第17話 大人

 その男達は普通に通りを散策しているだけで特に変わった様子は見られなかった。

 ガタイはよく身長も高いので浮いてはいるのだがそれだけ。普通に買い物したり談笑しているだけだった。


「うーん、普通に買い物してるようにしか見えないね」


「事実ただ買い物してるだけなのかもしれねえ。だけど絶対奴らはただの人間じゃねえ」


 ルイシャはヴォルフを信頼しているので彼が嘘を言ってるとは思っていない。

 しかし相手が普通に買い物を楽しんでいるのでは手の出しようがない。いきなり突っかかって「お前らは何者だ!」と言ってもシラを切られたら手の出しようがない。

 そんなことをしたらこっちが悪人になってしまう。


「どうしかようか……ん? どうしたんだろ、急にお姉さん達に話しかけ始めたよ」


「奴らナンパしてやがる……舐めやがって」


 男達は鼻の下を伸ばしながら二人組の女性に話しかけ始めていた。

 ヴォルフの見立て通り彼らはナンパをしていた。女性二人は見るからに嫌がっており、立ち去ろうとしているのだが彼らは絶妙な立ち回りでそれを塞ぐ。そしてなんとそのまま押し込むように二人を路地裏に連れ込んでしまった。


「ヴォルフ!」


「ああ大将、もう黙ってられねえ!」


 二人は男達の凶行を止めるため路地裏に駆け込むのだった。





 ◇



「や、やめて下さい!!」


 路地裏に連れ込まれた二人の女性はその場から逃げようと必死に男の手を振りほどこうとする。

 しかし男の握力は常人を遥かに上回っておりとても振り解けなかった。


「ツレねえこと言うなよ姉ちゃん、俺たちとイイ事しようぜ?」


「きゃ! 痛い! 人を呼びますよ!」

「やめて触らないで!」


「へえ、やれるもんならやってみろよ」


 男はそう言ってにやにや笑う。

 助けを呼ばれても痛くも痒くもないといった感じだ。

 言い知れぬ不安感に襲われながらも女性は精一杯の大声で「たすけてくださーいっ!!」と叫ぶ。

 こんな怖くて震えてしまうような状況でよくそこまで出せたと称賛して良いほどの大きな声。しかし路地裏の近くを通る人たちは女性達の方をチラリとも見なかった。


「な、なんで……?」


 声が聞こえてすぐに助けが来るとは女性も流石に思っていない。しかしチラリとも見ないのはいくらなんでもおかしい。そんなに距離は離れていないから聞こえているはずなのに、まるで何も聞こえてないかのように通行人は通り過ぎてしまった。


「ハハハ! どうやら聞こえなかったようだな! それじゃあ残念だが……俺たちと遊んで貰うぜ……?」


 女性の体に手を伸ばす男達、二人の女性はもはやこれまでと目尻に涙を浮かべる。

 ……しかし、その手が彼女達に襲い掛かることはなかった。


「待てよ、その汚ねぇ手を止めな」


 突如路地裏に響く、不機嫌そうな声。

 いったい誰だと振り返るとそこには二人の子供がいた。


「なんだガキども、大人の楽しみを邪魔すんじゃねえよ」


「けっ、女を泣かすのが大人の楽しみだってんなら俺は一生ガキでいいぜ。なあ大将」


「そうだね、絶対に許せない」


 そう言って二人は拳を固め男達に向かって歩き出した。

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