可能性がある。今から男女交際をして将来的には裕福な家庭を…。
篠原の思考はこんな所だった。かくして篠原は婿候補選定を初め、結果大岩レオを選んだのだった。
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