第51話

 マドレーヌを焼いてから、数日後。


 ベティは家族とロージーと一緒に夜のミサに出かけた。

「ベティ様、先日はありがとうございました」

「まあ、バーニー。こんばんは。こちらこそ楽しい時間を過ごせて良かったですわ」

 バーニーとベティが親しげに離しているのを見て、フローレス男爵は渋い顔をした。


「ベティ、バーニーと何かしたのかい?」

「ええ、お父様。先日、家に招待して一緒にマドレーヌを焼きましたの」

「はい、お邪魔させていただいた上、沢山のお土産までいただきました。ありがとうございました」

 バーニーの言葉に、フローレス男爵は眉をひそめた。


「ベティ様のおかげで、皆もライラ様も喜んでいました」

 フローレス夫人も困ったような顔をしている。

 バーニーが挨拶を終え去って行った後、フローレス男爵はベティに言った。

「ベティ、話があります」

「何でしょう? お父様」


「孤児達と仲良くするのはおやめなさい。彼らとは住む世界が違うのです」

 ベティは父親から注意されたことに驚いた。

「そうですよ、お父様の言うとおりです、ベティ。世間の目も気にして下さい」

「お母様……申し訳ありませんでした」


 ベティは心の中では納得出来なかったが、両親の言うことを聞くことにした。

「バーニーさん、皆さん、申し訳ありません……」

 ベティがうなだれていると、クライドが現れた。

「こんばんは、ベティ様。どうしましたか? 元気が無いようですが」

「こんばんは、クライド様。実はお父様とお母様から、孤児達を家に呼んだことを咎められましたの」

 クライドは困ったような表情で微笑んだ。


「それは仕方の無いことですね。ベティ様は孤児達を構い過ぎますから」

「でも、バーニーさんとライラさんには幸せになって欲しいと思ってしまいますし、他の皆さんも楽しんだり、喜んだりして下さったら嬉しいと思ってしまいますわ」

 クライドは少し悲しそうな表情で首を横に振った。

「彼らには、彼らの生活があります。私たちとは違う世界に生きているのです」


「……お父様達にも同じ事を言われましたわ」

 ベティはため息を着いて、俯いた。

「さあ、元気を出して下さい、ベティ様。ミサが始まりますよ?」

「……そうですわね」

 クライドとベティは腕を組んで歩き、隅の席に座った。

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