第35話 冒険者組合
今より数十分ほど前。
ジャッカルのリーダー『マクス』と魔法使いの『マール』は冒険者組合の建物を訪れていた。
商業地区の中にあるその木造の建物は、四階建てと他の建物より明らかに高く、大きい。これは冒険者組合の力の大きさを示す為であり、事実冒険者組合は国に属してない組織であるにも関わらず戦力的、そして権力的にも大きな力を持っている。
一階は冒険者組合に寄せられた依頼、いわゆる『クエスト』が書かれた紙がたくさん掲示板に貼られており、冒険者達はその中から自分にあったクエストの紙を受付に持っていく。
一階は酒場にもなっており暇な冒険者や疲れを癒したい冒険者でいつも溢れかえっている。ここでは冒険者であれば他の酒場より安く飲み食いできるので客足は途絶えないのだ。
そんな冒険者で賑わう組合の扉をバン!! と開いてマクスは中に入る。
突然のことに何事かと扉の方を向く冒険者たちだが、入って来た人物を見ると「なんだマクスか」といった感じで興味を失い各々酒の続きを楽しんだり掲示板に目を移したりしてしまう。
そんな冒険者たちの反応を見て心が折れそうになるマクスだったが歯を食いしばり堪える。
「だ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だぜマール。こんな反応は想定内さ」
マクスはマールにそう言うと、大きく息を吸い室内にいる冒険者全員に聞こえるように叫ぶ。
「魔族が攻めてくるッッ!! 力を貸してくれッッ!!」
マクスの大声は強く響き渡り冒険者たちの鼓膜に反響した。
屈強な冒険者たちはある者は興味深そうに、またある者は不機嫌そうにマクスの方を見る。ここまで来たら後戻りはできない。そう覚悟を決めたマクスはしんと静まった室内で話し始める。
「信じられないかもしれないがこの国にきた魔族が人間を皆殺しにしようとしてるんだ。このままじゃ手遅れになる、どうか皆んなの力を貸してくれないか?」
真剣な顔でそう訴えるマクス。
冒険者たちはその言葉を聞き……数秒の後、全員が大声で笑い出した。
「ぷ、ぷふーっっ!! おい聞いたかよ皆殺しだってよ! おお怖い怖いっ!」
「くくっ、傑作だぜ! 今度はどんな金儲けを小狡い手を思いついたんだろうなっ!」
マクスを馬鹿にして笑い転げる冒険者たち。自分の言葉を信じてもらえないだけでなく馬鹿にまでされ、マクスの目頭は悔しさで熱くなる。
しかし冒険者たちにこんな反応をされるのも仕方のないことだ。それほどまでにマクスたちジャッカルの三人は小狡い手で金を稼ぐ小者冒険者という認識は広がっていた。
「俺が言っても信じられねえとは思うが頼むっ! 俺の尊敬する人がピンチなんだ!」
手を地面につけ必死にそう訴えるマクス。しかしその程度では冒険者たちの認識は覆らなかった。
そんなマクスに一人の人物が気怠そうに近づいてくる。筋肉質の肉体にオールバックの黒髪のその男はいかつい顔つきで不良にしか見えない。
しかし彼の体から放たれる闘気は熟練した戦士と同等、いやそれを凌ぐほどだった。
「おいマクスぅ、もう茶番はやめようぜぇ。せっかくの酒がマズくなっちまうじゃあねぇか」
「ムンバ……!」
マクスがそう読んだ人物、彼は別名『斬り裂きムンバ』と呼ばれる金等級冒険者だ。
金等級冒険者は将紋を持つ者と同等の実力がないとなれない一流の称号であり、それを持つムンバも『
「悪いなムンバ、ここは譲れねえんだ。同期のよしみで見逃してくれねえか」
「同期……だあ? 確かにお前とオレ様の歴は一緒だがよう、お前は銅等級、そしてオレ様は金等級。ちょうっと立場が違いすぎねぇか?」
小馬鹿にした様子でそう話すムンバ。
確かに彼の言う通りマクスとムンバは立場が違いすぎる。いくら同期といえどその差は埋まるものではない。
「むしろ感謝して欲しいくらいだぜぇ。他の誰でもない同期のオレ様がお前の愚行を止めに来てやったんだからよぅ」
そう言ってムンバはマクスに向かって手を伸ばす。
あれに捕まってはもうどうしようもない。しかし肉体的にはたいした実力のないマクスでは彼の手から逃れることなど出来るはずもない。
もはやこれまで。そう覚悟を決めたマクスだがここで思わぬ乱入が入った。
「ちょっと待ちたまえムンバ」
そう言ってムンバのガシッと手を掴んだのは全身銀色の鎧に身を包んだ男。
彼は常人離れした握力でムンバの手を無理やり引かせるとマクスの方を向く。
「君の言葉、私には届きました。しかしそれだけではここにいる者は納得しないでしょう」
彼はそう言うと腰から剣を鞘付きで取り外し、柄を持って剣先をマクスに向ける。
「君の覚悟を、見せたまえ。さすれば他の者も納得するだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます