第9話 軽いお手伝い

 チャイムが鳴る、それと同時に、目を覚ました私は、皆と遅れて挨拶をする。

 もう、6時間目が終わったのか、清掃もないし、暇な私は、早紀の清掃が終わるまで、化学準備室に行くことにした、もちろんれんちゃんに会いに行くためだ。今日は友達にお菓子を作ったから、れんちゃんにもあげようと思って、持って行く。

 化学準備室に着いたものの、鍵がかかっている。どうやら今はいないようだ。しかし、早紀は人がいいため、清掃はいつも最後まで綺麗に行うからしばらく時間がある。


「どうしたものか、ここで待つのも変だし、早紀のとこ行くしかないか」


 れんちゃんに会うのを諦めて、帰ろうと足を動かした矢先、階段から、ゾンビのようなうめき声が聞こえる。おそるおそる、上から覗き込んでみるとそこには、大きなダンボールに押し潰されそうになっている、れんちゃんが居た。慌てて駆けつける。


「れんちゃん、大丈夫?手伝おうか?」


「た、頼む、限界だ……」


 なんとか、手分けしてダンボールを化学準備室まで運ぶことにした。れんちゃんは、最後の小さめのダンボールでさえ、私より遅かった、やっぱり、運動不足が祟っているのだろう、全部運び終わって準備室にダンボールを入れ始めた、ついでに、私も中に入ることを許された、れんちゃんは、急いでダンボールを中に入れて、一息つく。


「ねぇ、れんちゃん、階段上がるだけでも死にそうになるのに、あんなに重い荷物一人で持って来れると思ったの?」


「当たり前だろ、こう見えても立派な大人だし、あれぐらい本来なら、余裕だった」


 本来って、いつやっても同じだと思うのだが。


「ほんとですかー?ちょっと心配です、今回は、わたしが近くに居たから大丈夫だったけど、居なかったら危なかったよー?」


「全然大丈夫だよ、優しいんだね加奈ちゃん、ありがと」


 そういって、れんちゃんは、私に、ニコッて笑う、あぁ、大丈夫って、軽いなー。


「あ、あの、怪我とかされると困るから、気を付けてくださいね」


 そういって、そろそろ、掃除が終わったであろう、早紀を迎えに行くために、化学準備室のドアに手をかけて、出ようとする。そのとき、先生が私の手を引っ張る。


「加奈さん、あの」


 え、なんかいい感じの雰囲気になってる、これ、ワンチャンある?


「これ、手伝ってくれた時、落としたよ、うっかりしないで」


 そう言う、れんちゃんの手には、私が作ったクッキーが握られていた。


「ふふ、先生、まさか、最後遅れてきたの、これ拾ったからですか?」


「そうだけど、そんなことより、これ、早紀さんとか、誰かに渡すのでしょ、忘れてくと、俺食べるよ?」


 やっぱり、軽いけど軽いだけじゃなくて、いっぱいいいとこもあるんだ、そんな軽井先生が私は好きなんだ。


「ううん、これは、先生にあげる、落としちゃったのなんて早紀に渡せないよー、拾ってくれたれんちゃんに、特別にあげます!それじゃ、早紀が待ってるから、もう行くね」


 逃げるように化学準備室を出た、言えなかったけどそれ、先生のために作ったんだよ。いつか、ちゃんと言って渡すね。



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軽井先生は軽いだけじゃない。 しのののめ @Rainn_

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