第175話 雪月下の戦い
「ガルァ!」
「ふんッ!」
凄まじい速度で接近してきたホワイトウルフキングは、一直線にアレクセイを攻撃する。振るわれた鋭い爪を、アレクセイは透明の剣で迎え撃つ。
ガキンッ! と甲高い音が鳴り響き、舞う雪が衝撃の余波によって吹き飛ばされた。
「フレイムソード!」
「フレイムアロー!」
俺も斜め横から接近し、
しかし、攻撃が当たる前に白王狼が後方に飛び跳ね、回避されてしまった。
くそ……動きが疾いな。今まで戦ってきたどのモンスターよりも疾いんじゃないか。なんであの図体であんなに疾く動けるんだよ。
「ふっ、やはり以前より強くなっているじゃあないか。これは一筋縄ではいかないようだね。作戦を伝える、皆よく聞きたまえ」
アレクセイはホワイトウルフキングを観察しながら、俺たちに指示を与えてくる。
「私とシローが前線を張る。アカリとメムメムは後方から援護を頼んだぞ」
「「了解!」」
「ナーシャにも支援を頼みたいが、無理はしなくていい。ユーは弟を背負っているんだ、まずは弟を守ることに全力を尽くしたまえ」
「わかった」
「シローも前に出過ぎるなよ、奴の相手は私がする。ユーは私のフォローを頼んだ」
「了解!」
パーティー全体に細かく指示を与えるアレクセイ。
なんて頼りになる存在なんだろうか。圧倒的なリーダーシップに、堂々とした振る舞い、そしてカリスマ性。
アルバトロスの風間さんもリーダーシップは凄かったけど、アレクセイはまた別というか、自分から下の者を引っ張ってくれる。彼が横に……いや前にいるなら、絶対に大丈夫だと安心させられるんだ。
安心して私についてこいと、その大きな背中が語っているような気がする。
まさに英雄という言葉を体現したような人だ。
凄いなぁ……俺もいつか、この人のような冒険者になれるだろうか。
「~~~~ッ」
「アローレイン!」
「ギガウインド」
ナーシャが歌い出し、全員にバフをかけてくれる。なんの効果があるのかは分からないけどね。それと同時に、灯里が矢の雨を、メムメムが風の刃をホワイトウルフキングに放った。
だが白王狼にその場から移動され、遠距離攻撃は回避されてしまう。
「ガアアア!」
お返しと言わんばかりに、白王狼は大きな口を目一杯開けて
「タイダルウエーブ!」
アレクセイが一閃すると、斬撃の暴風が飛び交う。吹雪と暴風が激突し、轟音と共に相殺される。
さらに白王狼は、そのスピードを生かすようにジグザグに移動しながら俺たちに肉薄してきた。
「ガァアア!」
「はっ!」
再び白王狼の剛爪とアレクセイの剣がかち合う。その場面を予想して予め動き出していた俺は、側面から攻撃を仕掛けていた。
「アスタリスク!」
「ガッ!?」
六連撃が横っ腹に直撃し、白王狼は唸り声を洩らす。
よし、上手くいったぞ。奴はアレクセイを第一に標的にしていたから、さっきのように狙ってくるんじゃないかと予測を立てていたんだ。
「チャージアロー!」
「ギガウインド」
「ギャンッ!?」
怯んだところを、灯里とメムメムがすかさず追撃する。
充填矢と豪風の刃を受けたホワイトウルフキングは悲鳴を上げ、たまらず後方に退避する。
「エクセレント! やるじゃないかシロー、後衛もその調子で頼むよ!」
今のところ、出だしは上々だろう。
白王狼は疾くて攻撃力も高そうだが、アレクセイが全て対処してくれている。彼が引き付けている間に、俺と灯里とメムメムがタイミングを合わせればダメージだって与えられる。それにナーシャのバフだってある。
(いける)
数の有利に、アレクセイという強い味方がいればホワイトウルフキングを倒すことはそう難しくないだろう。早いとこあいつを倒して、レオ君の魂を助けるんだ。
――そう思っていた時だった。
「ワオオオオオオオオオオン!!」
突如、白王狼は空に向かって大きく遠吠えをする。いきなり何をしているんだと警戒していたら、ダダダダダダッ! と大きな地響きが聞こえてきた。
なんだこの音……地震か? いや――足音か!
「ワン!」
「グルルァ!」
山の上からホワイトウルフが新たに現れる。どんどん増え、数はざっと十体程にも及ぶ。
あの音は地震なんかじゃなくて、ホワイトウルフが地を蹴る音だったのか。
「はっはっは、どうやら仲間を呼ばれたみたいだね」
「ちょっとアレクセイ、笑ってる場合じゃないでしょ」
呑気に笑い声を上げるアレクセイにつっこむナーシャ。
彼の言う通り、ホワイトウルフキングは仲間を呼んだのだろう。通常のモンスターは仲間を呼び寄せるなんて事しないし、聞いたこともない。
きっと
そういえば初めて戦った異常種のゴブリンキングも、手下のゴブリンに命令していたっけ。
くそ、やっぱり異常種って奴は厄介だな。
「まぁ慌てることはないさ。ザコがいくら増えようと私達の不利にはならないからね。私とシローは同じようにホワイトウルフキングの相手をする。後衛はザコの討伐を頼むよ。あちらさんも、その為に手下を呼んだと思うしね」
「「了解」」
瞬時に作戦を伝えるアレクセイ。
どうもホワイトウルフキングはアレクセイに固執しているようだ。だから、戦いの邪魔をしてくる灯里達後衛を鬱陶しく思い、手下をぶつけようとしているんだろう。
しかし、それはただの時間稼ぎに過ぎない。
灯里やメムメムにナーシャといった頼れる後衛の力なら、ホワイトウルフをすぐに駆逐してくれる。そうなれば、また戦況はこちらが有利になる。
(何も問題はない)
――そう思っていた時だった。
「がはっ!?」
突然、剣のようなもので斬られた感触と痛みが背中に襲い掛かってくる。
何がなんだかわからず、俺は激痛に倒れた。
「ぐっ、あ……」
「士郎さん!」
「「シロー!!」」
なんだ、何が起こったんだ? ホワイトウルフにやられたっていうのか?
そんな馬鹿な……周囲の警戒は怠っていなかったし、【危機察知】スキルだって反応してなかったぞ。じゃあ俺は、一体何にやられたっていうんだ。
背中に走る激痛に耐え、起き上がりながら背後を一瞥する。
(さ、侍……!?)
目を見開き驚愕する。
不意に現れ俺を攻撃したモンスターの正体は、この場に似つかわしくない侍のような外見だった。
日本式の甲冑を身に纏っている侍。両手には二本の刀を持っている。こんなモンスター、今まで見たこともないぞ。
ってことは冒険者なのか? いや……違う。
確かにこの侍は人の形をしているが、よく見てみると顔が機械のようになっていた。口は存在せず、機械染みている大きな目が一つ、赤色に怪しく光っている。生気のようなものも全く感じられない。
機械仕掛けの侍。言うなれば、
得体の知れない異質なモンスターに困惑していると、侍機士は俺にトドメを刺そうと得物を振り上げる。
「パワーアロー!」
「……ッ」
侍機士が刀を振り下ろす前に、灯里が豪矢を放つ。
キンッと矢は弾かれてしまったが、攻撃は止まった。その隙に、俺は這い蹲ったまま侍機士から距離を取る。
すると突然身体が光に包まれ、痛みが消えていった。
あれ、なんで回復してるんだ?
と疑問を抱いていると、駆け寄ってきた灯里が心配そうな顔を浮かべて尋ねてくる。
「士郎さん大丈夫!?」
「ああ、なんとか。助かったよ灯里、それで他の皆は……」
状況を把握しようと、周囲に視線を巡らせる。
アレクセイはホワイトウルフキングと一対一で相手をしていて、メムメムはホワイトウルフの群れと交戦中。ナーシャも魔術で援護をしていた。
そして俺と灯里に、佇む謎の侍機士。
侍機士の所為で、一気に戦況がひっくり返ってしまった。収納空間からポーションを取り出して飲み干していると、灯里が聞いてくる。
「士郎さん、あれってモンスターなの?」
「分からない。ただ、あいつをなんとかしないとヤバいと思う。一先ず俺が一人で相手をしてみるから、灯里はメムメムの応援をしてくれ」
「大丈夫なの?」
「とりあえずやってみるさ」
誰かが侍機士を止めておかなくちゃならない。
このパーティーで一番適役なのは、今のところ俺だろう。俺が抜けても、アレクセイ達ならホワイトウルフキングと十分やり合えると思うし。
一人で倒せるかは分からないが、最低でも時間稼ぎをしなければならない。
心の中で集中力を高めると、俺は立ち上がって剣を構えた。
棒立ちの侍機士に向かって駆けようとした刹那、その姿が景色に溶け込むように忽然と消えてしまった。
「消えた!? どこに行ったんだ!?」
突如姿を消す侍機士に狼狽する。
慌てて周囲を索敵するも、奴の姿も気配も全く感じられない。いったい何がどうなってるんだ……あいつは身体を消せるのか?
困惑しながらも探していると、侍機士は突然ナーシャの背後に現れた。
「ナーシャ、後ろ!」
「――っ!?」
俺のかけ声に反応したナーシャは、咄嗟に背後を振り返る。だが一瞬遅く、侍機士が振るった斬撃を胸に浴びてしまう。胸の斬り傷から、血が舞い散った。
「ぅあっ!」
「ナーシャァア!」
力の限り地面を蹴り上げ、倒れているナーシャに追撃を仕掛けようとしている侍機士に肉薄し、振るわれた剣を間一髪のところで受け止める。
「ぐ……ぉぉおお!!」
「ッ!?」
鍔迫り合いの状態から、力任せに侍機士を押し返した。
また姿を消される前に、距離を詰めて斬撃の嵐を浴びせる。
「はぁあああああ!!」
「ッ!」
「ナーシャ、大丈夫!?」
「アカリ……ワタシは平気、ギリギリで躱したから傷は浅い。それよりメムメムの方をお願い」
俺が繰り出す怒涛の攻撃に対し、侍機士は凌ぐだけの防戦一方。
こいつ、それほど強くないぞ。
このまま押し切ってやる!
「パワースラッシュ!」
「――ッ!?」
放った
「パワースラッシュ!」
「――ッ!?」
攻撃が直撃し、侍機士が吹っ飛ぶ。
間髪入れずにギガフレイムを放とうと左腕を掲げると、無かった筈の侍機士の口が突然パカッと開き、鉄鎖のような物が飛来してきた。
「なっ!?」
左腕に鉄鎖が巻き付く。
その瞬間、侍機士に身体を引っ張られ――、
「うわぁああああああああああああ!?」
「士郎さーん!!」
俺は侍機士と共に、崖から落下してしまったのだった。
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