第2章 少年と王国と入学試験

第1話 帰還

  次元の裂け目の中は不思議な空間だった。

  紫色と水色とピンクをごちゃまぜにしたような色の空間で、重力がないからどっちが上でどっちが下なのかもわからない。

  おまけに空間が捻じ曲がっているからルイシャの体は引きちぎれそうになってしまう。

  体を鉄のように硬くする技、気功術守式一ノ型「鉄纏てつまとい」を使ってなかったらバラバラになっていただろう。

  しばらくその空間の中を進んでいると光りが漏れ出ている亀裂が見えてくる。

  多分あれが出口だ。そう確信したルイシャは再び次元斬で穴を開けると、足から魔力を放出してその穴へ飛び込んでいく。


「まぶし……!」


 視界を覆い尽くすかのように広がる光。

 そしてその光が徐々に収まっていくと……そこに広がっていたのはルイシャがうっかり無限牢獄に落っこちたあの山の中だった。


「戻って……これた……!」


 長かった。

 途中で何度も何度も挫けそうになったけどとうとう元の世界に戻ることが出来たんだ!


「やったーーーー!!」


 喜びを噛みしめるルイシャ。

 ああ、色のある風景って素晴らしい! 無限牢獄の中はひたすら真っ白な空間だからすごい新鮮に感じる!空気も美味しいし最高だ!

 久しぶりの帰還に感動を覚えるルイシャ。しかしそういつまでも浸ってはいられない。


「おっと浮かれてる場合じゃないね。まずは村に戻らないと」


 村にはなんの未練もないが、面倒を見てくれた村長さんに別れの挨拶くらいはしたかった。

 しかし村の方向が分からない。最後にルイシャがここを訪れたのが三百年前なのだから無理もないだろう。


「うーん……そうだ! 上から見ればいいんだ!」


 名案を思いついたルイシャは木のてっぺん目掛けて思いっきりジャンプする。するとルイシャの体は木を飛び越えて上空まですっ飛んでしまう。


「あわ、あわわ!」


 何もない空間で特訓をしてたからまさかここまで飛んでしまうとは思っていなかったルイシャは急いで魔力で姿勢を制御して、辺りを見回す。

 するとそこに広がっていたのは……。


「すごい……」


 辺り一面に広がる緑豊かな世界。

 右前方に広がるのは巨大な水の塊、あれがおそらく海だろう。そしてその手前に見える建物の集まりが村だろう。

この世界に比べたら僕のいた村なんてほんとにちっぽけだったんだとルイシャは痛感する。これからこの広大な世界で、ルイシャは二人を助ける方法を探さなければいけない。

 正直不安だ。頼れる人は一人もいないし、手がかりもほとんどない。


「だけどやらなきゃ。二人のほうがもっと不安なはずだから……!!」


 すたっと着地したルイシャは上空で確認した村へと向かって走り出す。前はここまで来るのに一時間近くかかったが、魔法と気功が使える今は数分で村に到着することが出来た。

 久々にやって来た村は前に生活していた頃と変わらない様子だった。まあ一年くらいしか経ってないし変わりようもないのだが。

 村に着いたまずルイシャは自分の家に行った。

 木造の小さなその家は手入れされてないから少しボロボロになっいてたけがまだとりこわされずに残っていた。それを見たルイシャは「よかった」とホッとする。


 三百年ぶりに帰宅したルイシャは、家の中の役に立ちそうなものをかき集める。

 安いナイフにランタン、そして地図にわずかばかりのお金。使えそうなものはこれくらいだった。

 それらをボロっちい麻袋に詰めて家から出る。

 そして家の裏手にある両親のお墓に行った。大きな石が置かれただけの簡素なお墓だ。そこにはお花が一輪供えられていた。誰か来てくれてるのかな?僕はお墓の前にしゃがみこんで手を合わせる。


「父さん母さん、顔を見せれなくてごめんね。色々あったんだ。帰ってきて早々なんだけどまた行かなくちゃいけないんだ」


 父さんは僕がまだ物心が付く前に事故で死んでしまった。だけど母さんのことは覚えている。女手一つで懸命に育ててくれた。

 しかし無理がたたってまだ若いのに病気で死んでしまったんだ。……家族を失うのはもうたくさんだ。

 だから今度は僕が守ってみせる。


「今度来るときは新しい家族を連れて来るね。二人共すごくいい人なんだ」


 そう言って僕は立ち上がりお墓から立ち去ろうとする。するとその時、急に後ろから声をかけられルイシャは振り返る。


「お主……ルイシャ……か……?」


 振り返った先にいたのは杖をついた皺々の老人だった。

 ルイシャはこの人物に見覚えがあった。一年経ってシワが増えたけど間違いない。


「お久しぶりです……村長さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る