夏休み気分も尽きかけて色々ともの哀しく
今日八月十六日はお盆の最終日。僕は幸いにして、明日まで休みを取っているが、すでに仕事という人も少なくないだろう。
ちなみに、昨日、僕は仕事だった。
いずれにせよ、世間一般、夏休み気分は尽きかけており、残暑が凄まじい中、再び通勤生活が始まると思うと、うんざりする。
不惑なる年齢はとうの昔に過ぎ去り、知命どころか耳順の還暦も近付いているというのに、いつまで経っても、惑ってばかりで成長しない身は、甚だ残念である。
今年僕は、七月に帰省し、お盆の時期は帰らなかった。父の七回忌と弟の五十回忌を、父の命日に近い七月中旬の日曜日に実家で行ったためで、その法事に集まったのは、母、近くの町に住む父の妹である叔母夫婦、そして僕夫婦と妹の六名。
父も母も、戦前の生まれであり、その兄弟姉妹はそれぞれに片手を越える人数――まあ、昔はそれが当り前だった。
したがって、子供の頃、法事やら祝い事やらともなると、数十名から、多い時には百名ほどの規模で、実家や親戚の家などに、人々が集まることも少なくなかった。それを思えば、今回、父や弟の法事に六名しか参加しないというのは、随分寂しくなったものである。
伯叔父や伯叔母たちの中には他界した人もあり、寄る年波で体調が優れない人も少なくない。そもそも、僕ら子供世代自体が、世間一般からすると、すでに老境に差し掛かろうとする年代であるので、寂しいけれども、仕方がないと言えば仕方がない。
加えて、田舎は過疎が進み、近所にあったお寺も、後継ぎがなく、今年閉じてしまうことになったという。それで、今回の法事に見えたお坊さんは、近所のお寺からではなく、車でも二十分以上離れた場所にあるお寺の住職の方であった。
八月は地元の夏祭りもあるのだが、例年どんどん規模が縮小されているそうで、ここ数年はコロナ禍もあって、さらに拍車がかかっているとか。
それでも、祭りが実施されるとなると、地元住民は何かとやるべきことがあり、特に町内会の構成員の多くが、高齢で、さらに後期高齢者が多い――僕の母もそうである――となると、想像するだに大変そうに思われる。
ただ、そのような状況を、僕などがUターンすることで、何とかしようという気概は、申し訳ないが、どうしても湧いてこない。
田舎には、昔ながらの、親戚付き合い、近所付き合いなどの、義理に縛られた濃厚な世間が、年々薄れつつあるとは言っても、厳然と生き残っている。
しかし、僕は子供の頃から、人との関わり合いが苦手で、人付き合いはなるだけ避けて生きて行きたいというのが本音だった。特に、小学校の高学年から、中学あたりにかけては、その気持ちが強かった。
僕の家は食料品や雑貨品を売る店をやっていたのだが、その手伝いで店番など、お客さんの相手をするのが、どうにも厭で厭で仕方なかった。何とか逃げ出したかった。道で近所の人に会って挨拶を交すことすら苦痛に感じられ、外を出歩くこともはばかられる気持ちだった。
そうは言っても、引きこもりなどのように、人からの根本的な逃避を敢行するほどの勇気は無かった。そもそも、あの時代には「引きこもり」という言葉自体、存在しなかった。親も、僕の人嫌いの性格を十分に知ってはいたけれども、それを許すようなことは決して無く、何としても社交性を身につけさせようという態度だった。「そんなら、山の洞ででも生きて行くか?」とよく叱られた。
成人して、職に就いてからは、生活上、どうしても社会人としての付き合いが不可欠となったこともあってか、人嫌いの気持ちが少し薄らいでいた。特に、都会では、人付き合いと言っても淡白であり、田舎ほどの拘束がなかったことも、僕にとっては幸いだった。
ところが、六年前に父が他界し、自分の定年や老後の生活といったものが現実感を帯び始めたあたりから、人付き合いへの苦手意識が再び募ってきた。特に、田舎に見られるような人間関係への忌避感は非常に強い。幸い、数年前に越してきた賃貸住宅では、自治会のような組織にも入らなくていいので、随分助かってはいるのだが――
しかし、どうしても僕の根っこは田舎に連なっている。その脈絡を断ち切る事はできない。
田舎には、家もあり、墓もある。そこで一人暮らしをしている八十も半ばになる母や、同県内に住んでしばしば母の面倒を見てくれている妹もいる。それらのことを考えると、非常に申し訳なく後ろめたいのだが、僕はこうして都会に逃げている。
僕にも妹にも子供が無いこともあり、将来的には、母を送り、実家の家財や土地建物を処分し、墓じまいということもしなければならないだろう。父の他界以降、そうしたことの現実味が増しているのだが、手をこまねいたまま、何にも着手していない。
プライベートな案件だけでなく、ここ数年、気候変動などにより、「今まで経験したことがないような……」という怖ろし気な警告を毎年しばしば耳にするようになり、実際の自然災害も映像のみならず身近な所で目にするようになってきた。さらに、いつまでも続くコロナ禍や、日本周辺の不穏な国際情勢、経済力や技術力の斜陽、少子高齢化の加速、膨れ上がる政府(=国民)の借金等々、シビアな現実が目の前に突き付けられている。
このような、好ましからぬ因子の数々は、不安な僕の心理に一層の追い討ちをかけ、いよいよネガティブな情緒に誘導していく――
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今日は夏休みが尽きかけているということから、どんどんと話題が暗い方向に堕してきた。
読者諸賢には、その非礼を謝す。
ここら辺で擱筆し、昼酒でもあおって現実逃避をする所存である。
<了>
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