第38話 避難先にて
王国南西には倉庫街と呼ばれる場所が存在する。
以前ルイシャとヴォルフが盗賊団を追ってやってきたのもここだ。
商店のようなものは一切なく大きな倉庫が立ち並ぶここは、人通りも少なく王国騎士団も滅多にこないので浮浪者や犯罪者が隠れ住むことも多々あり王国の中でも治安の悪い場所なのだ。
そんな倉庫街の中に一軒のボロっちい小屋があった。素人が板を無理やり繋ぎ合わせて作ったような家だ。しかし倉庫街にはこのような小屋は珍しくないので誰も気には止めない。
それがこの家に住むものには都合が良かった。
「……今頃城はどうなってんすかね」
ルイシャのクラスメイトであり、王子ユーリの護衛でもある兜を被った青年イブキは行儀悪く椅子に座ったままそうボヤく。
イブキのいる小屋の中はボロっちい外観からは想像できないほど綺麗に整えられていた。それもそのはずこの小屋は王族関係者が非常事態の時に利用する避難場所の一つなのだ。
ボロボロの外観もそれを隠すためのカモフラージュ、実際は非常に頑丈にできておりちょっとやそっとの攻撃では壊れない造りになっている。
そして当然小屋の中にはイブキだけでなく主人のユーリもいた。
「ここでいくら考えても城がどうなってるかなんて分からないさ。なにせここは城から遠い、ここで異常を感じたら既に城は手遅れだろう」
「そうっすね……」
二人の間に重い空気が流れる。
二人はユーリの父親のフロイ王からここで避難生活をするよう言い渡されていた、これは王族の血を残すため苦渋の決断だった。
不安が尽きないこの状況で狭い小屋に押し込まれた閉塞感もあり小屋の空気は悪くなるばかりだった。
(あ~、居辛すぎるっす~)
この重苦しい空気に普段明るいイブキはすっかり参ってしまっていた。
ユーリはずっと椅子に座って考え事をしているので喋りかけても「ああ」とか「どうだろうな」などの生返事しかしてくれないし、狭い室内では剣を振って気を紛らわすことも出来ない。いったいどうやって時間を潰したものか……と考えていると外がドタドタと騒がしくなってくる。
「イブキ、この足音こっちに近づいてきてないか!?」
「……そっすね、王子は部屋の奥に」
イブキは一瞬で警戒モードに入ると剣を抜き放ち、ユーリを背にして小屋の唯一の入り口に剣先を向ける。
魔族にここがバレた!? いくらなんでも早すぎる……!
表情こそ落ち着いているがイブキは内心そう焦っていた。狭い室内、剣士の自分では本領が発揮できないだろう。こんなところで大規模な魔法を撃たれたら例え自分の身を守れたとしても王子まで守るのは無理だろう。
「……来た」
聞こえていた足音は小屋の入口の前で止まる。間違いない、足音の主はここを目指してやってきたのだ。足音は一人ではなく何人もの足音が重なって聞こえていた、相手は大人数とみて間違いないだろう。
足音の群れは小屋の前まで来たはいいが中に入っては来なかった。耳を澄ませば話し声のようなものも聞こえる。作戦でも練っているのであろうか。
いずれにしろこのままでは侵入されるのも時間の問題だ。イブキは床板を開け、そこにある隠しスペースにユーリを隠すと外に出ることを決める
「王子、開けますよ。危険を感じたら俺を置いて逃げてください」
「ああ、すまない」
イブキはユーリの許可を得ると意を決して扉をガチャりと開ける。
すると扉の外にいたのは意外な人物だった。
「おお! イブキじゃねえか本当にいやがったぜ! さすがチシャ!」
「調子がいいなあバーンは、ていうかもう降りていい? もう吐きそうっぷ」
「ちょ、こんなとこで吐かんといてや! ムーちゃんが汚れてまうやないか!」
そこにいたのはイブキもよく知ったクラスメイトのバーン、チシャ、カザハの三人だった。なぜか三人は巨大なムカデに乗って小屋の前にいた。これに乗ってやってきたのだろうか、チシャは乗り物酔いをしたようで顔が真っ青だ。
「な、なんでみんなこんなところにいるんすか!? ここの場所は誰にも伝えてないのに!?」
王族の避難場所は王族関係者でもごく一部の者にしか伝えられない。いくら信頼の置けるクラスメイトでも伝えるわけには行かない。
だというのになぜ? イブキは魔族が来るよりも混乱していた。
「今はそんなこと話してる場合じゃないんだよイブキ」
よろよろしながらも自分の足で地面に降り立ったチシャはイブキに近づきそう言う。
チシャの言葉を聞いたイブキは何があったのかを察する。
「……魔族の攻撃が始まったんすね」
「話が早くて助かるよ。どうやら魔族が暴れる予想はついていたようだね、さすが王様だ」
「そっす、来てくれたのは嬉しいっすが俺っち達はここを離れることは出来ないっす。みんなも巻き込まれないように避難していたほうがいいっすよ。なに、騎士団がなんとかしてくれるはずっす」
「……その騎士団が閉じ込められてるとしたら」
チシャのその言葉にイブキは固まる。
そんなことあり得ない。そう頭では思っているのだが目の前のクラスメイトはそんな冗談を言うタイプではない。
「やっぱり知らなかったんだね。今王城は結界魔法で閉じ込められてるんだ。結界を解くには中に入るしかない、その手助けをして欲しいんだ」
チシャは真剣な顔でそう言った。
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