第4話 自作自演

「え、ああああああの、お邪魔しますぅ……」


 俺は、なるたんに強く引っ張られて、なるたんの部屋まで来てしまった。思わぬ急展開に嬉しすぎて、これは夢かとまだ思ってしまっているところがあるが、先ほどの痛みを思い出すと現実だ。つまり、俺は、国民的スターの推しの家に今いるのだ。そして、腕まで引っ張ってもらってしまった。触られた。やばい。

 いや、にやけるのはまだ早い。このままだと俺はストーカーと勘違いされたまま、刑務所行きになりかねない。まずい状況だ。早く説明し……。



「あれ、そのパーカー……、帽子……って、あれ?」



 俺はなるたんの服装を見つめ、今日の目的を思い出す。


「って……な、なるたんなんだよな」

「なによ」

「いや、俺が殴りたいなるたんをいじめる奴は、今なるたんが着ている服だし、その帽子……被っているはず……俺は犯人のアカウントを特定したんだ!だから、今朝の投稿と同じ格好の奴だ犯人。あれ?どういうことだ?えっと、待てよ……たまたま?」


 目の前には、朝見た画像のパーカーと帽子を身に着けたなるたんがいた。


「あんた怖っ!どういうルートでここにいるって特定したわけ!?」


 俺は思考回路がよくわからなくなっていると、国民的スターは「はあ……」と漏らした後、冷たい目線を俺に送りながら、衝撃の一言を放った。


「ねえ、あのさ、悪口書いてるの私だから」

「えっと?え?えっと?俺は、悪口書いてるやつを殴りに来たのだけど」

「だから、それ私」

「え?」

「私は私に悪口書いてんの」

「え?は!?」


「私が炎上させてんの!!」


 何を言っているんだ。意味が分からない。何が起こっているんだ。


「いや、俺はなるたんの悲しい顔が見たくなくてここにとりあえず来た、そして、なるたんは言った……私が悪口書いている……えっと、私は私に書いている……?え?」

 なるたんは超清楚美人綺麗癒し可愛いスーパー心清らか少女、友井奈留ともいなるじゃないか。十七歳の可愛くて素敵な高校生。そんななるたんが……。


「じじじじじ、つまり、じ、自作自演!?」

「そういうこと!」


 なんてことだ、俺が追っていた犯人がなるたんだと!?俺はなるたんに会えた!いや、違う。喜んでいる場合か。まてよ、さっきから話し方とか、いつものなるたんと違くないか?なんかいつもの、癒し感もまったくもってないぞ。


「さては、なるたんじゃないな!お前犯人だな!」


 そう俺が叫ぶと、急に涙目になり、俺の知っているなるたんに変化した。


「ひ、ひどいぃ。ま、マネージャーさんに助けを求めなきゃ……な、なるないちゃうっううううう」


「うっぐっ、なるたんだ」


 俺はショックを受けている。これがモノホンのなるたんなのだろうか。なんだか怖い。


「本物ですけど……なんですかその顔」

「キャ、キャラ違いすぎて……え、えええ」

「だいたいあんたら、私を持ち上げすぎなのよ!清楚だの、ピュアだの、疲れたって!まあ、でもそれで有名になれるならいいんだけれど」


 俺はなるたんに会えたことに、天国へ行けてしまうくらい嬉しくおかしくなりそうなのに、なんだろう、この地獄へ行きたくなる気持ちは。


「あのね、自作自演なの。本気にならないでよ。ほんとファンって怖いわ。私は話題になって注目を集めたいのよ!」


「嘘だ……嘘だあああああ」


「うるさいわね。あのね、これから、もっとわざととんでもないことをするんだから!事務所もノリノリで承諾済みよ!」


 俺はまだ心の整理が出来ていない。ごちゃごちゃになってしまっている。確かに、最近、炎上により知名度を上げているアイドルは多いが、まさかそんな目的で……こんなことをしているなんて。


 いや、待てよ。冷静になれ俺。よく考えろ。よく考えればいいじゃないか。いいんだ。いいんだ!俺はなるたんを一生愛すと誓ったのだ。こんなことでへこたれている場合ではない。推しがどんなであろうと、ファンでいる。それが本当のファン。



 どんなときも、応援する。どんなときも。そう誓ったんだ。



 みんな表ではあんな顔して、わからないのがスターというものだ。それを知らなかったわけではない。


「ど、どんなでも応援してますからああ!」


「忙しいわねあんた、ファンってこわっ頭の中どうなってんのよ」


 精一杯の笑顔で俺は叫んだが、なるたんは未だに目が怖い。


 でもいい。俺は今日、生でなるたんに会えたことがとにかく嬉しい。発狂しそうだ。


 例え、俺の想像とは違っても、会えるわけない推しに会えたのだからいいのではないか。

 てか、近所なだけですごいし。触られたし、喋ったし。やばい、ふふ。


 そんで、自作自演なら、犯人はいないわけで、なるたんは傷ついてないのだから、良かったんだ。


 俺はだんだんと安心してきて、なるたんが近くにいる幸せを増やす。よく考えれば、今日は良い日ではないか。もう、死んでも良いくらいだろう。テレビの世界から離れたブラックなるたんを知ってしまったわけだが、そんなの受け止めて生きるのがファンだ。


 いや、ブラックなるたんは、俺だけが知っている秘密か!?なんだかにやけちゃうな。ふふふふふふふふ。


 そう、気持ち悪い顔で忙しく考えていると、なるたんは俺にまたとんでもない一言を放ちだす。


「ねえ、明日。デートしなさい」

「え?デート?誰と?」

「私とよ!」

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