第52話

 ある日、父親がベティに言った。

「クライド様が風邪を引いたそうだ」

「え!? クライド様が!?」

 ベティは慌てた。

「それでは、お見舞いに行かなくては。……いえ、休んでいるところにお邪魔をするわけにはいきませんわね……」

 

 ベティは悩んだ末に、お見舞いの品をロージーに届けて貰うことにした。

「ロージー、私は今からマーマレードを作ります。午後には出来ると思いますので、クライド様にお届けするようお願いできますか?」

「分かりました、ベティ様」


 ベティはいくつかのオレンジを洗い、ママレードを作った。

 出来たての熱いママレードを瓶に入れ、蓋をする。

「ママレードと、この手紙をクライド様に届けて下さいませ」

 ベティは手紙に、クライドの病気の具合を心配していること、ゆっくり休んで欲しいこと、ママレードは熱い紅茶に入れて飲むと風邪に効くと聞いたことを書いていた。


「分かりました。それではお昼の食事が終わった頃には、クライド様にお渡し出来るようにします」

「ありがとう、ロージー」

 ベティはロージーが出かけると、ソワソワとしたまま部屋でクライドのことを考えていた。「クライド様が風邪を引かれるなんて珍しいですわね。何かあったのでしょうか?」


 しばらくしてロージーが戻ってきた。

「ただいま帰りました。ベティ様。クライド様からお手紙を預かってきました」

「ありがとうロージー。クライド様のご様子はいかがでした?」

 ロージーは首をかしげたまま、申し訳なさそうに答えた。

「コールマン家のメイド長に、ママレードと手紙を渡して欲しいと伝えたので実際にはお会い出来ていません。手紙は執事の方から受け取りました」

「そうでしたの。ロージー、分かりました」


 ベティはロージーから受け取った手紙を急いで開けた。

 中には、風邪は大したことが無いことと、ママレードに対するお礼、早く良くなってベティに会いたいと言った内容が書かれていた。

 ベティは頬を少し赤く染めて、ロージーに言った。

「クライド様、大したことは無いそうですわ。少し安心できましたわ」

「良かったですね、ベティ様」


 ベティはクライドからの手紙をしまいに、自室に戻った。

「クライド様、早く良くなってくださいませ」

 ベティはクライドの手紙をそっと胸に押し当てた。

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