第8話 決闘
試験会場の広場を囲むように人だかりができていた。
その中心にいるのは二人の人物。これから決闘を行うルイシャと勇者の子孫である少女の二人だ。
謎の少年と勇者の子孫が決闘するという話は受験生たちの間に瞬く間に広がり、その戦いを見届けようと試験場にいたほぼ全ての者が集まっていた。
無論試験官たちも例外ではなく、規格外の力を持った二人の受験生の戦いを興味深そうに観察していた。
しかし試験官の一人、ルイシャの魔法を間近で見て気絶していたレーガスは心配した様子で二人を見ていた。
「決闘なんてして本当にいいのでしょうか
レーガスの弱気な質問に金髪の美青年ユーリはニッコリと笑みを見せながら答える。
「大丈夫ですよレーガス先生、何があっても責任は僕が取りますから。それに先生も気になるでしょ? あの少年が何者なのか」
「それはそうですが……」
レーガスは試験の時のことを思い返す。
あのルイシャという少年は「
しかも勇者の子孫などではない無名の少年が使えるなんて。
知りたい。
彼の力を。
本来であれば平穏を好むレーガスだが、目の前に現れた謎の存在に心が踊るのを感じていた。
「わかりましたユーリ様。私も覚悟を決めます。……ですが何かあったら本当に力を貸してくださいよ!?」
「ふふ、わかりました。では先生審判をお願いしますよ? 怪我しないように気をつけて下さいね」
「えぇ!? 私が!?」
突然の抜擢に驚くレーガス。
最初はイヤイヤと首を振った彼だが、ユーリの無言の圧力に押され渋々引き受けるのであった。
「くそう、なんで私が」
ぶつぶつ言いながらルイシャ達二人の元へ駆け寄るレーガス。
すると二人のそばに近づいた瞬間、レーガスは全身から嫌な汗が吹き出すのを感じる。
「冗談であって欲しいですね……これが子供の出す闘気ですか……?」
ルイシャたちの周囲には闘気と殺気の混ざった空気が充満していた。
大人のレーガスですら逃げ出す程の濃密な闘気。これが年端の行かない少年少女が出しているのかとレーガスは戦慄する。
しかしレーガスは逃げたくなる感情を必死に抑え、頑張って学園で決まっている決闘のルールについて説明する。
「勝負は降参か意識不明、もしくは私が戦闘不能だと判断した時点で終了にします。なお故意に命を奪う行為は王国法において禁止されてるのでしないように。そして武器及び魔法の使用等は禁止しません。それではお互いの誇りをかけて戦って下さい!」
そう言ってレーガスは二人から距離を取る。
「ふふ、今負けを認めれば痛い思いをしなくてすむわよ」
「……」
少女の挑発にルイシャは言葉で返さず拳を構えて答える。
その様子を見た少女はニヤリと笑うと腰から剣を抜き放ち、その切っ先をルイシャに向ける。
腕ほどの長さのその剣の刀身は淡い桃色に輝いてる。一見可愛らしい剣だがルイシャはひと目でその剣が名刀だということに気づく。
「あんたも武器を出しなさい」
しかしルイシャは武器を構えず拳を構え続ける。
本当はルイシャも武器を使って戦いたい。でも竜王剣を使うのは命に関わる戦いだけだとリオに約束させられたので使うことは出来ないのだ。
「もしかして素手で私を倒せるって言いたいワケ? 私も侮られたものね、だったら勇者の力その身に刻むといいわ!」
一向に武器を構えないルイシャを見て馬鹿にされてると思った少女は、もういいとばかりに剣を振り上げ斬りかかってくる。
「私は勇者が子孫、『シャルロッテ・ユーデリア』!! 偉大なる先祖の名に懸けてあんたを倒す!!」
高速で迫りくるシャルロッテの剣撃。観戦している受験生は数名を除いてその軌跡を目で追うことすら出来ない速さだ。
しかしそんな剣撃に対しルイシャは拳を構えるのみで魔法を発動する気配すら見せない。
(こいつ、死ぬ気なの!?)
あまりにも隙だらけなルイシャを見てシャルロッテが焦る。
渾身の力で斬りかかってしまったのでもう攻撃を中断することが出来ない。このままではルイシャを殺してしまう。
自分を超えた成績の持ち主だからこれくらい対処できると思ってたのに。まさか。
まさかこんなに弱いなんて――――
シャルロッテがそう心のなかで嘆いた瞬間。ルイシャの拳が動く。
「気功術、守式五ノ型『金剛殻』!!」
そう叫んだルイシャはなんと右腕の前腕部分でシャルロッテの剣を受け止めると、まるで剣で打ち返したかのように金属音を響かしながら弾き返す!
思わぬ反撃にあったシャルロッテは驚きに満ちた顔をしながらルイシャを凝視する。
鉄すら両断する私の剣を素手で弾き返した……!?
「あんた一体何者なの……!?」
シャルロッテの問いにルイシャは再び拳を構え答える。
「僕はルイシャ・バーディ。勇者でも魔王でもその子孫でもない。ただの凡人だよ」
ルイシャは目を細め対戦相手を見据える。
さあ、勇者狩りだ。
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