第3話 道程
「うーん、迷った」
しかし村から出発して一時間、さっそくルイシャは迷子になっていた。
「えーと? こっちが北だからこっちが東だよね……?」
地図とにらめっこしながら自問自答するが、答えはでない。
「うう、こんなボロボロの地図じゃわかんないよ……。村長に行き方をちゃんと聞いておけばよかった。そもそもちゃんと道通りに行けばよかったんだ。それなのにショートカットしようとするからこんな事になったんだ。こうなったら一回村に戻って最初からやり直したほうがいいのかな? 村長の魔力を探知すれば村には戻れるから」
そこまで考えてルイシャは「あ!」と、ある名案を思いつく。
「そうだ、魔力探知すればいいんだ!」
王国にはたくさん人がいるはず。だったら魔力もたくさん集まっているはずだ!
そう考えたルイシャは早速行動に移すことにする。
「よーし、魔力探知!」
自分の感覚器官を広げるイメージ。それがテスタロッサから教わった魔力探知のコツだ。
魔族が得意とする魔力探知だが人間では習得難度が高く、人間で広範囲の魔力探知を使えるのはごく一部の人だけだとテスタロッサは言っていた。
確かにルイシャが魔力探知を使えるようになったのは修行を始めて百年以上は後だった。
だけどテスタロッサに手取り足取り教えてもらった今のルイシャは魔力で個人を識別出来るレベルまで魔力探知を鍛え上げることが出来た。
探知範囲もかなり広くなったからきっと王国も見つけられるはず、そう考えたルイシャは「むむむ……」と魔力探知を始める。
しかし近くに魔力反応がいくつか見つかるが数百人くらいの人間しかいない。多分これは村だ。王国にはもっとたくさん人がいるはずだ。
そのまま範囲を広げていくと、いきなりとんでもない数の魔力反応を見つける。
「す、すごい人の数! 何人いるのか数え切れないや!この近くにこれ以上の数の人は見つからないし、これが王国に違いないね。よーし行くぞっ! ……でもその前に」
ルイシャははくるりと後ろを振り返って鬱蒼とした森の中に話しかける。
「出てきなよ、
するとその言葉に反応して巨大な影が木をなぎ倒しながら姿を表す。
その影の正体は巨大な熊型の魔獣だった。真っ黒で硬そうな毛に、剣のように鋭くて大きな爪と牙。
その眼は充血して血走り、口からはボタボタとよだれがこぼれ落ちている。
「村長の言ってた凶暴な魔獣っていうのは君のことだね。確かにここらへんにいる魔獣とは強さのケタが違うね」
熊魔獣の体長は五mはある。
このクラスの魔獣はここら辺にはまずいない。多分エサを求めて彷徨ってたらここに迷い込んでしまったのだろう。
『グルルル……!!』
お腹がよほど空いてるのか熊魔獣は大きなヨダレをボタボタと垂らしながらルイシャを威嚇する。
だがこんなところで食べられてあげる訳にはわけにはいかない。逃げてやり過ごしてもいいのだが、それでは自分の村を襲われる可能性もあるので放っておくわけにもいかなかった。
確実にここで倒しておかなきゃ。そうルイシャは決心した。
『グルアァッ!!』
熊魔獣が爪を振りかざし襲いかかる。
当たればひとたまりもない攻撃だ。しかし気功術をリオに教えてもらったルイシャの身体能力は常に強化魔法をかけられているくらい跳ね上がっている。
その身体能力を生かし爪が振るわれるよりも速く移動したルイシャは熊魔獣の懐に潜り込んみ、拳に気を溜め必殺の攻撃を繰り出す!
「気功術攻式一ノ型……
隕石のごとき威力を持った右正拳突きが熊魔獣の腹部に命中する。
衝撃を受け止めきれなかった魔獣はその場から吹っ飛び近くの岩場に激突し轟音を鳴り響かす。そしてそのままガックリとうなだれ動かなくなる。
「ふう、なんとか一撃で倒せた。実戦は初めてだから緊張したけど上手くいってよかった」
熊魔獣の攻撃は速かったが、今のルイシャならあれくらいの攻撃だったら全然見切れる。なにしろ竜王であるリオの攻撃を受け続けて来たのだから。
「よし! 気を取り直して出発だ!」
まだ見ぬ王国に期待を抱きながら、ルイシャは旅を再開する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます