第212話 決戦前夜

お知らせです!

この度、東京ダンジョンタワーがコミカライズされました!


コミカライズされたのも、みなさまがこの作品を応援してくれたおかげです!!

本当にありがとうございます!!


最終章に突入している原作も合わせて邁進していきますので、これからも応援のほど、よろしくお願いいたします!


配信日は本日からとなっております!

ピッコマ様などで読めるので、どうぞよろしくお願いいたします!


モンチ02








「で、貴方はどうするの?」


「愚問だね。勿論僕は行くよ」


 アルバトロスのメンバーである金本麗奈かねもとれいなから問いかけられた風間清一郎は、相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべながら即答した。


 合馬大臣による緊急招集の後、アルバトロスは皆で使用している事務所ホームへと帰ってくるや否や、エクストラステージに関しての会議を行った。


 勿論、会議の内容はエクストラステージに参加するか否かである。

 だがその会議は、アルバトロスのリーダーである風間が放った最初の一言で片付いてしまった。


「エクストラステージの参加はパーティーではなく個人の判断にしよう。文字通り命を懸けて戦う訳だし、無理に出ろとは言えない。皆が参加するから自分も参加しなくてはいけないという強制的な空気も作りたくないしね」


 個人の判断に任せるという風間の意見にパーティー全員が納得した。


 会議が一瞬で終わりアルバトロスのメンバーが一斉に帰る中、金本だけが残っている。彼女がなんて答えるかを既に分かっている風間だったが、会話の流れで一応聞くことにした。


「そういう麗奈はどうなのさ。参加するのかい?」


「馬鹿ね、する訳ないじゃない。“趣味”で死にたくないもの」


「くく、だと思った」


 そう、自分達が冒険者をしているのは趣味の延長線に過ぎない。


 仲間が集まってわいわいゲームするのとなんら変わらないのだ。それでたまたま日本最強のパーティーと呼ばれるほど強くなって、裕福な生活を送れるくらいの仕事になっているだけ。


 ただの趣味に命を懸けたくはない。金本以外のメンバーも参加しないだろうと風間は考えていた。


 いや、アルバトロスだけではない。恐らくあの場にいた殆どの冒険者が参加しないだろう。誰だって死にたくはないから。



「日本が滅びるっていうならそれでもいいわ。っていうか、“ぼっち野郎”が一人いれば何とかなるんじゃない? 多分皆そう思ってるわよ」


「ぼっち野郎って……相変わらず麗奈は刹那のことをよく思ってないんだね」


「なんでかしら? 私もよく分かってないけど気にいらないことは確かなのよねぇ」


 金本の口から出てくる汚い言葉に、苦笑いを溢す風間。彼女が言うぼっち野郎とは、日本最強の冒険者である神木刹那のことである。


 アルバトロスと刹那は同時期に冒険者になったのだが、何故かわからないが金本はその頃から刹那のことをよく思っていない。

 本人に聞いてみても、しかめっ面で『なんかムカつくのよね』と曖昧な答えしか返ってこなかった。その言葉が真実なのかもしれないけど。



「やっぱり麗奈も、刹那がエクストラステージをクリアしてくれると思うかい?」


「それはそうでしょ。ネットの反応を見てもアルバトロス私達よりあいつに期待されてる感じだし、いつもみたいに一人でクリアしちゃうんじゃない?」


「……そうか」


 それを聞いて、風間はどこか寂しそうに呟いた。

 自分達よりも刹那が期待されているのは、評価的にも仕方ないと思っている。


せいちゃんもやめておきなさいよ。参加したって貴方は“主人公にはなれないのよ”?」


「……」


 残酷な言葉で引き留めてくる金本に、風間は口を開くことはできなかった。


 流石は幼馴染なだけあって、風間のことをよく理解している。

 きっと日本を救うのは、刹那や士郎のような“選ばれた人間”なのだろう。悔しいけれど、自分が主人公になれないことは重々承知している。



 ――それでも僕は――



「そうだね。でもいいんだ、それでも僕は行くよ」


「あっそう、ならもう引き留めたりしないわ。頑張って日本を救ってちょうだい。一応、私だけは応援してあげるから」


 冷たい応援だね、と笑う風間はこう最後にこう告げた。


「見ていてくれ、麗奈。僕の戦いを」



 ◇◆◇



「正直に言います。私は参加してほしくない」


「「……」」


 D・Aの担当マネージャーである関口アンナの言葉に、D・Aの四人は何も言えなかった。


 アルバトロスと同様に、D・Aも事務所でエクストラステージに参加するかどうかの話し合いが行われていた。

 重たい空気の中、ミオンことたちばな美音みおんが意を決して口を開く。


「でもアンナ、エクストラステージに参加できるのは私達上級冒険者だけなんだよ? 誰もクリアできなかったら、本当に日本が滅んじゃうかもしれないんだよ?」


「そうかもしれないけど、決して貴女達がしなくてはいけない事ではないの。そもそもこれは国家の問題であって、一般人である冒険者がどうこうする範疇を越えているわ。その上命を懸けるなんて馬鹿げている。会社としても、参加はしなくていいという方針よ」


「「……」」


「仮に、貴女達が参加しなかったからといって世間やファンから批判を受けても、私達が全力で守るから心配しないで」


 そこまで自分達を想ってくれているマネージャーに、D・Aの四人は感動する。そんなアンナには申し訳ないけれど、既にD・Aは全員一致で答えを出していた。

 その気持ちを、カノンこと音無かのんがアンナに伝える。


「そう言ってくれるアンナや会社には凄く嬉しいけど、カノン達は参加するにゃ」


「何ですって!? どうしてそんな……理由は何!?」


 カノンから思わぬ答えを聞いて動揺するアンナに、シオンこと龍宮寺詩音りゅうぐうじしおんが堂々と答えた。


「“わたくし達がアイドルだからですわ”」


「それは……どういうことなの? アイドルだからなんだっていうの?」


「ねぇアンナさん、アイドルはファンに笑顔を与える存在だとわたくしは思っています。そんなわたくし達を、ファンは全力で応援してくれます。

 もし誰もエクストラステージをクリアできなかったとして、日本が滅びるかもしれないという中でも、ファンはわたくし達を心から応援してくれるでしょうか?」


「確かに応援はしてくれないかもしれないわ。自分達がそんな場合じゃないからね。でも貴女達は軍人じゃないのよ。日本を背負って戦う義理なんてない。それに貴女達はアイドルなんだから、それこそ歌や踊りでファンの心を癒し励ませばいいじゃない」


「それは違うにゃ」


 必死に説得してくるアンナに、カノンが首を振って否定した。「何が違うって言うのよ」と困惑するマネージャーに、ミオンが笑顔でこう言ったのだ。



「私達はD・A――“歌って踊って戦うアイドル”だもん」



「っ……」


「私達だって怖いよ、死んだらダンジョンに幽閉されちゃうんだからさ。でも私達は戦うよ、私達を応援してくれるファンの為に」


「ミオン……」


「それに~、もし誰もクリアできなかったら日本が滅んじゃうにゃん? そしたらD・Aの世界進出だってなくなっちゃうし、これから入ってくる後輩達の夢も潰れちゃうにゃん」


「カノン……」


「まぁ、そういう事ですわ」


「シオン……」


 三人の希望を聞いたアンナは、どうしたらいいか迷っていた。この三人はもう戦う覚悟を決めてしまっている。

 ならばと、四人目のメンバーであるナーシャことアナスタシアに問いかけた。


「ナーシャはどうするの? もし幽閉されてしまったら、折角助け出した弟さんを一人残してしまうのよ?」


「レオならワタシが居なくても大丈夫。一生生活できるお金は預けているし、ワタシに何かあった時のために知り合いに面倒を見てもらうことになってる。それに、ワタシはアカリに大きな借りがある。レオを救ってくれたように、ワタシも神に乗っ取られているアカリの父親を助けたい」


「ナーシャ……」


 弟のことを突いて引き留めようとしたが、ナーシャも既に心を決めていた。もう何を言っても、この四人はエクストラステージに参加するだろう。


 マネージャーとして、アイドルを危険に晒すことは絶対にしてはならない。それでも、ここまで一緒にやってきた“仲間の一人”として、彼女達の想いを受け取ったアンナはこう告げた。


「わかったわ……会社には私から話しておく」


「ありがとう……アンナ」


「その変わり、絶対に死なないで。四人で無事に帰ってきなさい。D・Aにはまだまだ働いてもうらうんだから」


「「うん!」」


 必ず帰ってこいと告げるアンナに、D・Aの四人は強く頷いたのだった。

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