第16話

「あら、明日は収穫祭ですわね」

 ベティはカレンダーを見て、呟いた。

「せっかくですからクライド様を誘って、町に出かけましょう」

 そう言うとベティはクライド宛に手紙を書いて、召使いに届けるよう依頼した。


 翌日、コートを来たクライドが、ベティの屋敷にやって来た。

「おはようございます、ベティ様」

「おはようございます、クライド様」

 ベティは歩きやすい靴を履いて、汚れても構わないドレスを着ていた。


「それでは早速、町の広場に向かいましょうか」

「そう致しましょう」

 二人は街の広場に歩いて行った。


 広場には多くの人が集まり、大きな鍋で野菜のスープを作ったり、豚の丸焼きを作ったり、パンにエールやビールを用意したりと大騒ぎだった。

「あら、ベティ様に・・・・・・コールマン様!?」


 村人がざわついた。

 クライドがこのような催しに顔を出すのは大変珍しかったからだ。

「こんにちは、皆様。今日はお祭りですわね。日々のお仕事、大変ご苦労様です」

 ベティは村人達に挨拶した。


「いやあ、ベティ様にはお世話になってるし、コールマン様も一緒に楽しんで下さい」

 ベティはクライドに、お礼を言うよう促した。

「・・・・・・ありがとう」

 クライドは農民にお礼を言うなど考えたこともなかったが、ベティに従ってみた。


「よかったら、貴族様も俺たちのご馳走を食べてみるかい?」

「遠慮する・・・・・・」

 クライドが断りきる前に、ベティが返事をした

「頂きますわ!」


「ほいよ! 出来たてで熱いから気をつけて!」

 農民のおかみさんが出来たての野菜スープをベティとクライドに渡した。

 クライドは匂いを嗅いだ。良い匂いがしている。


「貴族が土の野菜を食べるのは・・・・・・」

 クライドが躊躇している脇で、ベティは遠慮無くスープに口をつけていた。

「美味しい! クライド様も冷める前に食べて見て下さいませ」

 ベティが微笑んでそう言うと、クライドは覚悟を決めてスープを一口飲んだ。


「・・・・・・美味しい」

 クライドが呟くと、得意げに農民の一人がクライドとベティに言った。

「でしょう! このおかみさんのスープは村一番の美味しさだよ!」

 

「パンとビールもあるし、豚肉もよかったら食べて行ってよ!」

 農民達も並べたご馳走を食べながら歌ったり踊ったりしている。 

 ベティとクライドは、豚肉やビールを食しながら微笑んだ。


「この町は平和で良い町だよ。犯罪に厳しいクライド様のおかげだよ!」

 酔っ払った農民がクライドの肩に手をかけた。

 クライドも、いつもならその手を払いのけ怒鳴りつけるところだったが、ベティの手前大人しくしていた。


「それではこの辺で失礼致します」

 クライドは農民達の宴から、身を引くことにした。

「私もお屋敷に帰りますわ」

 ベティも帰り支度を始めた。


「クライド様、楽しかったですね。収穫祭」

 ベティはにっこりと笑って、クライドの手を取った。

「そうですね」

 二人は手をつないで、ベティの屋敷の方へ歩いて行った。


 広場からはまだ歓声が響いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る