第9話

「クライド様、もうこの辺で大丈夫ですわ」

「いえ、何かあったら大変ですからお屋敷までお送り致します」

 ベティとクライドは手を取り合ったまま、フローレス家まで歩いて行った。


 屋敷に着くと、ベティはお辞儀をした。

「ありがとうございました。クライド様」

「ベティ様、カール様から何かされたら必ず私に言ってくださいね」

「はい」

 

 クライドは別れを告げると、名残惜しそうに何度か振り返りながらコールマン家へ帰って行った。

「ああ、緊張した」


 ベティは先ほどまでつないでいた手を見つめた。

「大きい手でしたわね」

 ベティはふぅっと大きなため息をついた。


「お父様、お母様、帰りました」

「お帰り、ベティ」

 ベティが部屋着に着替えると、父親が声をかけた。


「ベティ、来週末は広場にメリーゴーランドが来るそうだよ」

「まあ、お父様。私、もうそんなに子どもじゃ有りませんわ」

 ベティはそう言いつつも、クライドを誘って遊びに行きたいと思っていた。


「クライド様と一緒に行ってきてはいかが?」

 母親の声に、ベティは真っ赤になって首を振った。

「私なんかがクライド様を誘うなんて、恐れ多いですわ」

「そんなことありませんよ」


「わ、私用事を思い出しましたわ」

 ベティはそう言って、自分の部屋に駆け上がった。


 部屋に入ると、ベティは青いインクと薄水色の紙を取り出し、クライドに手紙を書いた。<来週、広場にメリーゴーラウンドが来るそうです。見に行きませんか? ベティ>

 ベティは使用人を呼び、クライドへの手紙をコールマン家に届けるように頼んだ。


「クライド様、来て下さるかしら」

 ベティは一輪だけ部屋に飾っていた、マーガレットの花に話しかけた。

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