第18話 路地裏の激闘
「痛い目見せてやるっ!!」
男は大きく拳を振りかぶりヴォルフを殴りつけようとしてくる。
腰の入った良いフォームだ、この動作は一朝一夕で身につくものではない。どうやら男は素人ではなく戦闘経験が豊富なようだ。
しかしヴォルフの戦闘能力も並ではない。
持って生まれた天性の戦闘センスに獣人の持つ身体能力。更に最近はルイシャ塾により更に戦闘技術を上げている。
いくら男が戦闘経験豊富とはいえ、ヴォルフには遠く及ばなかった。
「へ、遅え!」
男の攻撃を優れた動体視力で見切ったヴォルフは、ギリギリまで拳を引きつけて避けると男の首元へ鋭い回し蹴りを放つ。
「がへ……!」
その攻撃をまともにくらった男は頭を路地裏の壁にめり込ませた後、その場に崩れる。
意識こそまだあるが頭部に強い衝撃を受けたため立ち上がれなくなる。
結果だけ見れば無力化に成功し勝利と言えるが、ヴォルフは内心驚いていた。
(んだよ、結構強めに蹴ったのにまだ意識があんのか……? こいつやっぱりただの人間じゃねえな)
普通の人間であれば今の蹴りをマトモにくらえば間違いなく気を失う。
やはりこいつらはただもんじゃねえ。そう認識したヴォルフは自分の中の危機感レベルを上げる。
「こいつただのガキじゃねえ! 魔法でやれ!」
仲間をやられた男達は焦り、そのうちの一人が手をヴォルフに向け魔法を構築し始める。
一瞬にして濃密な魔力が男の手に宿り、路地裏に熱気が充満する。
「仲良く焼けなっ!
男の手から放たれた高音の火炎は路地裏に瞬く間に広がり、うねりをあげながらヴォルフへと襲いかかかる。いくら体が頑丈なヴォルフと言えど上位魔法を食らえばただでは済まない。
「……やべ」
逃げようにもここは狭い路地裏。逃げ場などない、思わぬピンチにヴォルフは額に汗を浮かべる。
そんなピンチを察したルイシャはすぐさまヴォルフの前に躍り出ると一瞬で魔法を構築し、右手を地面に押しつける。
「
そう唱えた瞬間地面から大きな氷の塊が出現し、火炎とぶつかる。
ルイシャは男の使った魔法とピッタシ同じ量の魔力で魔法を使った。なので二つの魔法の威力は拮抗しているので互いに相殺し水蒸気となって路地裏を満たす。もしどちらかの魔法が勝っていたら路地裏をめちゃくちゃにして表通りにも被害を与えていたかもしれない。
それを見越したルイシャの見事な作戦だ。
「お、俺の魔法があんなガキに……!?」
「嘘だろ? お前手ぇ抜いてねえよな!?」
二人の男は上位魔法が子供に破られたショックで混乱していた。
その隙を見逃す二人ではない。ルイシャは女性を掴んでる男へ、ヴォルフは魔法を放った男に距離を詰める。
「……せいっ!!」
「オラァ!!」
ルイシャの蹴りは顎、ヴォルフの蹴りは鳩尾に。それぞれ急所に突き刺さった攻撃はいくら恵まれた肉体を持った彼らでも耐えきれず、グルン!! と白目を剥きその場に倒れる。
二人が動けなくなったことを確認したルイシャはヴォルフに男達を近くに落ちてた縄で縛り上げるよう頼み、まだ震える二人の女性の元に近づく。
「お姉さんたち大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「は、はい……。あの、ありがとうございます」
「おかげで助かりました」
無事を確認したルイシャはにっこりと笑い「よかった」と呟く。
そのルイシャの屈託のない笑みに二人のお姉さんの母性は射抜かれてしまう。ルイシャはあの魔王ですら陥落させるほどの天性のお姉さんキラーなのだ。
「ね、ねえボクお礼したいからどこか行かない?」
「ちょっと抜け駆けしないでよ! 私が先に声かけようとしたのに!」
「あ、あはは……」
お姉さんたちに詰め寄られ困惑するルイシャを見たヴォルフは「さすが大将!」と感心しながら男たちを縛り上げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます