第7話 子孫
「勇者の子孫が……ここに……!?」
その瞬間、ルイシャの心に黒い感情が湧き上がる。
しかし無理もない、勇者はルイシャの大切な2人を封印した張本人。子孫にその責任がない事を分かってはいるがどうしても負の感情が勝ってしまう。
「そ、その勇者の子孫って人はどんな人なんですか……?」
「ん? そんなに彼女のことが気になるのか? まあ無理もないか、伝説の勇者『オーガ』といえば男子であれば誰でも一度は憧れる存在だからな」
「そうですね……」
もちろんルイシャも勇者に憧れる少年の一人だった。
力への憧れがあった分、その思いは他の子よりも強くすらあった。
しかし今は別だ。
どのような理由があったのかは分からないが、勇者は魔王と竜王を打ち倒し封印した。
昔話では悪の権化とまで言われる魔王と竜王だが、実際の二人は悪などではなかったというのに。
その事実は勇者に憧れを持つ少年を変えるには十分だった。
「ふふ、焦らなくても向こうから君に会いに来ると思うよ。なんせ現代の勇者殿はお転婆だからね」
「お転婆?」
とても「勇者」と「お転婆」という言葉が結びつかない。
伝説の勇者オーガは物腰柔らかく、高潔な人物だと言われているのに。
「お! ほら噂をすれば」
何かに気づいたユーリがルイシャの後ろを指差す。
その方向に目を向けたルイシャはこちらに走って向かってくる人影を見つける。
その人物はピンク色の長い髪が特徴的な美少女だった。
整った目鼻立ちにさくらんぼの様な唇。背はルイシャよりも少し低いが、出るところはしっかり出ている。
「あの娘がそうなの?」
「ああ、彼女が伝説の勇者の子孫さ」
その人物はルイシャの前で急ブレーキをかけ立ち止まると高圧的な態度でジロジロとルイシャを観察してくる。
「な、何でしょうか?」
「ふうん、あんたが噂の受験生? 思ってたより弱そうね」
「な……!」
突然の失礼な物言いにさすがのルイシャもカチンと来る。
言い返そうとするルイシャだがそれをユーリが制する。
「初対面の人に随分な物言いじゃないかユーデリア君」
「あらユーリじゃない。なんであんたがこいつといんのよ」
どのような関係かは分からないがユーリとこの桃髪勇者子孫は知り合いらしい。
「随分怒っているようだがどうしたんだい?」
「わかってるでしょ? こいつが私よりも上の成績を出してるせいで受験生一位の座が奪われそうなのよ。そんなこと勇者の子孫である私には許されない失態だわ。それもこんな弱そうで臆病そうな男に」
そ、そんな理由で。とルイシャは困惑する。
しかし目の前の女の子にはそれは大きな問題らしく、ユーリと話しながらも殺意のこもった目でルイシャをにらみ続けている。
「でももう試験は終わっただろう? 今更ルイシャに詰め寄ったところで成績は変わらないじゃないか」
ユーリの言う通りもう全ての試験は終わり後は結果を待つだけである。
ユーリは彼女がいちゃもんを付けに来ただけだろうと思っていたのだが、彼女はとんでもないことを言い出す。
「ふふん。あんたも意外と頭が回らないのねユーリ」
「……どういうことかな?」
「簡単な話よ」
彼女はそう言うと胸元から手袋をルイシャの足元へ放る。
田舎育ちのルイシャでもこの意味は分かる。これは決闘の申し入れだ。
この手袋を拾えば決闘を受けて立つという意味になるのだ。
「私が勝ったら入学をやめてもらうわ。あんたが勝ったら……そうね、奴隷にでもなんでもなってあげるわ」
少女はそう言うとルイシャを挑発的な目で睨みつける。
その表情は「私は負けない」という絶対的な自信で溢れている。
「こんなもの受けても得がない。やめるんだルイシャ」
ユーリはルイシャの肩を掴み手袋を拾わないよう勧めてくる。
たしかに傍から見たらこの勝負を受ける意味はない。しかしルイシャにはこの勝負を受ける理由があった。
(これに勝てば勇者の情報を聞き出せるかもしれない……!)
奴隷など欲しくはなかったが、勝ったら情報ぐらい教えてくれるだろう。
そう考えたルイシャはユーリの制止を振り切り勢いよく手袋を拾う。
「この勝負受けさせていただきます」
「へえ、勇気はあるようね。さっきの非礼は謝らせてもらうわ。手加減はしないけどね」
強気な姿勢を崩さない少女にルイシャは真っ向から視線を返す。
負けるわけには行かない。勇者の子孫に勝てなきゃ伝説の勇者の封印なんて解けるわけがないのだから。
ルイシャは決意を新たに決闘へ望むのだった。
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