第4話 入国

 村から王国までは馬車で三日もかかる距離だ。

 普通に歩いてはその倍近くの時間がかかっていしまうが、今のルイシャには身体能力を上げる気功術がある。肉体強化の魔法を使ってもいのだが、魔法で身体能力を上げると体に負荷がかかってしまうので体を痛めたり筋肉痛になることがある。無理やり魔力で筋肉を動かすから当然の副作用だ。

 しかしその点気功術は肉体そのものを強化するからその心配はない。


「気功歩行術……飛脚!」


 この技は足に気を集中させることでまるで羽でも生えてるかのように体を軽くして移動する技だ。

 その力を使ってルイシャは一気に大地を駆け抜ける。


(すごい! 軽く走っただけで景色が一瞬で通り過ぎていく!今までは真っ白な無限牢獄の中でしか使ってなかったから退屈な景色だったけど、外で使うとこんなに気持ちが良かったんだ!!)


王国目指し走るルイシャの目の前に木や湖、動物、山、色とりどりの自然が現れては過ぎ去っていく。


「きーーーもちぃーーーー!!」


 大声をあげながら高速で走るルイシャを鳥や動物たちが驚きながら見送る。

 鍛える前は少し走っただけですぐにバテていたので走るのがこんなに楽しいなんて知らなかった。ルイシャは時間も忘れて走って跳んで転がってを繰り返していた。

 そうこうしていると、なんとまだ明るいと言うのに王国の前にたどり着いてしまった。


「はあ、はあ、少しはしゃぎすぎちゃった」


 一日は野宿するつもりだったのにもう着いてしまった。時間にすると約二時間、まだ日も高く昼くらいの時間だ。

 しかし早く着いたのなら仕方ない、予定より早いがルイシャは王国に入ることにする。

 そう決めたルイシャは王国をぐるりと囲む城壁にあるひときわ大きな門へと向かう。恐らくそこが入り口だろう。

 そこに近づいていくと、そこには人が十人くらい列を組んで並んでいた。

 ある人は革鎧に身を包み剣を腰にさしていて、またある人は馬車にたくさんの物を載せている。

 身なりから察するに冒険者と商人だろうか。どうやら様々な人が王国に出入りしているようだ。


「次の者、入れ!」


 金属の鎧を着て槍を持った中年の男性が並んでいる人を呼び出す。この人が門番なのだろう、王国ともなると一人一人キチンと入国検査を受けないと入れないようだ。


「入国証の提出を」


 門番がそう言うと呼ばれた冒険者らしき人物が懐より紙を一枚取り出して門番に手渡す。それを確認した門番は「よし通れ!」と言って今度は次の人を呼び出す。

 それを見たルイシャは焦る。

あれ? もしかして王国に入るにはあの紙が必要なの? そ、そんなの聞いてないよ! テス姉も言ってなかったし!


「ど、どどどどどうしよう」


 おそらくテスタロッサが封印されている間にそういう決まりが出来たんだろう。だとしたら物知りなテスタロッサが知らないのも当然だ。


「次の者!」


 が、慌ててる間にもどんどん列は進んでいってしまう。

 もし入国証を持ってないとバレたらどうなるのだろうか。もしかしたら捕まってしまうかもしれない。ルイシャなら力づくで逃げることは出来るだろうが、そんなことしたらお尋ね者になってしまうかもしれない。

 さすがにこの年で犯罪者になるのは嫌だ。


「こうなったら他の人の入国証を盗んで……いやいやそんなことしちゃ駄目だ」


「次の者!」


「あ、へ、はい!」


 そんなこんなをしている内にとうとうルイシャの番が回ってきてしまう。

 どうしよう! まだ何も思いついてないのに!

そうドキドキしながら門番の目の前に行くと、なぜか門番はジロジロとルイシャを見始める。

 な、何か変なことしたかなと緊張し身を固まらせるルイシャ。すると門番は想定外のことを口にした。


「んぅ!? お主、もしや魔法学園入学希望者じゃないか!?」


「……へ?」


 魔法学院? なんだろう、聞いたことないや。

 ルイシャの頭に?マークが浮かぶ。


「え、あの」


「こんなところで何やってるんだ!? もうすぐ試験が始まるぞ!! 急いで中にはいれ!!」


 門番はそう言うとルイシャをぐいぐいと王国の中に押し入れようとしてくる。


「え!? 入っていいんですか!?」


「当たり前だ! 早く試験場に行け! 試験場は入って真っ直ぐだからな!」


「うわわ!」


 何が起きているかわからないままルイシャは門をくぐらされ中に入れられる。


「頑張れよ坊主! 合格できるといいな!」


 門番はそう言ってニカッと笑顔をルイシャに見せ親指を突き立てる。どういうことかわからないけどルイシャはこうして無事? 王国に入ることが出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る