第7話 竜王との日々
気功術の修行は地味なものじゃ。
まずはひたすら瞑想し、己の中にある気を感じるところから始まる。
大体の者はここで挫折し諦めてしまうらしいのじゃ。
しかし面白い事に小僧は諦めなかった。
その結果10年という平均よりも長い時間がかかったが、『気』を感じ取る事に成功しおった。
よく魔王のしごきに耐えながらわしの修行についてこれたものじゃ。
無邪気に喜ぶ小僧を見ていると不思議とわしも嬉しくなってくる。こんな感情はいつぶりじゃろうか? どうやら自分でも気づかぬ内にあの小僧に情が湧いてしまったようじゃな。
しかし手を抜くつもりは無い。
くくく、まだまだたっぷりシゴいてやるからの!
◇
――――修行を開始して百年後。
「気功術、攻式五ノ型 紅蓮大瀑布!」
ルイが拳を地面に突き刺すと、巨大な衝撃波の波が現れて前方に破壊の波を巻き起こす。
うむ、威力大きさどちらも申し分ない出来じゃ。
これで攻式と守式両方半分まで覚えられたの。
「見てたリオさん!? できたよ!!」
「ああ、見とったわい。ようやったの」
技を習得し子犬のように喜ぶルイシャ。くく、
ちなみに今ルイが口にした『リオ』というのはわしの名前じゃ。
いっても生まれた時から『竜王』と呼ばれていたわしに名前は無かった。
するとそれを聞いたこやつは「それはダメだよ!」と言いわしに名前をつけると言いだした。
最初はわしに名前をつけるなど不敬な奴じゃ。と思ったものじゃが、いざ名前で呼ばれてみるとこれが案外悪くなかった。
思えば今までわしは『竜王』としてしか扱われてなかった。
わしを崇め敬ってた竜たちも、わしを恐れ倒そうとしていた敵も。
わしの肩書きにしか注目せず誰もわし個人を見てはくれなかった。
しかしルイに名前をつけられたその時、わしは初めて自分という存在を他人に認めてもらえた気がしたのだ。
面白いことにルイがそう呼び始めてから少しすると、テスタロッサの奴までわしを『リオ』と呼び始めた。
今まで奴とは喧嘩しかしていなかったというのに、今ではルイの指導の仕方について毎日議論を重ねる仲にまでなった。
停滞していた時が、ルイが来たことで変わり始めている。
くく、この先どう変わっていくかが楽しみじゃ……。
◇
「思いっきり殴るぞ! 死ぬんじゃないぞ!」
「はい!」
わしはルイめがけて思いっきり拳を振るう。
魔力も気も込めてないただの拳じゃがわしは竜。人間がまともにくらえばその体は塵一つ残らないじゃろう。
「うおおおおおっっ! 気功術・守式十ノ型!」
響き渡る爆音。
一面に衝撃波が巻き起こり空間にヒビが入る。
しかしルイはそれほどの衝撃が起きた中心地で、見事わしの拳を両手で受け止めて見せた。
「くく! どうやら気功術・守式奥義もマスターしたようじゃな。よく300年で気功術全ての型をマスターしたものじゃ。わしも師匠として鼻が高いぞ」
わしはルイの肩に腕を回し、頭をわしわしと撫でながら褒める。
かかか! いい気分じゃ!
「ちょ! やめてよリオ! 髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよ!」
「なにぃ!? ルイのくせにわしに歯向かうとは生意気じゃぞ!」
わし達は笑い転げながらちょっかいを出し合う。
くすぐったりくすぐられたり。まるで仲のいい家族がたわむれるように。
ルイとこうしていると、胸の中がポカポカしてくる。
おそらく普通の家族は普通に感じているであろうこの感情を、わしは今まで知らなかった。
温かくて、優しくて、心が軽くなるこの感情。
これを教えてくれたルイには感謝している。
じゃが、この感情を知れば知るほど修行を続けるのが辛くなっていく。
なぜならこの修業が終わること、それはルイとの別れを指しているからじゃ。
おそらくテスタロッサも同じ気持ちを抱いてるじゃろう。あやつもこの300年で随分変わったからの。
別れは、寂しい。
しかしこのなにもない空間にルイを閉じ込めてはいけない。
ルイを必ず元の世界に届ける。
それが『愛』を教えてもらったこの竜王のせめてもの恩返しじゃ。
〈人物ファイル〉
リオ
〈種族〉竜族真祖
〈称号〉竜王
〈年齢〉304歳(人間換算で12歳程度)
〈技能〉極位魔法、竜魔法、気功術免許皆伝、[Secret]
〈能力〉魔力:SS 気功:SS 筋力:SSS 知力:B われが一番強いのじゃ!度:SSSS
太古より続く竜王の血筋を唯一受け継いでいる、生まれついての″竜王″。
物心がつく前に両親を失った上、周りの竜族は自分と対等以上に接してくれる者がいなかったため家族や友人に強い憧れを持っている。
まだ精神年齢は幼いが、その実力と才能は歴代竜王の中でも抜きん出ており成長すれば最強の竜王になっていたと言われている。
ちなみに言葉遣いが古くさいのは幼いながらも威厳を出そうという彼女なりの努力である。
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