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先輩方は一足先に帰ってしまい、作業所には俺だけがいる。
夜の六時まで、もう少しの辛抱だ。あとは道具の片付けだけ済ませてしまえば良いだろう。
売場を見る気はもう無い。
本当ならば、欠品が出ないように補充をしなければならないが、もうそんなことはどうでも良かった。
「六時きっかりに帰りたい」
俺の頭にはそれしかなかった。
何回も時計を見る。まだ六時にはならない。もう少しだというのに、あと数分が長い。
「時間が気になって仕事が手につかないのだから、もう帰ってやろうか。いや、流石に早退するのは色々とマズイのではないか」
そんなことを堂々巡りに考えた果て、待望の六時となった。
そのタイミングを見計らったかのように、レジから果物チェックのアナウンスがあったが、俺はだらしない男なので、さっさと失礼することにした。
早くこんな所からトンズラしたかった。
足早に駐車場へと向かい、車のエンジンをかけてアクセルを踏む。
長い一日がようやく終わったのだ。
車中で、俺は今日一日を振り返った。上司に存在を否定され、客に罵られ、同期に蔑まれと、全く以て凄惨な一日で、
俺の心はズタボロだ。
まだ社会人一年目だというのにこの有様で、俺は果たして定年まで働き続けられるのだろうか。肝を嘗めながら老いて死ぬだけの人生なのだろうか。
そもそも、俺はこんな社会で生きていけるのだろうか。
将来が見通せない。漠然とした不安がモヤのように視界を遮っている。
それを払おうと思考の手を振り回しても、モヤが晴れることは無い。
ただ疲れていくだけだった。
人生の気だるさを感じる。果たして、こんなものに意味などあるのだろうか。
その時、運転する車の前方で、踏切のランプが赤く光出した。
もうすぐ左手から三両編成の電車が来るのだ。
踏切前で停車すると、すぐに電車の存在が確認できた。
電車は緩やかにカーブしながら近づいてくる。その光はあまりにも眩く、近づくにつれて、廃れた俺の心を次第に強く引き寄せてくる。
「死んだら、楽になるのかな」
電車が間近に迫った時、死という言葉が降って湧いた。
俺は光に吸い込まれるように、アクセルを踏んでいた。
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