第33話 酒宴
「いやぁそれにしてもあのガキ、生意気だったよな!」
「あんなちっこいのに意地張りやがってムカつくったらないぜ」
「まあいいじゃんボコボコにしてやったんだしよ。これで魔法学園の奴らも俺らの怖さが身に染みただろうよ」
違いねえ。と声を上げて笑うのは『傭兵育成施設ギラ』の生徒たち。
彼らは自分たちの宿舎でチシャを暴行した話を肴に酒宴にふけっていた。
酔いも回り気持ち良くなって来た頃、一人の生徒が酒宴を開いている大広間に入ってくる。
「いやー遅れてすまねえ。お、、もう始まってたか」
入って来たのはギラの制服を来た生徒だった。
中にいた生徒は彼がトイレに行くと言ってたことを思い出し「お前はトイレが長えんだよ早くこっちに来い」といってその生徒を迎え入れる。
「悪い悪い、ちょっとトイレが混んでてな」
「本当か? 大物に苦戦してたの間違いじゃないか?」
下品なイジリに周りの生徒達は下卑た笑い声をあげる。
現在この大広間にはセントリアに来たギラの生徒が全員集まっている。数にして五十人の大所帯だ。その人数が広間の至る所に酒や食べ物を広げ、食い散らかし、ゴミをそこら中に投げ捨てている。当然彼らはこれを掃除することなくセントリアを去るつもりだ。
「う、きたな……」
先ほど入ってきた生徒がその惨状を目の当たりにして顔を顰める。
彼は口を手で押さえ胃から湧き上がってくる酸っぱい感覚を必死に沈めると、酔いが回り気持ち良くなっているクラスメイトに話しかける。
「なあ、あの魔法学園の生徒ってどうしてボコったんだっけ?」
「んあ? そんなの魔法学園の連中が俺たちの顔に泥を塗ったからに決まってんだろ。弱小校のくせに生意気なんだよな、あの試合に出てたガキは何か卑怯な手を使ってたに違いねえ。じゃなけりゃあいつらが俺たちに勝てるわけがねえ」
なんの根拠もなく憶測をペラペラと喋る生徒。周りのクラスメイト達は彼の言葉にうんうんと頷いている、どうやら彼の語っている言葉はギラの生徒たとの共通認識のようだ。
「本当はあの黒髪のガキに報復したかったが……また卑怯な手を使われて返り討ちにあう可能性があるからな。弱そうな奴を脅して嵌めてやろうとしたら運よくめちゃくちゃ弱い奴を捕まえられて本当にラッキーだったぜ!」
ギャハハ! と汚い笑い声が広間に響く。
生徒たちは口々に魔法学園、ルイシャ、そしてチシャを罵倒する言葉を口にする。
それを黙って聞いていた後から入って来た生徒はしばらくの無言の後、立ち上がる。
「ん? どうした? またトイレか?」
「……まあそんなとこだ」
どんだけ腹が弱いんだよ、そう笑われながらその生徒は広間から出ていく。
扉を開け、外に出るとそこには四人の人が無言で立っていた。
そこにいたのは……ルイシャ、シャロ、ヴォルフ、そしてカザハ。
彼らは出てきたギラの制服を着た人物に近づいていく。
「……」
ルイシャはその人物に近づくと、その肩にポンと手を置く。
「どうだった?」
「ああ、上手くいったぞ……
ぼん! とギラの制服を着た生徒から煙が巻き起こる。そしてその煙が収まると煙の中からルイシャのクラスメイト、パルディオ・ミラージアが現れる。
彼は懐から手の平に収まる大きさの丸い水晶を取り出すと、それをルイシャに手渡す。
「奴らのやったことをバッチリと録音してるはず。どうやら全員中にいるみたいだ、決行するなら今だ」
「ありがとうパルディオ、こんな危険なことやってくれて」
「なに、チシャは僕の大事な友人でもある。これくらいお安い御用さ☆」
そういうパルディオだがその手は細かく震えている。並外れた変化能力を持つ彼だがその戦闘能力は低くチシャと同程度。もし自分が魔法学園のスパイだということがバレていたらチシャと同じ目に遭うことは容易に想像がつく。
しかし彼はやった。初めて出来た友人の仇のため。
「あとは任せたぞ……みんな」
「うん、まかせて」
震えた声で懇願する彼の声に応え、真剣な面持ちでルイシャたちは歩を進めるのだった。
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