第10話 旅立つものと残されたもの
僕が純潔を散らした次の日。
僕とテス姉とリオは三人揃って別れの時を迎えようとしていた。
「ルイよ、手順はちゃんと覚えておるな?」
「大丈夫だよリオ。しっかり頭に入ってる」
僕は自分の頭を人差し指で突きながらリオを安心させるように言う。
脱出の仕方は二人から耳にタコができるほど聞かされている。
それほどまでに無限牢獄から脱出するというのは危険なことなんだ。
もし失敗してしまったら次元の狭間に閉じ込められて永劫に続く時を一人で生きなければならないらしい。
そんなの怖すぎる。絶対に成功させなくちゃ。
「それじゃ……やるよ」
僕は次元を切り裂くための剣を魔法で作ろうと魔力を練り始める。
するとなぜか僕のもとへリオがスタスタと近づいてくる。
僕の目の前に立ったリオは自分の耳についている金色の牙の形をした綺麗なピアスを取り外すと、僕にそれを差し出してくる。
「ほれ、これを使うといい」
「え?」
「ほれ、いいから受け取るのじゃ!」
困惑する僕に無理やりそのピアスを握らせるリオ。
いったいどういうことなんだ? なんで今ピアスを渡してきたの?
「よし持ったな? じゃあ魔力をそのピアスに込めてみるのじゃ」
リオに促され僕はそのピアスに魔力を込めてみる。
するとそのピアスは一瞬で大きくなり、一振りの剣へと姿を変えた!
長さは僕の腕より少し長いくらい、形はまっすぐじゃなくてまるで大きな生き物の牙のような形をしている。
刀身はまるで黄金のように輝いていて思わず見入ってしまうほど綺麗だ。いったいどれほどの価値
がある武器なのか見当もつかないや。
「こ、これは……?」
「それは『竜王剣』。先代竜王、つまりわしのパパ……おほん、父上の牙と鱗を素材に作られている国宝級の剣じゃ」
竜王の牙を使っているだけあって剣からはとてつもない力を感じる。
持ってるだけで強くなれそうだ。
「す、すごい剣なんだね。次元を切るのにこれを使わせてくれるの?」
「違うわたわけが」
どうやら違ったみたいだ。
じゃあなんで今これを見せたんだろう?
「その剣はお主にくれてやる。わしの父上の唯一の形見じゃ、無くすんじゃないぞ?」
リオはニヤリと笑いながらそう言う。
いやいやそんな大切な物をもらうわけにはいかないよ!
そう言おうとした瞬間、リオが人差し指で僕の口をおさえる。
「むぐ」
「いらない。とは言わせぬぞ? わしとて軽い気持ちでコレをくれてやるわけではない。断るならちゃんとそれを理解した上で言うのじゃな」
リオはひときわ真剣な目つきでそう言ってくる。
本当はお父さんの形見と別れるのが悲しいはずだ。だってコレはリオがこの何もない世界で同族を唯一感じられる物なのだから。
だから僕はリオの気持ちをちゃんと受け止めなきゃいけない。それが宝物を渡す決心をしてくれたリオへの礼儀だと僕は思った。
「わかった……貰うよ。リオだと思って大事にする」
「かか。分かればいいんじゃ」
真剣な顔からいつもの明るい笑顔に戻ったリオはそう言いながら嬉しそうにうなずく。
そして竜王剣の使い方を僕に教えると、僕から距離を取る。
「ほれ、やってみるのじゃ」
「……うん」
なにもない空間に目を向け、竜王剣の柄を強く握りしめる。
鍛え上げた感知能力のおかげで次元の向こう側に元いた世界を感じ取ることが出来る。しっかりとそこに狙いを定めながら魔力を竜王剣に流し込んでいく。
更に気の力で筋力を増強させて準備は完了だ。絶対に決めて見せる!
「次元……斬!!」
横一文字に振るわれた竜王剣の軌跡を追うように、空間に裂け目が現れる。
裂け目は一瞬で大きくなって人が入れるくらいの穴になる。成功だ。
「それじゃ……行くね」
「ええ、いってらっしゃい。気をつけるのよルイくん」
「そんなに気負わなくてもいいからの。待つのは慣れておる」
僕たちは最後の別れを惜しむかのように肩を抱き合う。
思わず目が熱くなっちゃうけど泣いちゃダメだ。泣いちゃったら二人が安心して僕を送り出せなくなっちゃう。
僕は二人に甘えたくなる気持ちを必死に押し殺して二人から離れる。
「必ず……必ずここから二人を出してみせるから。だから安心して待っててね」
必死に涙をこらえてそう言った僕は、二人に背を向け走り出す。
勇者の封印を解くなんて簡単にはいかないだろう。何年何十年とかかっちゃうかもしれない。
でもそれがどうした。
何十年何百年かかっても必ず二人をここから助け出してみせる!
僕はそう決意して次元の裂け目に飛び込んでいったのだった。
◇
「行った……わね」
ルイシャが次元の裂け目に飛び込み、少しして裂け目が閉じると魔王テスタロッサはポツリと呟く。
「そうじゃな、これでまたわしと二人きりというわけじゃ。たった300年ぶりだというのになんだか久しぶりの気分じゃな」
かかかか。と笑う竜王リオとは対象的に、テスタロッサは一言も発さずただルイシャが行ってしまった空間をジッと見つめていた。
「なんじゃ? もしかしてもう寂しいのか? なんか喋れ気色悪いのう」
リオがそう言うとテスタロッサは無言でリオの方に向き直ると、膝を折り小柄なリオと目線を同じ高さに合わせ彼女の両肩をガシッと掴む。
「うおっ! なんじゃ!?」
想像以上の力で掴まれ焦るリオ。
ルイシャが来る前は何度も殺し合いを繰り広げていた事を思い出したリオに緊張感が走る。
しかし次の瞬間テスタロッサの口から出たのは想定外の言葉だった。
「ざ、
大粒の涙を流しながらわんわんと泣きじゃくるテスタロッサ。
リオはテスタロッサが泣くどころか弱音を吐くところすら見たことがなかったので困惑する。
「ちょ、みっともないぞ! 泣くんじゃない!」
「ゔえ~~! ルイ
「ああもう! ほらいい子だから泣き止むのじゃ!」
泣きじゃくるテスタロッサをリオは必死にあやす。
しかしそれでもなかなか彼女は泣き止まず、結局テスタロッサが落ち着いたのは2時間後のことだった。
「ゔゔ……」
「はあ、全くとんだ泣き虫さんじゃの。これが歴代最強と名高い魔王様だとは魔族も落ちたもんじゃ」
「うう、ごめんなさいリオ……」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
今まではルイシャがいたためこんな二人きりで長時間過ごすことなどなかった。
そのためどうしていいのか二人共わからなくなっていたのだ。
「で? ルイが来るまでどうするかの? また前みたいに喧嘩でもするか?」
「よしてよ、もうそんなことする気なんてリオもないでしょ?」
「かか、冗談じゃよ冗談」
共に同じ者を鍛え、育て上げ、見守り、そして愛する内に、二人の間には確かに友情のようなものが芽生えていた。
確かに以前二人は敵対していた。しかしそれは魔族と竜族の仲が悪かっただけであり二人の間に何かがあったわけではない。
それにお互いに若い王としてお互いを意識し尊敬している部分もあったのだ。
「リオは寂しくないの?」
「寂しくない、と言ったら嘘になる。しかしそれ以上にわしはルイを信じておる。だから平気じゃ」
リオは物心が付く前に親を失っている。
そして同族たちは唯一王の血を受け継いだリオを神聖視していたため誰もリオと深い関係にはなってくれなかったのだ。
そのためルイシャはリオにとって初めての友達、そして家族のような存在にだったのだ。
「あいつに出会う前のほうがわしは孤独じゃった。あのときに比べたら今のわしはちっとも寂しくなんかないわい」
そう言ってニカッと笑うリオ。
「リオ……あなた……」
「ん? なんじゃ?」
「とっても……可愛いわね!」
「は?」
突然の言葉に困惑するリオにテスタロッサがガバっと飛びつく。
「ちょ! やめ!」とリオは抵抗するが、ものすごい力と勢いでテスタロッサに組み敷かれてしまう。
「はあ、はあ。そうよ、さみしいなら私達で紛らわせばいいのよね」
「ちょ、ちょっとあんたまさか……」
正気を失ったテスタロッサの目を見てリオは悟る。
あ、これルイシャを襲ったときと同じ目だ、と。
「あ、ちょ、どこ触って、って、そこは、あーーーーーっっ!!」
無限牢獄の中にリオの嬌声が響き渡る。
そしてリオはこう切実に願うのだった。
お願い、早く帰ってきて、と。
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一章を最後まで読んでいただきありがとうございます。
魔王と竜王に育てられた少年は学園生活を無双するようです(略称まりむそ)を引き続きお楽しみ下さい!
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今後の糧にさせて頂きます!
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