第17話

 雨が降っていた。

 ベティは特に用事も無かったので、図書館に出かけることにした。

「それでは行ってきます」

「気をつけるのですよ、ベティ」


 ベティは町の中央にある、大きな図書館に着くと、料理の本を探し始めた。

「あら、ベティ様? こんなところで会うなんて奇遇ですわね」

「オーレリア様、お久しぶりです」

 ベティに声をかけたのは噂好きで有名なフィールズ男爵の令嬢、オーレリア・フィールズだった。


「カール様から酷い振られ方をしたそうですわね」

「酷いかどうかはわかりませんが、婚約破棄を申し渡されましたわ」

 オーレリアは少し大げさに、悲しそうな表情を浮かべて言った。

「まあ、お気の毒ですわ」


 そのとき、司書がふたりに声をかけた。

「図書館ではお静かに」

「申し訳ありません」

 ベティは小さな声で謝った。


「それではカフェにでも行きませんか?」

 オーレリアはベティをカフェに誘った。

 ベティは気乗りしない部分もあったが、大人しくオーレリアについて行くことにした。


 カフェに着くとオーレリアはケーキと紅茶を、ベティはコーヒーとチョコレートを頼んだ。

「それで、クライド様とはどうですか?」

 オーレリアは興味津々といった様子でベティに訊ねた。

「どうって、普通に一緒に遊びに行ったり舞踏会に行ったりしております」


 ベティの素直な答えに、オーレリアはウンウンと頷いた。

「そうですか。カール様よりも気が合いそうですか?」

「そうですね……比べてはおりませんけれども、クライド様は優しいですわ」

 オーレリアはそれを聞いて、驚いた。


「クライド様が優しい!? 氷の貴公子と呼ばれている、あのクライド様ですよね!?」

 ベティは初めて聞くクライドのあだ名に苦笑した。

「確かに、冷たい目をされることもありますけれども、優しい方ですわ」

「ベティ様、だまされてはいけませんわ。カール様の時もそうでしたけれども、ベティ様は他人を良く捉えすぎですわ」


 オーレリアはため息をついてから、ケーキを食べ、紅茶を飲んだ。

 ベティもコーヒーを飲み、チョコレートをかじった。

「それにしても、ベティ様も男運は無いようですわね」

 ベティはその言葉に目を丸くした。

「クライド様は素敵な方ですわ」


「まあ、ごちそうさま」

 オーレリアは両手を挙げて、にっこりと笑った。

 その後はふたりで、たわいない話をして別れた。


「クライド様はずいぶん誤解されているようですわ」

 ベティはひとりになった帰り道で、誰にも聞こえない声で呟いた。

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