第8話 魔竜士ルイシャ

 =ルイシャ視点=


 無限牢獄でテス姉とリオに鍛えられ始まり300年経った頃、ようやく僕は二人に今覚えられる魔法と気功術の全てを伝授してもらった。


 その次の日の朝。

 僕は焼きごてを押し当てられたような激痛で目を覚ました。


「いっっっったいぃっっっ!!!!」



 無限牢獄の中に僕の絶叫がこだまする。

 すると僕の声を聞きつけてテス姉とリオが駆けつけてくる。


「どうしたのルイくん!?」

「なんじゃ敵か!? わしがぶち殺してくれる!!」


 心配しながら駆けつけてくれる二人に「む、胸が痛い……」と伝えると、二人は競うように僕の服を脱がせて胸を露わにする。


「「これは……!!」」


 僕の胸を見た二人が驚く。

 いったいどうしたんだ?

 気になった僕は自分の胸を見てみると、そこには見に覚えのない小さな紋章みたいなのが光っていた。

 大きさは手のひらより少し小さいくらいのその紋章は淡く青色に光っている。かっこいいけどなにこれ?


「これって何なの……?」


 そう聞いてみると、いつになく真剣な顔になったテス姉が僕に言ってくる。


「とうとうこの時が来たようね。これは『将紋しょうもん』と呼ばれるものよ」


「将紋? なにそれ?」


「将紋は一定以上強くなった者、いわゆる達人と呼ばれる域に達した者に現れる紋章よ。おめでとう、修行はこれで完了よ頑張ったわね」


 そう言ってテス姉は優しく僕の頭を撫でてくれる。

 暖かくて優しくてむずがゆくて、僕は幸せな気持ちになる。


「ありがとうテス姉、ところでこの紋章にはなにか意味があるの?」


「ええ、この紋章はその者に与えられた称号、いわゆる職業ジョブが古代語で書かれているわ」


 そう言ってテス姉は自分の服をめくって腰にある紋章を見せてくる。

 青く光る僕とは違ってその紋章は黄金色に光っていた。


「ちなみにこれは『王紋おうもん』。将紋より更に上の王に相応しい者だけが得られる最強の称号よ。私の王紋は古代語で『魔王』と書いてあるわ」


 次にリオが自分の口を開けてベロにある金色の紋章を見せてくる。


「わしのはこれじゃ。言うまでもないが『竜王』と書いてあるぞ」


 そういえば聞いたことがある。

 人間の国では『王』といえば国を治める人だけど、魔人や亜人の国では意味が違うらしい。


 彼らの中での『王』の意味は絶対的な実力者のこと。

 なるほど、王紋を持つ実力者だけが王になれるんだ。


「ねえねえ、僕の紋章にはなんて書いてあるの?」


 古代語は勉強して少しは読めるようになったけど自分の胸に紋章がついてあるからよく見えない。

 いったい僕の職業ジョブは何なのだろう?


「どれ、わしが見てやろう」


 リオが僕の紋章をジロジロと見る。

 いったいどんな職業ジョブなんだろう。ドキドキする。


「えーと何々……ぬ!? なんじゃとぉっ!!」


 僕の紋章を見たリオが驚きの声を上げる。

 なになに!? いったいどうしたの!?


「この紋章は、『魔竜将』の紋章じゃ!! まさか実在したとは!!」


 魔竜将? いったいなんのことだろう。

 詳しく聞こうとしてテス姉を見てみると、テス姉もすごい驚いた顔をしていた。


「魔族と竜族、どちらの力も自在に使えるという『魔竜』の称号。伝説にしか存在しないと言われていたのにまさかルイくんがそれになっちゃうなんて……!! スゴいわ!!」


 そう言ってテス姉は僕にむぎゅーっと抱きついてくる。

 どうやら僕の職業ジョブはスゴいらしい。やった!


「えっとじゃあ僕は魔竜将になったってこと?」


「いえ、まだ紋章の輝きが薄いからその手前の『魔竜士』ね」


 なんだ残念。

 でも魔王と竜王、二人の名前をどっちも貰えたのは嬉しい。

 それに目指す目的も出来た。


「じゃあもっと修行すれば魔竜将になれるんだよね? ようし頑張るぞう!」


 しかしそれを聞いた二人は黙ってしまう。

 あれ? なんか変なこと言ったかな?


「ん?どうしたの?」


 そう聞くとリオが言いにくそうに答える。


「……いいかルイ。お主の力はこれ以上無限牢獄の中では上がらん」


「……え?」


 リオの口から出たのは驚愕の言葉。

 な、なんで?


「ルイの今の年齢ではその実力が限界なのじゃ。これ以上強くなるには無限牢獄から出て肉体的に成長せんといけんのじゃよ」


「そう……なんだ」


 無限牢獄の中では、年をとれない。それは成長期まっただ中の僕にはマイナスに働いてしまった。


 そして理解した。

 もう僕はここでは強くなれない。それはつまり。


「もう無限牢獄ここから出なくちゃいけないんだね」


 僕の言葉に二人は寂しそうな顔をしてうなずく。

 別れの時がとうとうやってきたんだ。

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