色々肉と色々豆と
わが家の冷蔵庫は小さい。
二人暮らしなので、身の丈に合わぬ大きなものは、どうも気が引ける。スリードアではあるが、容量としては全体として二百五十か六十リットル程度だろう。
この冷蔵庫の、中段のひきだしが冷凍室なのだが、この中ではしばしば謎の肉が増殖する。
それというのも、僕の食い意地が張っているせいである。
わが家で消費される食肉は多種多様。鶏、豚、牛、羊、合鴨…… 随分前になるが、通信販売でホロホロ鳥やウズラやウサギの肉を買ったこともある。
食する部位も、鶏ならば、胸、腿、笹身、手羽先、手羽元、豚や牛では、バラ、モモ、ロース、すじ肉、ごくたまにヒレやランプやサーロイン、それも料理に合わせて、こま切れ、挽肉、薄切り、角切り、塊肉、丸鶏等々。
或いは、内蔵系では、ガツ、ハチノス、ミノ、喉軟骨、膝軟骨、薬研軟骨、ハツ、砂肝、レバー、大腸、小腸、まれにギアラ、センマイ、紅葉(鶏の足)など。
それに加え、老境に差し掛かりつつある二人組に、スーパーのパック詰めは、往々にして多過ぎたりする。
したがって、少しばかり残ったものを、家人がそのつど冷凍するという行為が繰り返され、そのうちにどれが何の肉だか、いつ冷凍したものだか、すっかりこんがらがってしまって、何が何だか訳が分らなくなる。庫内は、こざこざした謎の肉でぱんぱん。しまいには、ひきだしの開け閉めにも難儀するという状態が出来するのである。
こんなことではいけない。
そこで、家人に提案し、こざこざした冷凍肉を、mix dalと一緒に煮込んで食べてしまおうということになった。このmix dal、インド食材の店で数日前に買ったさまざまな豆の詰め合わせである。レンズ豆、ひよこ豆、緑豆、黒緑豆のひきわりが入っている。
僕は最初、スパイスやハーブをふんだんにつかった煮込みを所望したのだが、家人は素材の味わいを大事にしたいと、とりあえずシンプルにローリエと塩のみで煮てみたという。味見したところ、なるほど色々な肉や色々な豆の滋味があふれている。
肉と豆の煮込みと言えば、メキシコ風アメリカ料理、テクス・メクスのチリ・コン・カルネや、ブラジルのフェイジョアーダなどが有名だが、いずれも、もともとは貧しい人たちが作った料理。ことにフェイジョアーダは、主人の食に供する、肉の上等なところを取り去り余った部位、内臓や耳やしっぽなどを、奴隷或いは使用人がもらい受けて黒隠元やにんにくと共に煮込んだのが始まりとも言われ、味付けも塩でシンプルに行われる。
わが家の色々肉と色々豆のごった煮も、その
さて、さぞかしすっきりしたことだろうと、冷凍室を覗いてみたところ、たしかに整然とはしているが、隅の方に何やら肉と思しき小さな包みがいくつか残っている。どうも、何かの内臓のように思われる。
家人によれば、このような「怖い」ものを一緒に煮込むのはどうも躊躇されたのだそうだ。とことん素性の分からない肉は、購入した張本人である僕一人で食べ切ってもらいたいということらしい。
致し方あるまい。
これらは後日、僕の酒の肴にしつらえてもらうことになるのだろう。
それにしても、冷凍室のひきだしがするする開け閉めできるようになったことは、何よりも重畳である。
写真はTwitterに。
https://twitter.com/Surakaki_Hyoko/status/1580857088544079872
<了>
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