第157話 レベルの上限値
「はっ!」
「ァァ!?」
「アスタリスク!」
迫り来る黒獣の腕を長剣で斬り飛ばし、体勢を崩した好機に渾身の
これで倒した数は五体。次の標的を探そうと状況を確認したら、すでに刹那と風間さんが全て倒し終えていた。はは……やっぱりこの二人凄いな。
「どうやら終わったようだね」
「みたいだな」
「ひっきりなしに現れていたけど、何で急に止まったんだろう」
「さぁな、単に頭打ちになっただけだろ」
ふと沸いた俺の疑問に、刹那が適当に答えてくる。
黒獣との戦闘が始まってから、体感で十分ぐらいは戦っていたと思う。その間、暗闇に包まれた通路の奥から次から次へと黒獣がやって来た。
終わりが見えない戦いに、これ一生戦い続けるのでは? と嫌な考えが一瞬脳裏を過ったが、唐突に黒獣が姿を現さなくなったんだ。
刹那が言うように、単純に全て倒しきっただけなのだろうか。
そもそも、この黒獣はいったいなんなのだろうか。気にかかって思案していると、同じことを考えていたのか風間さんが口を開く。
「結局、黒獣の正体はなんだったんだろうね。モンスターではないように思うけど」
「俺もそう思います。見たこともないし、ダンジョンのモンスターのように消滅する時ポリゴンになっていませんでしたから」
そうなんだ。ダンジョンのモンスターは倒したらゲームチックなポリゴンに変化して消滅するのだが、黒獣が死ぬ場合は黒い靄になる。
あれだけ倒しても魔石やアイテムを一度もドロップしていないし、ダンジョンのどの階層でもあんなモンスターは目にした事がない。
恐らく黒獣は、モンスターとは別の何かな気がするんだよな。
俺と風間さんが議論していると、刹那が話をばっさり切ってきた。
「単にイベントの仕様みたいなもんだろ。それよりオレは、他に一つ納得できねぇことがある」
「ほう、それはなんだい?」
「オレたちとシローとの戦闘力にそこまでの差がないことだ。戦っている最中に気が付いたが、スキルやアーツの練度を別にして、黒獣を倒す速さがオレと風間と比べても遜色ない。例えばオレが二撃で倒したとして、シローは三、四撃で倒している。シローが以前より強くなっているとはいえ、どう考えてもおかしいだろ」
(なんだろう……少し嬉しいな)
刹那から強くなったと言われて、少しでも認められたようで嬉しい。本人は褒めているつもりはないにしてもだ。
怪訝そうな表情を浮かべる刹那は、続けて風間さんに問いかける。
「おい風間、お前今なんレベルだ?」
「僕かい? 僕は92だけど」
92か……前にダンジョンライブで公表していた時より二つも上がっているな。改めて聞いたけど、やっぱり凄いな風間さん。上級冒険者のほとんどは70前後なのに、一人だけ抜きん出ているんだから。
まぁ、他のアルバトロスのメンバーも90手前なんだけどね。
風間さんのレベルに感心していると、今度は刹那が自分のレベルを口にした。
「まだそんなもんか。もうオレは105だぞ」
「ひゃ――105!?」
刹那が発したレベルに驚愕してしまう。
おいおい……105って高すぎだろ。どれだけ経験値を積み重ねればそんなレベルに到達できるんだよ。
っていうか、刹那が自分のレベルを公表したのはこれが初めてだよな。アルバトロスとか他の冒険者は視聴者サービスで度々ステータス数値を公開していたけど、刹那はそんなもの興味ないと言わんばかりに発言してこなかった。
だから今まで刹那のステータスは謎のベールに包まれていたんだ。
ダンジョンファンたちやネット民が考察していたけど、あくまでも考察にすぎない。けど、たった今衝撃の事実を知れたんだ。
今頃ダンジョンファンは狂喜乱舞していることだろう。
(そもそも、ダンジョンのレベル上限って100以上あったんだ)
これはダンジョンが出現してから全ての人間がずっと気になっていたことだ。
ダンジョンはRPGゲームの要素や仕様を取り込んでいる。そして大体のRPGゲームのレベル上限値は、ほとんどが99や100だ。
だからこのダンジョンも、レベルの上限値が100で打ち止めではないかと推測されていた。他国のダンジョンを攻略している冒険者も、未だに100レベルに到達している者は一人もいないからだ。
刹那のレベル開示と同時に、ダンジョンの謎も一つ解けた。
ダンジョンのレベル上限値は、100ではないという事が。
「いやぁ驚いたな。まさか100レベルを超えているなんてね。それと、ダンジョンの上限値が100ではない事も……これは大きな発見だよ、刹那」
「そんなこと今はどうだっていい。おいシロー、お前のレベルはなんだ」
「えっ俺は25だけど」
「そんなもんだろうな。オレが105で、風間が92、シローが25。かなりの差が開いているっていうのに、黒獣を倒す速度が変わらないっていうのはどういう事だ?」
刹那の疑問に、俺もう~んと首を捻る。
言われてみれば、俺と二人とのレベルには遥かな差がある。
二人が黒獣を倒すのに二撃かかるとすれば、普通に考えれば俺はもっとかかる筈だ。だけど俺は、二人には劣るがそれほど時間がかかっていなかった。これはいったいどういう事なのだろうか。
「それこそ、イベントの仕様なんじゃないかい? ゲームでもよくあるじゃないか、経験者と初心者の差を埋めるために、イベントの時だけレベルを均一にしたりとかね」
「へ~、そういうのもあるんですね」
風間さんから教えてもらい、そういうのもあるのかと納得する。俺はあまりゲームとかやらないから、レベルを均一にする仕様があるのも初めて知った。いつもはゲーム好きの楓さんから教えてもらっているからな。
「そういうもんか」
「とにかく用心していこうか。黒獣もそうだけど、全て初めてのことばかりだからね。注意しておくことに越したことはない」
「そう……ですね」
風間さんの言う通りだ。
見たことのない場所と、黒獣の存在。上手く言えないけど、ここは何かダンジョンとは別の世界みたいな気がする。
例えるなら――“謎の十階層”みたいな。
俺たち三人は、十分に警戒しながら洞窟の先を進むのだった。
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