ゲンテンのコレカラ
5
今リビングにいるのは、フレデリック・ロバタ、シネマ、パイプリップ、そしてボクの四人だった。
「今ここに住んでるのはこの三人だけ。今日からゲンテンを入れて四人ね」
パイプリップはそう言って料理を運んできた。夕飯の時間だ。まだぷくぷくと湯気を立てているグラタン、四人分のグラスと白ワイン、そして山盛りの唐揚げ。山のように盛られた唐揚げの頂上にアジの唐揚げが突き刺さって天井を見つめていた。
「今日は唐揚げだけのつもりだったけど、ゲンテンの歓迎パーティだからグラタンも作ったわ」
そう言ってパイプリップが席に着く。そしてみんなで手を合わせて言った。
「いただきます」
ボクは非常に緊張していた。目の前に元魔王と、魔王の力を封印できる謎の魔法使いがいる。パイプリップの人生も相当中身の詰まった人生だろうけど、この二人のインパクトに比べてしまうとさすがに薄れてきちゃうな。
「あ、というか何も考えずに用意しちゃったけど、ゲンテンって未成年じゃないわよね?」
「え。ああ、どうなんだろうね。自分の年齢とか数えたことがないから分かんないや」
「自分の年齢を数えたことがない? そんなことあるの?」
「ボクがいたところは世間の常識とはかけ離れた異質なところでね」
「……ふーん」
パイプリップがボクを見つめてくる。たぶんパイプリップは頭の中でこう叫んでいるだろう。
「あー! ゲンテンの過去が気になる! でもルールがあるし……。クソォ~!」
うん。十中八九これだ。ボクを見つめるパイプリップの目がフルフルと震えているので、ボクはパイプリップを見てクスリと笑ってやった。するとパイプリップは口角を震わせて悔しそうに唐揚げを頬張った。
シネマが白ワインを揺らしながらボクを見た。
「ゲンテンは何かこれからの予定とかあるのかい」
ボクのこれからの予定か。
これから。
コレカラ。
コレカラの事なんて、考えたことなかったな。これが自由か。
「まだ何も決めてません。皆さんはいつも何をしているんですか?」
ボクがこれからを楽しむ参考になるかと思って、そんな質問をしてみた。
「魔法の開発」とシネマ。
「家事」とパイプリップ。
「膝を抱えている」と、小さな声でフレデリック・ロバタ。
シネマとパイプリップはとても参考になる。何かの研究は楽しそうだ。ボクも何かしら気になることを見つけて研究してみるのも良いかもしれない。家事も良い。お菓子とか自分で作れたら楽しそうだな。
……でも、元魔王、君はどうしたんだ。
「……膝を、抱えているんですか?」と聞くと、フレデリック・ロバタはまた小さな声で言った。
「今の私にできることなど、何もない」
テーブルに重い空気が流れる気がした。しかしシネマもパイプリップも慣れているのか普通に笑っていた。
「やはは。ロバタは可哀想だねえ」
「何もできなくはないでしょ。明日は私の家事を手伝ってくれてもいいのよ」
フレデリック・ロバタは二人の言葉に返事をせず、黙々と唐揚げを口に含み続けた。
「まあ、やりたいことを無理に見つける必要はない。ただボーっと暮らすことだって、立派な人生だ」
シネマはそう言って白ワインを口に含んだ。
「明日はこの街を探検してみたらどう? この街には世界中のあらゆるものがあるから、見ているだけでも楽しいわよ」
パイプリップがそう言った。
そうだな。明日はこの街を探検してみようか。それも人間らしくゆっくり歩いて。その後のことはその時に考えよう。
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