ヒマラヤ風

 昨日の関東地方は、上空の寒気の影響で非常に冷え込み、東京では最高気温が平年より十度強低く、十三度にしかならなかった。

 十月初旬のこのような低温は、何でも八十八年ぶりだという。

 暑がりの僕とっては、十月まで残暑が続く最近のいわゆる温暖化にはうんざりしていたので、このような気温はむしろ大歓迎なのだが、帰宅時間に横殴りの風雨となったのには閉口した。

 寒くなれば、温かい食べ物が欲しくなる。

 ということで、昨夜の夕食は、今季初めての鍋物となった。

 部屋着の方も、それまではTシャツ一枚に、ステテコ風の七分丈ズボンで過ごしていたのだが、長袖のトレーナー上下を出して貰った。


 さて、このエッセイの表題「ヒマラヤ風」を「ヒマラヤかぜ」と読んだ方がいらっしゃるやも知れぬが、さにあらず。これは「ヒマラヤふう」と読む。

 すなわち、ヒマラヤ風スパイス鍋に起因する。

 先日、家人がカルディでこの「ヒマラヤ風スパイス鍋の素」というのを見て、どんな味がするのかと興味津々で買って来たというのだが、著しく冷え込んだ昨日、早速それが出番となった。


 ヒマラヤ風ということから、僕は勝手にチベットを想像して、唐辛子や花椒の風味が利いた鍋なのだろうぐらいに思っていた。

 そこで、搾菜の炒め物や、紹興酒などを取り合わせてみたのだが、鍋からほんわか漂ってくる香りは、僕の想像にたがってカレーの風味である。スープの色も黄色い。スパイス鍋とあるが、香辛料の刺激はかなり抑え気味であり、非常に優しくしたスープカレーといった雰囲気。

 鍋の素のパッケージをひっくり返して原材料を見てみると、クミン粉末やウコン粉末などが書いてある。

 どうやら、この「ヒマラヤ風」というのは、ヒマラヤ山脈の北側に位置するチベット方面を指しているのではなく、南側のネパール方面のことなのだろう。


 当初の思惑からは外れたが、味は非常においしかった。

 具材としたのは、鶏肉や茸、キャベツ、韮、豆苗、トマトなど。

 トマトは、ミニトマトが丸ごと入っていたが、こういうものを鍋物に入れると危険である。案の定、少し歯をたててみると、皮が破れて中から猛烈に熱い果汁が噴き出してくる。もし、何の気なしにがぶりとやっていたら、口の中を火傷してしまうところだった。


 全般的に、野菜が美味しく煮える鍋で、どんどん食べられる。僕は試してみなかったのだが、家人によれば、シュレッドチーズと合せて食べるのも非常に美味しいらしい。

 食べているうちに、寒さもすっかり忘れ、うっすらと汗がにじんできた。

 これは堪らない。

 早々にトレーナーを脱ぎ捨て、いつものTシャツ一枚になってスパイス鍋を堪能した。


 鍋の写真はTwitterに。


 https://twitter.com/Surakaki_Hyoko/status/1578324177097936896





                         <了>











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