第37話 終幕
「あ、ありえない……」
眼前でバタバタと倒されていく味方。それを見てギラの生徒の中でもリーダー的存在であるガラフォイは顔を青くする。
彼は自分たちが一番強いなどと驕ってはいない。傭兵として世の中をうまく渡って、なるべく甘い蜜を吸うことを目標にしている
……しかし、腕に覚えがないというわけでもない。特に集団戦いには自信があり、例え相手が格上だろうと智略とチームワーク、そして得意の
だがその自信は脆くも崩れ去った。
まるで台風に吹き飛ばされる虫の如く蹴散らされていく仲間たち。とてもチンケな戦略で覆せる戦況ではない。
逆転の目はないと確信した彼は、とある行動に移る。
「ここは一旦に逃げるか。時間さえありゃまたいくらでも復讐でき……」
「そうはいかないよ」
ガラフォイの前に立ちはだかったのは、先の試合で彼を打ち負かした少年、ルイシャだった。
「てめえ、あの時の……!」
「まさかあれだけイキっていたのに逃げるなんてこと、ありませんよね? せっかくこちらから出向いたんだ、もっと歓迎してよ」
「ぐぅ……!」
ガラフォイはこの状況を打破する策を思案する。身を持って目の目の少年の強さを彼は理解している。とても正面から勝てる相手ではない。
彼はしばし思案したのち……両手を上にあげた。
「わかった、俺の負けだ。降参する」
「降参……だって? そんなの信じられるとでも思ってるの?」
そんな彼とは対照的にガラフォイは笑みを浮かべている。
「俺は
「そう言って油断させる作戦なんじゃないの? 第一降参したところで僕たちが許さなくちゃいけない理由はない。抵抗しなければボコボコにされないと思っているなら……それは甘いですよ」
ガラフォイの体に突き刺さる殺気はナイフのように冷たく鋭い。顔に笑みを貼り付けながらも頬には冷たい汗が伝うのを止めることができない。
「……わかった。あんたが怒るのも当然だよな。わかるよ、うん、わかる。だが殴る前に一つだけ受け取って欲しいんだ。これが俺からの謝罪の気持ちだ」
そう言って彼はポケットから拳ほどの大きさの何かを取り出す、そしてそれをルイシャの方に投げる。
いったい何だこれは? ルイシャはそれが何か見極めようとジッと凝視する。すると次の瞬間カッ、という音と共に――――それは強烈な光を放った。
瞬間ルイシャは理解する。それの正体は
衝撃を受けると光を放つ特殊な鉱石を用いて作られたその道具は、冒険者や傭兵によく使われる。特に飛行する魔獣などはこれをくらうとパニックに陥り地面に落下するので鳥系の魔獣相手には重宝される。
「くくく、よく鍛えているようだが、流石に目ん玉まで筋トレはしてないだろうよ」
この道具の強味はそこにある。
どんなに相手が強くても一定の効果があるのだ。強靭な皮膚を持ち普通の手榴弾が効果を成さない敵でもこの道具なら足止めができる。
ルイシャの視界を封じたと確信したガラフォイは隠し持っていた『銃』を取り出すと、その銃口をルイシャに向ける。
「魔法だと感知されちまうかもしれないからな。
複雑な機構を必要とする銃はこの世界では高価な上に壊れやすい。
それなのに魔法より威力が出るわけでもないので実践で使われることはほとんどないのだが、対魔法使いにおいては探知されないという利点がある。
「じゃあな、運がよけりゃ死なねえと思うぜ」
無常にも鳴り響く銃声。
放たれた三発の弾丸はルイシャの体に突き刺さる……かに思えたがそうはならなかった。
なぜならルイシャは弾丸を全て素手で掴んでしまったからだ。
「……は?」
唖然とし口をあんぐりと開けるガラフォイ。
ルイシャは掴んだ弾丸を床へ捨てると、ガラフォイの元へ歩き出す。
「
「い、いやいやいやっ!? 普通無理だろ!? そんなこと見えてても出来るわけがない!!」
「それはあなたの努力不足ですよ、人は諦めなければいくらでも強くなれる」
すっかり怯えきってしまっているガラフォイの近くまで来たルイシャは両の拳をポキポキと鳴らす。
「さて、覚悟はいいですか?」
「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ、頼む!」
慌てふためくガラフォイ、しかしルイシャは止まらない。
「頼む、俺が悪かっ、ゆ、許し、お願――――っ!」
「せいッ!」
ルイシャの力強い正拳突きがメリリ、と鈍い音を立てながらガラフォイの顔面に突き刺さる。
そしてそのまま拳を地面に振り落とす。
顔面に拳を、後頭部を地面に激しく打ちつけたガラフォイは「ぷきゅ」と小さく呻くとそのまま地面に力なく横たわる。その瞳からは後悔の涙が溢れている。
「チシャの痛み、少しは理解出来た? もし次同じようなことをしたらこんな軽い傷じゃすまないからね」
これ以上があるのか――――と、薄れ行く意識の中ガラフォイは絶望する。
こうしてルイシャたちの復讐劇は大勝利で幕を下ろすのだった。
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