第11話

 ある日、ベティが目を覚ますと来客があった。


「お母様、誰がいらっしゃってるんですか?」

「コールマン子爵よ」

 応接室から、父親とコールマン子爵の話し声が聞こえる。


「ですから私としても、助けるにあたってフローレス家に迷惑がかからないかを心配しております」

「でしたら、問題はありません」

 ベティには何の話か分からなかった。


 ベティは部屋に戻り着替えると庭に出た。そこには、クライドの姿があった。

「まあ、クライド様。おはようございます」

「おはよう、ベティ様」


 クライドはにっこりと微笑むと、ベティの傍に歩み寄った。

「先日はメリーゴーランド、楽しかったですわ」

「それは良かったです」


「今日はどうしたのですか?」

 ベティが首をかしげると、クライドは難しい顔をした。

「実は、コールマン家に、カール・ヘザートンの小作人が助けを求めて逃げてきたんです」

「まあ」


 ベティは困った顔をした。あのカールなら、きっと厳しい税金を納めさせていたに違いないと思ったからだった。

「父上が、領地の近いヘザートン家に迷惑がかからないよう手続きを進めている所です」

「そうでしたか。逃げ出してきたのは一人だけですか?」


 クライドはため息をつきながら言った。

「ええ、今のところは」

「カール様も厳しい方ですから、あまり大事にならなければ良いのですが」

 ベティもため息をついた。


「ベティ様が心配することはありませんよ」

 クライドはベティの頬に手を当てて微笑んだ。

 ベティは赤くなって俯いている。


「カール様も子爵様を相手に無茶はしないと思いますが、気をつけて下さいませ」

 ベティは、カールの冷たい目を思い出して、少し震えた。

「大丈夫ですよ。カール様も愚かではないでしょうから」

 クライドはやさしく笑った。

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