第5話 入学試験

 王国に入ったルイシャの目に飛び込んできたのは見渡す限りの人、人、人。

 とても数え切れないほどの人たちがそこで生活していた。

 話には聞いていたがこれは想像以上だ。見てるだけで目眩がしそうになる。

 ルイシャが入った大きな門を抜けてすぐの今いるところは広場になっていて、そこから三方向に道が伸びていた。

 近くに看板が立っていたので見てみるとそれぞれの道は、商業地区、居住地区、そして学園地区につながっているらしい。

 この学園地区っていうのが門番が言っていた『魔法学園』のことだろう。門番が言うには今この学校の入学試験をやってるみたいだ。


「学校かあ、憧れるけど僕には無縁の話だなあ」


 友達を作って遊んだり、勉強して色々なことを学んだり。楽しいんだろうなあ。

 でも僕にはそれよりも優先することがある。だから我慢しなくちゃ。


「そのためにまずは情報を集めなきゃ。うーん情報が手に入りそうなのは……酒場かなあ」


 しかしまだ子供のルイシャが入ったら浮いてしまうだろう。

 だったら冒険者ギルドもいいかもとルイシャは思いつく。冒険者は子供でもなれるから酒場よりは目立たないはずだ。

 冒険者になれば他の国に入国する許可も取りやすくなるだろうしお金も稼げる。正に一石二鳥だ。


「よし!」


 次の目的地を冒険者ギルドへと決めたルイシャだが、看板から目を離した瞬間見知らぬ人に声をかけられる。


「ちょっと僕ちゃん! 道に迷ったのかい!? 魔法学園はあっちだよ! 今ならまだ間に合うから早くお行き!!」


「え? え?」


 声をかけてきたのは恰幅のいいおばちゃん。

 どうやら門番と同じくルイシャを受験生と勘違いしているみたいだ。


「い、いや。僕は違くて」


「落ちるのが怖いのはわかるけど逃げちゃいけないよ! ほら!おばちゃんが一緒に行ってあげるからしゃんとおし!」


「ちょ! おばちゃん離して……って力強っ!?」


 こうしてルイシャは突然現れたおばちゃんに引きずられ、魔法学園の試験場に行くことになったのだった。





 王立フロイ大魔法学園。

 それが魔法学園の正式な名前だ。

 広大な王国の二割もの面積を使って作られたその学園はもはや小さな『国』といっても差し支えないほどで、そこに在学する生徒も数千人とケタ違いだ。

 こんなにも王国がこの学園に力を入れてるのは、王国と仲の良くない『帝国』との戦争を警戒しているかららしく、そのために強力な戦士を発見、養成し国にスカウトするための学園でもあるらしい。

 そのため優秀な卒業生は王国からかなり援助をしてもらえるらしい。だから色んなところから入学希望者が殺到し、それをふるいにかける試験が行われる。

 これが引きずられながらおばちゃんに聞かせられた学園の情報だ。


「さ! 着いたよ! ここが試験場だよ!」


 連れてこられたのは人がたくさんいる広場。

 そこではたくさんの入学希望者らしき人たちが様々な試験を受けていた。


「はいはい! さっさと受験手続きを済ませてきな!」


「うわわ!」


 バン! とおばちゃんに背中を叩かれてルイシャは強制的に試験場の受付に行かされる。


「……はあ、ここまで来たら仕方ないか。王国に入れたのも魔法学園のおかげだし、これも何かの縁だから受けてみようかな」


 そう考えたルイシャは受付で名前を記入して登録を済ませる。

 たくさんの人に受験してもらえるように、試験へ参加するのは簡単になっていた。年齢も十から十六才の間であれば国籍を問わず受験でき、受験料も取らない。入国証も確認されなくて助かった。


「登録が完了したら魔法適正の試験を受けてもらう。あっちの会場へ行け」


 受付の人にそう言われルイシャは受付の隣にある魔法適性の会場に足を運ぶ。

 そこには木の板で出来た的のようなものが離れたところに浮いていて、それを受験生が魔法で撃ち抜いていた。

 その会場にルイシャが近づくと、この試験の担当の試験官らしき人が話しかけてくる。


「む、次の受験生は君か。ここでは見ての通りあの的を魔法で攻撃してもらって、君が魔法をどれだけ使いこなせるかを見せてもらう。使う魔法は自由。短い時間でなるべく多くの的を壊してくれ」


 三十mくらい離れたところにある的の数は十個。

 受験生の子供たちは必死に火の玉や風の刃を放って的を壊そうとするが、そのほとんどはへにゃへにゃに曲がって当たりすらしない。

 そもそも魔法の作り方が雑すぎるとルイシャは感じた。同じ魔法でもテスタロッサのは比べ物にならないほど綺麗で強く作られていた。きっといい先生に恵まれなかったのだろうとルイシャは思った。


「次! ルイシャ=バーディ!」


 名前が呼ばれ、ルイシャは位置につく。

 それを確認した試験官は魔法で遠くの的を浮かせ、不規則に動かし始める。

正直ルイシャはこんな試験適当に済ませようと思ってたけどやめた。

 なぜならワザとでもあんな風に適当な魔法を使ったら、魔法を教えてくれたテスタロッサの顔に泥を塗ることになってしまうから。

 だから……思い切り、やってやる。


超位火炎フォル・ファイア!」


 ルイシャの両手から放たれた巨大な火炎は地面を抉り取りながら高速で進み、全部で十個ある的を一瞬で消し炭に変えた。

 少しやりすぎた感もあるが、これなら高得点が取れたはずだ。


「どうですか? 試験官さん」


 そう言って試験官の元に駆け寄るルイシャ。

 しかし試験官は反応することはなかった。なぜなら……。


「試験官さん? 聞いていま……あれ?」


「…………」


 試験官は白目を剥いて気絶していたからだ。

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