第6話 青年

 《未来のとあるインタビュー》


 ――――それではインタビューを始めさせていただきます。ではレーガス先生、まずはとの出会いから教えていただけますか?


「ええ、いいですよ。忘れもしません、あれは魔法学院の入学試験の日でした。

 試験も終盤に差し掛かってきたころ。は突然ふらりと現れました。

 見た目は普通の少年でした。それどころか私は彼が少し頼りなさそうとすら感じましたよ」


 ――――それは驚きですね。では彼の異常性を初めて認識したのはいつなのですか?


「そのすぐ後です。私は魔法適性の試験官をやっていたのですが、なんと彼はそこで超位魔法を使ったんですよ! 信じられますか!?」


 ――――ちょ、超位魔法をですか!? 国に数人しか使い手のいない超位魔法を子供が使ったとはとても信じられませんね!!


「ええそうなんですよ。先生である私ですらその2つ下の中位魔法しか使えないというのに。面目丸つぶれですよ、はっはっはっは」


 ―――――これは最初から興味深いお話が聞けました。さすが伝説の生徒ですね。それで試験から伝説を残した彼はその後どうしたんですか?



「……」



 ――――レーガスさん?



「……知らないです」



 ――――な、なんでですか!?



「…………魔法に驚いて気絶したからです」



 ――――……インタビューを中断します。







 ◇





「お、おーい試験官さん! 大丈夫ですか!?」


「きゅうう」と目を回すレーガス試験官に駆け寄り声をかけるルイシャ。

 しかし彼は超位魔法『超位火炎フォル・ファイア』の衝撃で完全に目を回していた。いや正確には彼だけでなく近くにいた生徒も何人か目を回していた。


 困ったルイシャは近くにいた別の試験官に話しかける。


「あ、あの。担当の試験官さんが気を失ってしまったんですが、これって失格ですかね……?」


「へ!? い、いや、えーと……多分失格にはならない、かな? ひ、ひとまず次の試験を受けるといいよ。気絶したこいつはこっちで何とかしとくから!」


 それを聞いたルイシャはパッと顔を明るくしペコリと頭を下げる。


「ありがとうございます。目が覚めたらごめんなさいとお伝え下さい」


 そう言って次の試験場へと立ち去って行くルイシャを見送りながら試験官は呟く。


「今年の新入生はヤバいのが多すぎ・・・るぜ……」





 ◇




 その後もルイシャは続々と試験で驚異的な成績を残していった。


 腕力を測るパンチングマシーンのような魔道具を殴って粉砕し、魔力量を測ることが出来る魔道具を爆発させた。

 ペーパーテストも最近の事こそ分からなかったが、昔の歴史はテスタロッサに教わっていたため問題なく答えることができた。

 試験会場をざわつかせたのは、魔法知識のテストだった。試験官たちが見たことも聞いたこともない理論をルイシャがスラスラと言ったため現場は大混乱。試験官たちはその理論が正しいのかを検証する作業に追われた。

 しかし短期間でルイシャの言った理論を証明することなど到底出来ず、結果は保留となった。

 だが裏ではこのテストを担当した試験官は絶対にルイシャを入学させるよう嘆願していた。


 そんなこんなをしている内に試験官のみならず、受験生の間でも『なんかスゴい受験生がいる』との噂が広まっていたのだった。


「な、なんか視線を感じる……」


 好奇の目を向けられルイシャに鳥肌が立つ。


「おいお前話しかけろよ……」

「いやお前が行けよ……」


 突如現れた謎の少年に誰も話しかけることが出来なかったのだが、そんな中一人の受験生がルイシャに話しかける。


「こんにちは。少し話してもいいかな」


「へ?」


 話しかけてきたのは金髪の眩しい美青年だった。

 青い瞳に甘いフェイス。絵に描いたようなイケメンだな、とルイシャは思った。


「こ、こんにちは。ルイシャと言います。よろしくお願いします」


「僕の名前はユーリ、よろしくね」


 そう挨拶して流れるようにルイシャと握手するユーリ。

 こういうことに慣れていないルイシャは少し気恥ずかしそうだ。


「ふふ、そんなにかしこまらなくていいよ。同じ受験生じゃないか」


「そ、そうだね! えーと……ユーリ、くんはどうして僕に話しかけてきたの?」


「呼び捨てでいいよルイシャ。僕が話しかけた理由は単純、君が常人離れした結果を残しているからさ」


「あー……」


 やりすぎた。ルイシャは反省する。

 途中からゲームみたいでノリノリでやってしまっていた。目立つ行動は避けようと思っていたのに周りが驚くのが楽しくてついつい思い切りやっちゃった。


「今年の成績最優秀者は彼女・・だと思っていたんだけどね。まさか君みたいなダークホースがいるとは思わなかったよ」


「彼女……? そんなにすごい人が受験生にいるの?」


「なんだ知らないのかルイシャ? 国中でその話題で持ちきりだというのに」


「へへ、僕最近、というかさっきこの国に来たばかりだから」


 ルイシャがそう言うとユーリは考える素振りを見せ、小声でぶつぶつと喋る。


「この国に来たばかり、か。なるほどだから見落としていたのか。いったい何故このタイミングで? 悪い人物には見えないが……」


「ユーリ? どうしたの?」


「ん、すまない。こっちの話だ。それより彼女の話を聞きたいんだね?」


「うん。一体誰なの?」


 ルイシャの何気なく聞いた質問にユーリは答える。


「今年の受験者の中にいるんだよ。あの伝説の勇者『オーガ』の子孫がね……!」

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