第24話

「アンジェリン、開けてよ?ねー、テレビを見ようよー?どうせ又ルームメイト、いないんでしょう?だったらテレビを一緒に見ようよ〜?」                「テレビ?」              「うん、テレビ!!テレビを見よう?!」 アンジェリンはバスルームのドアを開けた。何故そうしたのか?又襲われたらどうしようと思わなかったのか?          時間はもう遅かった。外はもう暗い。   だがアンジェリンはそれでもドアを開けた。                  もしかしたらそれがこの化け狐の凄さだったのかもしれない?悪霊になってしまった哀れな狐の。それとも、アンジェリンは何とか 自分でケリをつけようとしたのか?    ドアが開くと千鶴子が嬉しそうに入って  来た。                 「良かった〜。じゃあアンジェリン、テレビを見ようよ!」             アンジェリンがテレビを付ける。     アンジェリンがキャリーのベッドに座ると 千鶴子も少し離れて、横に座った。二人は テレビを見始めた。           アンジェリンは用心しながら見ていたが、 千鶴子は別に何もする素振りはなかった。 時間はもう夜になっていた。       すると千鶴子が、お腹が空いたと言い出した。そして、出前のピザを食べないかと提案してきた。割り勘で一枚、ラージサイズを 注文しないかと。            アンジェリンは別にお腹は空いていなかったし、食後に何かを食べる習慣がなかった。 晩御飯をしっかり食べたらもう間食をしない。いつもそうだった。だから断った。  千鶴子は持ち前のしつこさで、どうしても 注文しようと食い下がった。最後には、自分だけでも食べるから電話で注文してくれないかと持ちかけた。自分は英語で注文できないからと。                アンジェリンは根負けして電話をかけるのを承諾した。千鶴子は急いで自分の部屋から、よくドームの外のドアノブに、ピザ屋が勝手にかけるピザ屋のチラシを持って来た。  その番号を見て、アンジェリンは寮の外に 備え付けられた公衆電話からピザ屋に電話をかけた。安めのピザのラージサイズを注文した。                  しばらくするとピザ屋がピザを持って来た。結果アンジェリンも半分代金を払ったが、 二人は熱々のピザを食べながら映画を   見た。                 そしてたまたまターザン映画をやっていた。うんと古い、昔のやつだ。        それを見ながら、そのターザンの話をしたりして、見終わると千鶴子は大人しく戻って 行った。                ピザは少し余ったからこれを明日の朝御飯に食べよう、食堂に行く前にこれも食べようと言って千鶴子は持ち帰った。       朝にはアンジェリンの分も渡すから、又  バスルームのドアを開けておいてくれと何度も頼んで。いらないと言っても千鶴子はしつこくそう言いながら持ち帰った。     正直、その夜はつまらなくなかった。最初は用心していたがそのうち、映画を見ている うちに、アンジェリンは段々と千鶴子が平気になってきた。             そしてこの夜の映画はその日から一週間近く、毎日、過去の何本かのターザンシリーズを上映すると言う事だった。番組の途中や 終わった後に何度もそう宣伝していた。  だから朝になり、出る身支度をしていると 千鶴子にしつこくバスルーム越しに呼ばれた。ドアを開けると、千鶴子がピザを頬張りながらその箱を持って入って来た。そして アンジェリンの机に乗せた。       「はい、これ!アンジェリンの分。食べちゃってね?箱はアンジェリンが後で捨てておいてね?」                アンジェリンがいらないと言ってもしつこいからそれを取って食べていると、千鶴子は シャワーを浴びるといって部屋ヘ戻った。 アンジェリンはピザを急いで食べ終えてから寮を出た。               その夜、又千鶴子がドアをノックして、昨夜の様に又映画を見ようと言って来た。又ターザンをやる筈だからと言って。      そうして又アンジェリンの部屋に入り、ターザン映画を見た。            千鶴子は後から又お腹が空くだろうからと 言った。だから映画が始まる前に、中断されない様に、初めにピザを注文しようと言うのでアンジェリンも同意した。       アンジェリンはピザを嫌いではなかったが、小さな頃は見た目が酷く気持ちが悪いと思っていた。                ゲロを丸い形にして固めた物の様で、一番 最初に食べた時には恐くて目をつむりながら、恐怖と戦いながら必死に我慢して、口に入れた。                だが噛んだ瞬間、その美味に驚いた!だが それでも、そのグロテスクで見た目の汚さや気持ち悪さに、(子供時代や、この話の当時は凄くそう思っていた!!今は違うが。) 滅多に食べなかったし食べたいとは思わなかった。                  だが久し振りに食べたピサの味が意外と美味しくて、彼女は千鶴子に逆らわずに、又電話をかけて注文した。           そして又、ターザン映画を見ながらそれを 食べて、何か楽しいとさえ感じた。    こうして千鶴子はほぼ毎日、このターザン シリーズが終わるまで部屋へ来た。そして ピサとコーラを飲みながら一緒に映画を  見る。                 だが選抜されて毎日やっていたターザン映画もついに終わりの時が来た。       その日は何故か千鶴子はピザを注文したいと言わなかった。アンジェリンが不思議に  思い、聞いてみてもろくに返事をしなかった。                  その日は、ピザ無しで映画を見た。そして習慣化していた為か、アンジェリンは少し物足りなさを感じた。ピザを食べてコーラを飲みながら見たいな、と少し思った位だ。   その時のアンジェリンには分からなかったが、これは千鶴子がアンジェリンをてなずける為にした行為だったのだ。       アンジェリンと仲良くなる、又はそうした ふりをする。そうすればサンタモニカヘ行っても、ホームステイをしていて学校から真っ直ぐに戻らなくてはならなくても、その学校で友達ができなくても、アンジェリンがいる。アンジェリンヘ手紙を出したり、家の人に話して遊びに来らせたりできる。    現にそうした事になった。それについても色々と又出て来るので話す事になるが。  それと学校で行く、サンディエゴへの一泊 旅行だ。これには自由行動が3時間位あった。                  千鶴子がいたBクラスは皆、殆ど英語ができない。多少できても話せない。だから自由行動の時に自分のクラスの人間達だけだと余り楽しめない。だかアンジェリンが側にいれば何も困らない。             千鶴子は多分そんな風に考えたのだろう。 ずる賢い化け狐さながらに。

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