第22話
そっと瞼が開いた。衣装は整えられていても髪は乱れたままホクトを寝かせていた。覗き込む三人を一人一人見て、唇をぎゅっと萎めて目頭を熱くする。そんな彼女の言動を読み取ってトウマはしち面倒臭そうに頭をかいた。
「謝罪は聞き飽きた。もう仲直りな」
「うっううっ」
「お前さ。そんなに女々しい奴だっけ?」
「……ねぇね、は……?」
「行った」
「うぇぇぇん!」
「よしよし」
泣きじゃくるホクトを宥めるためセイホは肩を抱きながら撫でている。
「泣いても何も変わらん。居場所も解らないし、ホクトの力が通用しないならお姉ちゃんがしたいようにさせるしかない」
「今度は起きないかもしれない」
「知るかよ。起きるまで待つしかない」
「方法がない」
「そうだ」
「うっ、うう」
「トウマ、泣いてる?」
「煩い。セイホもだろ?」
「そう。淋しくなるから。泣いておく」
「ぐすん。しょうがないじゃん。僕だってできるならやりたいけどどうすればいいか判らないもん!」
「そう。自分も判らない。だから今度は一緒」
泣いている三人。泣いてしまうから冗談らしく二人は会話していたのだろう。
自分の頬を触ってみる。俺は泣いてないようだ。彼女たちは何故泣いているのだろう? 自分たちには力があってなんでもできると思っていたから泣けるのだろうか? 何もできないと端から理解している俺は諦めていたから泣けないのか、それとも涙は枯れてしまっているのか。心のそこで無関係だと思ってるから同情できないのか、同情したら泣けるのか。泣いたら何もしない言い訳にできるのだろうか。弱いから何もしなくていいのか。許されているから何もできないのか。
――主にしては力不足のは最初から知ってる。だから、手前はご主人様に何も期待しないから安心して』
そうか。そうじゃないだろう? 俺にできるのはそれじゃないだろう。何もできないわけじゃないだろう。やってきたのはたった一つだろう。たった一つのシンプルな行動。
俺はここから逃げるんだ。
「……ご主人様。ごめんなさい……」
弱々しい声が耳朶に触れた。涙に溢れた眸は潤しく純粋だ。
「……こんな手前が言うのは間違ってる。でも……」
訥々と一所懸命に言葉を作る彼女。
「……頼れる人がもういないの……」
砂で山を作っても風に吹かれ崩れるのに、諦めないで作り続ける子供のよう。
「……ご主人様、お願い、手前たちを、助けて……」
幼い三人が置いて行かれて誰かを待ってる。
いつ振りだろう?
あんなにあんなに。
誰かと一緒にい続けたのは。
嫌だなぁ嫌だな。こんな雰囲気の中にいるのは。
笑わない三人を見るのは嫌だなぁ。
だから、ここから逃げたくなる。
俺は一歩離れて三人を見た。
似ている人たちは願いも似ているのだろう。
お喋りじゃない彼女たちに言った。
ずっと思ってたんですけど、あの人は女性にしては顔化粧が下手くそだと思うんです。
「「「…………」」」
見てくれと衣装は魅力的なのに。
「「「…………」」」
もったいないと思いませんか?
「「「…………」」」
帰ってきたら。妹の三人が、笑い方を教えてあげてください。
ふぅ、息を吐いた。
さて、どこに?
ああ、そこにいるんだね。
「あれ?」
「どこ?」
「消えた?」
「あるじ様!」
「ぬし様?」
「あはは」
「ホクト?」
「そうだ。ご主人様は最初から手前たちを語れるほど全部見えてたもの。なんだやっぱり凄かっただけ」
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