第37話 選手交代

「まさかこんなにたくさん応援を連れてきてくれるなんて! すごいよマクス!」


「へ、へへへ。兄貴にそう言って貰えると頑張った甲斐があるってもんです」


 尊敬するルイシャに褒められマクスは照れくさそうに頭をポリポリとかく。

 一旦戦線を離脱しルイシャはマクスに近づいていた。魔族たちの相手は冒険者たちがやってくれている。


「……それにしてもマクス汗かきすぎじゃない? どうしたの?」


 その言葉にマクスは「ギクッ!」と動揺する。

 ついさっきローランにぶん殴られた時の痛みがまだ完全には引いてないので汗が止まらないのだ。しかし自分がそんな目にあったと知っては心配されてしまう。なのでマクスはその事実をルイシャに隠すことにしたのだ。


「は、ははは……走ったからですかね……」


「うーん走っただけでそんなになるかな……?」


 ジー、と疑いの眼差しでマクスを見るルイシャ。しかしマクスが口を割らないことを理解し諦める。彼が言いたくないことならば無理やり聞き出すのも野暮だと思ったのだ。


「それより兄貴、ここは冒険者達おれたちに任せて敵の親玉を探し出してくだせえ」


「そうしたいのは山々だけど本当に大丈夫? まだ結構魔族は残ってるけど」


 最初百五十名ほどいた魔族はルイシャのおかげで百人近くまで数を減らした。しかし冒険者は全員合わせて四十名ほど。その内訳は金等級二人に銀等級七人、あとの三十一人は銅等級と鉄等級が半々といった感じだ。

 金等級銀等級ならば一対一でもいい勝負ができるだろうがそれ以下の等級の冒険者ではとても勝てないだろう。


「やっぱり僕も残ったほうが……」


「安心してくれたまえ少年、我々はそこまでやわじゃない」


 そう言って会話に割り込んできたのは銀色の鎧に身を包んだ騎士ローランだった。


「たしかに今は多くの金等級と白金等級の冒険者が王国外に出てしまっている。その分私が身命を賭して戦わせてもらうよ、そこにいる勇者に報いるためにも、ね」


 そう言ってローランはちらりとマクスの方を見る。

 なんのことだか分からないルイシャだったが、ローランの実力はさっき少年を救ったときの動きを見て知っている。あれほどの実力なら魔族との戦闘でも遅れを取らないだろう。


「王国は我々冒険者にとっても居心地のいいホームだ。それをあんな部外者に奪わせはしない。だから少年、君は君にしか出来ないことをするんだ」


「……わかりました、ここはお願いします。マクスも頼んだよ!」


「へい兄貴! ここは任せてくだせえ!」


 マクスの威勢の良い返事にルイシャは満足したように笑って頷くと、後ろを向いて走り始める。そしてズボンのポケットから小さな木彫りの笛のようなものを出して吹く。

 甲高い音があたりに鳴り響き……少しすると空に大きな影が現れる。


『クエエエェェー!!』


 大きな翼を羽ばたかせ現れたのはルイシャが飼っている巨大なオウム、ワイズパロットのパロムだった。ただでさえ頭のいい種族であるワイズパロットだが、更にルイシャが暇を見つけては色々なことを仕込んでいるのでパロムはかなり芸達者に成長していた。

 パロムは低空飛行して走るルイシャの横につく。同速度になったことを確認してルイシャはそのままパロムの背中に乗り高度を上げさせる。


「よし、いい子だ」


 そう言ってパロムの頭を撫でると『クエ♪』と嬉しそうに鳴く。


「さて、親玉はどこにいるんだ……?」


 飛んだはいいものの敵の親玉がどこにいるかルイシャには見当がついていなかった。空から王国を見渡しても特に異常は見られない。

 ……しかしここで諦めるわけには行かない。ルイシャは目を見開き王国中をくまなく見渡す。するとルイシャの視界に不思議なモノが見え始める。


「……まただ」


 過去何度か見た不思議なオーラのようなものが空中に浮かんでいるのをルイシャは視た。竜眼で見える景色に似ているが少し違う。

 それらの不思議なオーラは国中に漂っているのだが、一箇所だけ異様にそのオーラが濃い場所があった。

 それは王国で城の次に高い建物、『デスティノ時計塔』だった。そこの屋上部分に異様に濃いオーラが集まっている。


 証拠は、ない。

 でもルイシャはそこから嫌な予感をビンビンに感じていた。


「パロム! あの時計塔の屋上に行って!」


『クエィ!』


 元気よく返事をしたパロムは時計塔目指して猛スピードで空を駆けるのだった。

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