第144話 変装
「〇〇会社の許斐です、本日は宜しくお願い致します」
「五十嵐です、宜しくお願い致します」
「エマです、よろしくお願いしま~す」
「プロデューサーの
「「はい、よろしくお願いします」」
新幹線で移動し、目的地に到着した俺達は撮影現場でスタッフと挨拶を行っていた。
ポスター撮影の時よりスタッフが沢山いるし、機材も豊富だ。サブだからと安心していたけれど、いざ来てみると現場の雰囲気にあてられ緊張してしまう。
それは楓さんも同じで、珍しく落ち着かない様子だった。
「へいへーい、何を緊張してるんデスか。折角の体験なんですから、もっと楽しまなきゃ損デスよ」
「そ、そうだね……こんな事滅多にないんだし、経験だと思って楽しむよ。ねっ、楓さん」
「そうですね、気後れしても仕方ないですし、勉強させていただきましょう」
エマのお蔭で緊張が解けた。やっぱり彼女の明るい性格は頼りになるな。
現場についてからも、持ち前のコミュニケーションを発揮してすぐにスタッフと溶け込んでるし。そう考えると、なんだかマネージャーみたいだな、エマって。
それから約一時間ぐらいスタッフから撮影の段取り聞いたり、衣装に着替えたりメイクをしたりと準備を終わらせていると、突然大きな声が聞こえてきた。
「なに~!? 風間さんが来れなくなったって~!?」
「はい……今電話がかかってきて、緊急の用事ができたので撮影を明日にして欲しいって。すっごい申し訳なさそうにしてて……今日と明日の撮影費やその他の費用をこちらで補填するのでどうかお願いしますって言ってましたよ」
「う~む、風間さんが緊急と言ってるんだから、本当に緊急なんだろうな」
「そうですよね……今まで風間さん、ドタキャンや遅刻なんて一度もなかったですしね。それにいつもスタッフ全員に差し入れたりしてくれたり、こちらの要求にも何一つ不満とか言わず笑顔で応えてくれますし……あんなデキた人が撮影の日に緊急だと言ってるんですから、よっぽどの事なんだと思います」
「そうだな~、仕方ない。今日は撤収しよう。撮影は明日になったとみんなに説明してくれ」
「「はい!!」」
現場が騒ついているけど、何かあったんだろうか。
困惑していると、スタッフが慌てて駆け寄ってきて説明してくる。
「えっ!? 風間さんが来れなくなった!?」
「はい……どうやら緊急の用事が入ったみたいで……撮影は明日になりました」
ええ……風間さん来れないんだ。
そういえば現場に姿が見えないなぁとは思ってたけど、緊急の用事が入ったからだったんだ。
あの人が緊急って言うぐらいだから、よっぽどの事だと思うけど。
するとスタッフが、申し訳なさそうに問いかけてくる。
「それで許斐さんと五十嵐さんなんですが、撮影を明日にしても大丈夫でしょうか……?」
そっか……そうなると俺達も明日も来なくちゃいけないんだよな。
撮影といっても会社の出張として来ている訳だし、自分の判断で決めちゃまずいよな。まずは会社に訳を話して指示を仰がないと。
そう思ってスタッフの人に会社と話してみますと言おうとしたら、エマに肩を叩かれる。
どうしたんだろうと振り向いたら、彼女は誰かと電話していた。
「ハイ、そ~なんですよ。流石部長さん、話がわかりますね。ハイ、ハイ、シローとカエデにはワタシから話しておきます。ハイ、失礼しま~す」
「電話の相手って、もしかして日下部部長?」
通話が切れたタイミングで問いかけると、エマはイエスと頷いて今後の予定を伝えてくる。
「クサカベ部長に事情を説明したら、今日は帰らず
「えっ、本当!?」
それは凄く助かるな。また新幹線に乗って帰って、明日もそうだとちょっと面倒臭いと思ってたところだったし。
喜んでいると、何故か楓さんが怪訝そうな顔を浮かべてエマに尋ねる。
「一応聞きますが、本当にそう言っていたのですか?」
「も~カエデは疑い深いですね~。そんなにワタシが信用できないなら自分で聞いてみたらどうデス」
「いえ……ごめんなさい。私の失言でした」
「まぁまぁ、エマが嘘吐くメリットなんてないんだし、本当なんだよ。それに日下部部長なら言いそうじゃない? 『あ~うんわかった~一泊してきちゃっていいよ~』みたいな軽い感じでさ」
「……それもそうですね」
「っていう事でスタッフさん、ワタクシ共は明日撮影でも問題ないので、よろしくお願いします」
「はい! 大変ありがとうございます。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません、明日もよろしくお願いします!!」
スタッフの人は深々と頭を下げると、他の人にも事情を説明しに向かった。
自分のことじゃないのに、ああやって各方面に謝ったりしてるのか。大変なんだな。
そこで俺はある事に気付く。
「そうだ、こっちで一泊するならどこかホテルか宿とかに予約しないと駄目だよね。当日だと、空いてないかもしれないし」
「それなら問題ないデース。もうとっくにワタシがホテルの部屋を取っておきました。はい、これがそのホテルです」
「えっ、マジ!?」
驚いていると、エマが自分のスマホを見せてくる。
覗いてみると、ホテルの予約完了といった内容の画面が映し出されていた。
嘘だろ……今撮影が中止になったって聞かされたばっかりだったのに、もうホテルの部屋まで取っちゃったのかよ。気が利くというか、どんだけ優秀なんだよエマって……。
「シローの方に地図とURLを送っときました。カエデと一緒に行ってください」
「えっ、エマは行かないの?」
「そうなんデス。二人には申し訳ないのデスが、ワタシは今日の夜はどうしても外せない用事があるので、一人だけ帰らせていただきマス」
「そっか……用事があるなら仕方ないね」
「明日はワタシも来ますから、安心していいデスよ。なので今日はカエデと二人で楽しんでくださいね。じゃあ、ワタシはお先に帰ります」
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「ハイ、時間にはまだ早いデスけど、その分余裕をもって行動したいデスから。じゃあシロー、カエデ、シーユーアゲーン」
大きく手を振りながら、エマは本当にささっと行ってしまった。
彼女の判断力と行動力って半端ないよな……俺もああいう所は見習わないと。
そして残った俺と楓さん。これから余った時間どうしようかと相談しようとした時、突然スタッフの人から声をかけられる。
「あの~許斐さん、明日の事でちょっとお話があるんですけど、少し来て頂いていいですか?」
なんだろう……しかも楓さんと一緒じゃなくて俺だけだし。
まぁいいかと気にせずスタッフの元に歩み寄る。
ん? なんだかこのスタッフ怪しい格好してるなぁ。目元が見えないように帽子を暑く被っているし、マスクも着けてるから顔も分からない。
スタッフの格好を怪しんでいると、そのスタッフはくいっとマスクを外す。
その素顔を目にし、俺は顎が外れるくらい吃驚してしまった。
「えっ!? あ、あなたは……!?」
「やぁ、久しぶりだね許斐君、また会えて嬉しいよ」
怪しいスタッフの正体は、風間清一郎その人だったのだ。
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