第9話 別れのとき

 無限牢獄での修行はとても辛くて、逃げ出したくなることも何回もあった。

 毎日のように死にかけるし、テス姉もリオも容赦ないし、僕は何回も三途の川を渡りそうになった。


 それでも続けられたのには2つの理由がある。


 1つは自分で自分が強くなるのが実感出来たから。

 2人の指導はスゴい的確で無駄がなかった。だから僕みたいな落ちこぼれでもメキメキと強くなることが出来た。

 他の人と比べたら遅いのかもしれないけど、そんなの関係ない。

 ほんの少しずつでも成長できることが、僕はたまらなく嬉しかったんだ。


 そして2つ目の理由は、師匠であるテス姉とリオのおかげだ。

 最初は怖くておっかない2人だったけど、ここで一緒に過ごしていくうちに少しずつ仲良くなって今では本当の家族のような存在だ。


 テス姉は修行しているときは情け容赦のない鬼教官で、僕は何度も心を折られそうになったけど、いざ修行が終わると急にお姉ちゃんモードになって僕を本当の弟のように甘やかしてくる。

 テス姉に甘やかされるとまるで僕に本当のお姉ちゃんが出来たみたいでついつい甘えてしまう。

 この前も思わず寝ぼけて「ん……お姉ちゃん……」と呼んでしまった。

 そしたらなぜかテス姉は鼻から血を吹き出して倒れてしまった。危ない病気かと心配したけどリオは「頭の病気じゃ、放っておけ」と言ってた。本当に大丈夫なのかな?


 そしてリオはと言うと彼女は気のいい友達って感じだ。

 彼女は悪戯好きでしょっちゅう僕にちょっかいをかけてくる。

 それでその度に体を密着させてくるので僕はいつもドキドキしてしまう。一度それを直接リオに言ってみたら「な。な。なにを言っとるんじゃ!! わしみたいな貧相な体に欲情するなど……この変態がぁ!!」と怒鳴られてしまった。

 確かにリオの見た目は小さな女の子にしか見えないけど、僕からしたら魅力的な女性なんだけどなあ。

 それを細かく説明してはみたけどリオは顔を真っ赤にして怒るばかりで聞いてくれなかった。


 2人は確かに人間離れした物凄い強さを持っている。それは僕が強くなれば強くなるほどよくわかった。

 今の僕でもとてもじゃないけど2人に勝つことはできないと思う。


 だけど2人は伝承に残っているような血も涙もない化け物ではなかった。

 普通に傷つき、寂しさを感じるどこにでもいる女の子だ。


 僕はそれに気づいたとき、2人を絶対にここから助け出すと心に決めた。

 もちろん最初にした約束を破るつもりなんてなかったのだけど、その約束を抜きにしても2人を助けたいと思ったんだ。


 でもそのためには2人とお別れをしなければいけない。

 家族同然の2人と別れるのはとてもツラい。ツラいけど……これは必要なことなんだ。


 ここから出るのは明日と決まっている。明日は一定周期でやってくる結界の力が弱まる日だからだ。

 なので今日は明日に備えて休息日だ。今僕はテス姉が魔法で作った家の寝室でゴロゴロしている。

 修行漬けの毎日だったので何もしない日なんて本当に久しぶりだなあ。久しぶりすぎて何していいかわかんないや。


 そんなふうに考えていると僕は段々眠くなってきてしまう……


「ふあ……」


 少しだけ眠気に抗おうとしたけど、別にすることもないしいいかと思い直した僕はその眠気に身を任せて夢の世界へと旅立っていった……。






 ◇





 むにゅり。


「……ん?」


 寝始めてからどれくらいの時間が経った頃だろうか。

 僕は柔らかいものが体に当たる感触で目を覚ます。


 一体これはなんだろう? 眠気眼をこすりながら僕はそれをむにむにと揉んでみる。


「きゃん♪」


 ……ん?

 聞き馴染みのある声が聞こえたぞ?

 僕はおそるおそる目を開けてみると、そこにいたのはなんと僕の布団に潜り込んでいるテス姉だった。しかもテス姉は黒いセクシーなネグリジェに身を包んでいていつもよりも刺激が強い!


「な……!?」

「おはよ、ルイくん♪ まさかそっちから胸を触ってくるなんてお姉さんびっくりしちゃった♪」


 その言葉で僕はテス姉の大きなおっぱいをがっつりと揉んでいることに気づいて慌てて手を離す!


 やわらかかった!

 じゃなくてなんでここにテス姉が!?


 ひとまず布団の逆側から出ようとする僕だったが、なんと逆側にも誰かが入り込んでいた!


「ふっ、観念するんじゃなルイ坊。魔王と竜王の包囲網からは逃げられんぞ?」


 逆側の布団に入り込んでいたのはもちろんリオだ。リオもピンク色でフリルががついたエッチな下着を身に着けている!

 テス姉がえっちないたずらを仕掛けてくるのはわかるけどなんでリオまで!?

 いつもだったら暴走しがちなテス姉を止めてくれるのに!!


「ふ、ふたりともどうしたの!? 今日は休憩していい日じゃなかったの!?」


 2人のいい匂いにくらくらしながらも僕は対話を試みる。

 するとテス姉はとろんとした瞳で僕を見ながら話し始める。


「リオと話していたのよ。最後にルイくんにあげられるものは何かないかなって」


「う、うん」


「もう今の肉体で強くなれる限界まで強くしたし、知識も十分にあげた。でもまだ何かあげられるものがあるんじゃないかって思って話し合ったの。そしたら見つかったの……まだ、ルイくんにあげてないものが」


「そ、それって……?」


 おそるおそる聞くと、テス姉は僕をぎゅっと抱き寄せ耳元でささやく。


「私達の……は、じ、め、て♪」


「――――――っ!!」


 そう言ってテス姉は僕のくちに唇を重ねてくる。

 姉弟がするようなキスではない、恋人同士がするような情熱的なキス。

 数分間の間僕の口の中を蹂躙したテス姉は満足したのか僕の口から舌を抜き離れる。


 あ、危ない……

 あまりにも気持ちよくて魂を持っていかれるかと思った……


「何を呆けておる。今度はこっちじゃ」

「へ? むぐ!」


 今度はリオに強引に首を捻じ曲げられ唇を奪われる。

 テス姉よりたどたどしいキスだけど、なんかそれがいじらしくて僕は悶々とした気持ちに押しつぶされそうになる。それに自分より小さい子に無理矢理されるのも何故かとても興奮してしまう……


「……ぷは、こんなものかの。しかしきすというのも意外と難しいものじゃの」


「あら、余裕ぶっちゃって。耳まで真っ赤よリオ」


「な!! そういうお主だって経験者ぶっておるが処女じゃろが!」


「あ、悪魔が処女じゃ悪いっていうの!? リオのバカ!」


「なんじゃと耳年増!」


 2人がぎゃあぎゃあ言い合っている隙に僕はベッドからの脱出を試みる。

 しかしあと少し、と来たところで2人にガシ! と肩をつかまれてしまう。


 そしてそのままベッドの中央に押し倒される僕。

 気分はまな板の上に置かれた魚。食べられるのを待つだけの哀れな食材だ。


「あ、あの……せめて優しく……」


「無理ね」

「無理じゃな」


 2人は笑顔でそう言うと僕に襲いかかるのだった。


 ああ、天国の父さん母さん。


 今日、僕は男になりました。

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