第221話 2ndステージ
「ここは……」
「パッとみ、神殿の中かにゃ?」
高麗靖史の命と引き換えに1stステージをクリアした冒険者達が進んだ先の2ndステージは、神殿のような場所だった。
ゲームのラスボスが待ち構えているような荘厳な神殿の中。
そこが、2ndステージの舞台だった。
「今度はいったいどんな敵や仕掛けが出てくるのか」
「さぁな、魔王でも出てくるんじゃねえか」
風間の呟きに刹那が反応する。
1stステージでは初見殺しのギミックが仕組まれていた。恐らく今回も、冒険者にとって厳しい試練が待ち受けているだろう。
そう考えていると、コツコツ……と奥の方から床を踏む音が聞こえてきた。
「カッカッカ! ようやく来たか冒険者共。待ちくたびれちまったぜ」
「お前は!?」
「まさか……バグ!?」
「カッカッカ! 久しぶりだなぁ、元気にしてたかよ」
独特な嗤い声と共に登場したのは、カースシリーズの武器を冒険者に渡し、ダンジョン病を振り撒いたバグだった。
士郎達や多くの冒険者、それとスレ民の協力によって
にも関わらずこの場面で現れたということは――、
「あなたが2ndステージの相手ってことかしら?」
「ご名答。まさかこんなに早く復活させられるとは思っちゃいなかったが、創造主様の頼みとなりゃ俺が直々にテメエ等をぶっ殺してやるよ」
ピクルス:誰こいつ?
カツオ:冒険者達は知ってるみたいだけど…
TN:うわぁ、またこいつかよ!
ベッキーが尋ねると、バグはパチパチと拍手した。
不気味に嗤う男の存在にコメント欄に疑問の声が上がるが、中には既にバグを知っていてウンザリしている者もいる。
それは士郎達も同じ気持ちだった。バグが厄介なのは実際戦った自分達がよく知っている。トリッキーな戦い方をしてくる奴との戦いは一筋縄ではいかないだろう。
『困ったものだ、2ndステージをスタートする前に勝手に現れてしまったみたいだね。まあそれも一興か。さて冒険者の諸君、今回のステージは一度にチャレンジできる人数は三人だ。さぁ、2ndステージにチャレンジする冒険者を選んでくれたまえ』
「三人か」
「さて、誰が行く?」
エスパスからのアナウンスにより、チャレンジできる人数が三人と判明した。冒険者の残りは14人。この中から2ndステージにチャレンジする三人を話し合おうとするが、相談を遮るようにバグが耳をかっぽじりながら聞いてくる。
「あらあら? そういやあのハゲたおっさんの姿が見かけらんねぇけどどこにいるんだ?」
「「……」」
「あ~! 悪い悪い、そういや前のステージで死んじまったんだったっけな! 残念だな~、俺があのおっさんをぶっ殺してやろうと思ったのによ~カッカッカ!」
「お前ッ!」
「来いよ勇者。テメエにやられた借りを返させろや」
靖史を貶して煽ってくるバグに青筋を立てる士郎。我を忘れて今にも飛び出しそうな彼を止めたのは御門亜里沙だった。
「待つんだシロー君。あんな安い挑発に乗ることはないよ」
「けど、あいつはやっさんを!」
「ガキじゃあるめぇしギャーギャー喚くんじゃねぇ。ちったぁ頭冷やせや」
「……信楽さん」
感情的になっている士郎を叱咤したのは信楽奉斎だった。怒りで興奮している士郎も、年長者である信楽の言葉が届いたのか一度冷静になる。そんな彼の肩をポンと優しく叩いたのはベッキーだった。
「そうよシローちゃん。ガッキーの言う通り、怒りに身を任せちゃダメよ」
「ベッキーさん」
「それにね、怒っているのは自分だけだと思わないで。やっさんを侮辱されてドタマにキてるのはあなただけじゃないのよ」
「っ!?」
そう告げるベッキーの顔を見て士郎は驚愕した。
ベッキーは微笑んだ表情を浮かべているが、目の奥は全く笑っていない。マグマのようにグツグツと怒りが煮えたぎっていた。
それはベッキーに限らず、御門や信楽も同じ様子である
それもそうだろう。
この中で靖史と一番親しく交流があったのはクリエイターズの三人だ。ダンジョンが一般人に開放されてからすぐに冒険者になった古参組で、パーティーは違えど今まで切磋琢磨してきた同志である。
そんな大事な仲間が、自らの命を懸けて1stステージをクリアした靖史が侮辱されたとなれば彼等がブチギレるのも当たり前の話だった。
しかし三人は、士郎のように狼狽えたり怒りを表には出さない。出さないが、誰よりも怒りに満ちていた。
「まあそういうことだ、シロー君。奴に怒っているのは僕達も同じなんだ。という訳で風間君、2ndステージは
「……分かった。頼んだよ」
冒険者の纏め役である風間に御門が窺うと、彼等の気持ちを買って送り出すことにした。その判断に異を唱える者もいなかった。
『どうやらチャレンジャーが決まったようだね。それでは2ndステージ開始する。視聴者の諸君も盛り上がってくれたまえ』
いひょ:頑張って!
ドゥベ:負けるな!
あか:頼んだぞ! 絶対に勝ってくれ!
2ndステージにチャレンジする冒険者も決まったことで、ダンジョンライブを見ている世界中の視聴者達も応援コメントを送り出す。そんな中、異世界の神は高らかに開始の合図を言い放った。
『さぁ、2ndステージスタートだ』
「行くわよ、二人共」
「「おう」」
「創造主様も人が悪いぜ、三対一じゃ多勢に無勢だろうが。ならこっちも仲間を呼び寄せさせてもらうぜ。『
「ギャオオオオオオオオオ!!」
2ndステージの開幕と同時に先手を打ったのはバグだった。
収納空間から本を取り出して呪文を唱えると、バグの背後に巨大な魔法陣が展開される。その魔法陣から雄叫びを上げながら出てきたのは、五つの首を持った漆黒の竜だった。
「おやおや、これはまた厄介そうなモンスターが出てきたね」
「知らん、斬れば全部一緒だ」
「ヒュドラ……まだダンジョンには出てきていないモンスターね」
凶悪かつ未知のモンスターにクリエイターズも警戒する。
およそ10メートルの巨大な五首竜はまだダンジョンで現れてはいない。どんな能力が備わっているかは未知数であるが、バグが召喚したモンスターだと考えると厄介な能力が備わっていることに間違いないだろう。
一瞬で状況を判断した御門は、仲間の二人に布陣を伝える。
「僕と信楽さんがヒュドラの相手をしよう。ベッキーは奴を頼んだよ」
「おう」
「いいわよ。ガッキーとあーちゃんの分まであいつをぶん殴っておくわ」
「ふふ、任せたよ。じゃあ行こうか、散」
それぞれの敵と戦う為に散り散りに別れた三人。
信楽と御門が左右に別れてヒュドラと対峙し、ベッキーは真正面からバグに突っ込んでいく。
「おいおい、俺の相手はカマ野郎かよ」
「オカマを舐めるんじゃないわよ」
「気を付けてください!
「おいこら勇者、ネタバレするんじゃねぇよ」
バグと戦ったことがある士郎がベッキーに助言する。収納空間から様々な呪具を用いるトリッキーな戦法には士郎も苦戦を強いられた。
それも呪具の使い方やタイミングも上手く、言葉が悪いヤンキーのように見えて戦い方は熟練された戦士のようだった。舐めてかかっては痛い目に遭うだろう。
士郎から助言を与えられたベッキーは「サンキューシローちゃん」と礼を言い、逆に手の内を明かされたバグは苛立ったように舌打ち放つ。
「まあ、ネタバレされたところで俺の呪具に対応できるかは別だけどなぁ! カース・オン・ダーツ!」
「手裏剣かしら?」
バグは収納空間から手裏剣を取り出してベッキーに投げる。さらに手裏剣は瞬く間に数が増え、四方八方からベッキーに襲い掛かった。
例え逃げようとしても、手裏剣には追尾機能が備わっている。士郎の時はギガフレイムの爆風で吹き飛ばしたが、ベッキーは収納空間から一本の長槍を取り出すと、高速回転させて全ての手裏剣を弾き凌いだ。
「凄い……」
「映画みたい」
凄まじい槍捌きに冒険者達が感嘆の息を漏らす。因みに冒険者達は神殿の端っこに居るのだが、
クリエイターズのメンバーは全員が70レベル以上の猛者である。現在はそれぞれの技能を生かすため探索よりも物作りに励んでいるが、元々は刹那や風間にだって引けを取らない冒険者なのだ。
「あら、イキってた割りにはこの程度なのかしら」
「カッカッカ! やるじゃねぇか、ならこんなのはどうよ! カース・デッドグレネード」
バグは新たに呪具を取り出す。その呪具は手榴弾のような形で、ベッキーに放り投げると先ほどの手裏剣のように数が増えてしまった。もしこれが爆発物なら、手裏剣のように槍で弾くことはできない。かといって、今更回避しようとしても間に合わないだろう。
「死んじまいな」
その言葉がトリガーだったように、ドドドドドドドドド!! とけたたましい爆音を鳴らしながら手榴弾が一斉に起爆する。
「ベッキーさん!」
「カッカッカ! あっけなかったな~カマ野郎!」
大爆発に巻き込まれたベッキーの安否を心配する士郎達と、手応えを感じ勝利を確信したバグ。しかし爆発による煙が晴れるとそこにはベッキーの亡骸ではなく、神社にある鐘のようなものがあった。
「あん?」
「えっ、どうなっちゃったの!?」
突如現れた不可解な鐘に首を傾げるバグと、慌てた風に周りに聞くミオン。皆が鐘に対して疑問を抱いている中、鐘の真ん中に切れ目ができてパカッと開いた。そこから現れたのは――、
「もぉや~ね~。これダサいからあんまり着たくなかったのに!」
「ベッキーさん!」
「よかった、無事だったんだね!」
頬に手を当て不満げに文句を垂らすベッキーだった。
彼が無事だったことに冒険者達が安堵する中、手榴弾を凌がれたバグは怪訝そうな顔を浮かべていた。
あの鐘はいったい何だ、と。盾か何かだろうか。いや違う、あれは鎧だ。いつの間にかベッキーは鋼の鎧を纏っていて、あの鐘も鎧に繋がっていることから鎧の一部だろう。
「おいカマ野郎、テメエ今の一瞬で何をしやがった」
「うふふ、そんなに知りたい? いいわよ、特別に教えてア・ゲ・ル♡ あたしは爆弾が爆発する寸前に、防具を入れ替えたのよ」
「何ぃ?」
士郎達に作ってあげた高性能のナマークのマントもユニークジョブの能力だった。因みにベッキーが作ったオーダーメイドの防具はかなり高く、買える冒険者は一握りである。
オーダーメイドとはいかずとも、それなりの能力があって安い防具もギルドに卸していた。ベッキーだけではなく御門や信楽といったクリエイターズのメンバーは全員ギルドと契約していて、新米冒険者や他の冒険者の為にあらゆる物を作っている。
――閑話休題。
ベッキーはユニークジョブだけではなく、【
手榴弾が起爆する寸前、回避が間に合わないと判断したベッキーは咄嗟に【衣装換装】を発動し、防御力が高い防具に換装したのだ。流石に無傷とはいかないが、防御に特化した今の防具に換装しなかったらHP全損も免れなかっただろう。
ただ、防御力重視で作った防具なので見た目がダサいのが本人的に精神的ダメージを喰らっているかもしれない。
「あの一瞬でどうやって防具を入れ替えやがった」
「そんなに気になるなら見せてあげるわよ」
説明されても意味わからんといった風のバグに、ベッキーは実際に見せてやることにした。鎧の胸部を掴む仕草をすると、めくるように手を上げる。すると鋼の防具がひらりと舞い、中には炎を模したような妖艶な防具が現れた。
「どう? あたしが作った衣装は素敵でしょ? 変幻自在に戦えるのはあなただけじゃないのよ」
「ちっ、やるじゃねぇかカマ野郎」
腰に手を当てパリコレモデルのようなポーズをしながら告げるベッキー。自分と似たタイプの敵だと唾を吐くバグに、ベッキーは「うふ」と微笑むとこう言った。
「だから言ったでしょ? オカマを舐めるんじゃないわよって」
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