第34話 突撃
大広間の扉が勢いよく弾け飛び、ギラの生徒たちの前に転がる。飛んできた扉はまるで至近距離で爆弾を爆破させたのかと思うくらいひしゃげており、二度と扉の役目を果たせないくらい壊れてしまっている。
「なんだいったい!?」
突然の爆音に驚いた彼らが扉の飛んできた方向に目を向けるとそこには今しがた扉を蹴っ飛ばしたルイシャの姿があった。
ルイシャは風通りの良くなった広間にツカツカと無言で足を踏み入れる。するとギラの生徒の一人がその行く手を塞ぐように立ちはだかる。
「なんの用だ。まさかあのガキの報復に来たってわけじゃねえよな」
「そうだと言ったら?」
ルイシャの返答にギラの生徒たちが笑う。
ルイシャたちが四人なのに対しギラの生徒は五十人、その戦力差は圧倒的だ。
「馬鹿だぜてめえ。そういやあの痛めつけたガキも馬鹿だったな! 弱っちいくせに
そういって彼は再びゲラゲラと笑い出す。
それを見たルイシャは「ふーっ」と息を深く吐き出すと拳を固く握りしめ、ドスの効いた声で彼に問いかける。
「言いたいことはそれだけか?」
一瞬で全身に広がる悪寒。まるで大型の獣の歯が首元に当てられたかと勘違いするほどの殺気が襲い全身が強張る。
彼の脳が危険信号を全力で発信しその場から逃げるよう彼に命令するがもう遅い。すでに放たれたルイシャの拳は目にも止まらぬ速さで彼の顔面に突き刺さり、吹き飛ばす。
ガードする間もなく正面からルイシャの剛拳を食らった彼は吹き飛んだ勢いそのままに壁に激突し、鼻から噴水のように血を噴き出しながら床に崩れ落ちる。
その様を見たギラの生徒たちは流石に酔いが覚め、各々自分の武器を手に取り立ち上がる。確かに彼らはモラルの欠片もない人間だが、曲がりなりにも厳しい訓練を乗り越えてきた者たちだ。
さっきまで酒を飲んでいたにも関わらずすぐに戦闘モードに切り替えている。
「わざわざ乗り込んでくるとはいい度胸だ。ボロ雑巾になる覚悟は出来てんだろうなァ!?」
「そっちこそ五体満足で帰れると思ってないよね。言っておくけど話し合いで済ませる段階はとっくに超えてる……やるよみんな!」
ルイシャの呼びかけに応え、カザハとヴォルフも前に出る。
一方シャロだけは扉があった場所に仁王立ちする。
「私はあいつらが逃げないようここにいるわ、存分に暴れて来なさい」
その言葉にルイシャは親指を立てて返事をするとギラの生徒たちに突っ込んでいくのだった。
◇
「ど、どうなってんだこりゃあ……」
目の前の恐ろしい光景を見ながら、ギラの生徒は思わずそう言葉をこぼす。
そこで繰り広げられていたのは自分のクラスメイトたちがたった三人の生徒に蹂躙されている光景だった。
「……痛い」
夢なんじゃないかと頬をつねってみるが、普通に痛い。
これが現実なのだということを再認識した彼は、手に持った剣を強く握りしめると「う、うわああー!」と声を張り上げながら敵の一人に特攻する。
狙ったのは三人の中でも一番弱そうな小さい女の子。彼女を人質に取れば戦況が変わるだろうと睨み襲いかかる……が、残り数メートルのところまで来たところで彼の腕にズキリと痛みが走る。
「いたっ、なんだ……ってええっっ!?」
突然の出来事に驚き腕に目をやると、そこにはなんと二十センチはある大きな蜂が腕に止まりその鋭利な針をぶっ刺してるではないか。
緑と黒の縞模様が特徴的なその蜂はぷっくりとした腹部を脈動させ思う存分毒を流し込む。そして男が自身を叩くよりも羽を羽ばたかせその場から離脱する。
「てめえ! 何しやg……る……」
大型の魔物でもしばらくは動けなくなる麻痺毒を打ち込まれた生徒はガクガクと体を震わせながらその場に倒れ込む。自らの使命を果たしたことを確認したその蜂、
「あんがとなあ、ゆっくり休んでや。……さて」
カザハはゆっくりと視線をギラの生徒たちに向ける。
身長が百四十センチほどしかない彼女は同年代と比べてもひどく幼く見える。しかしその凍てつくような視線を受けた生徒たちは、彼女が何か獰猛な捕食者のように感じられた。
「――――正直自分でも驚いてる。こんなにも誰かに怒りを覚えたんは初めての経験や。故郷でこの体を侮辱された時だってこんなには怒らんかった」
彼女の身に纏ったオーバーサイズのローブ、その裾や襟の隙間から大型の蜂や百足などの虫が現れキチチ、と警戒音を鳴らす。カザハの怒りは相棒である虫たちにも伝播しその無機質な瞳を赤色に染め上げる。
対人経験は豊富なギラの生徒たちだが、多数の大型の虫と戦うのは初。すでに何人かの生徒がその毒牙にかかってることもあり足がすくんでしまう。
「今更後悔したって遅いで。あんたらはとびきりの蠱毒の中に手を突っ込んでもうたんや、その代償は利子つけて返してもらうで」
次の瞬間、カザハの背中部分が歪に膨れ上がり、彼女のとっておきが姿を表す。
「おいでララちゃん。玉つきの時間や」
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