第134話 カースシリーズ

 


「コアドラ1、ヤドカリン1、サンドシャークが数体隠れています。士郎さんはコアドラを、灯里さんとメムメムさんはサンドシャークの警戒をお願いします。島田さんは臨機応変にお願いします」


「「了解」」


「プロテクション、ソニック」


 信楽さんから新装具を受け取った俺たちは、そのまま階段を探して二十三階層にやって来ると、すぐにモンスターと遭遇した。ここで新たにサンドシャークというモンスターが追加される。

 サンドシャークは全長1メートルほどの鮫で、砂浜の中を泳ぐモンスターだ。いつ襲ってくるか分からず、また噛みつきの攻撃力は高く中々に厄介なモンスターである。


 島田さんがバフスキルを付与してくれる中、俺は楓さんの指示通り砂を蹴ってコアドラに向かって疾走する。


(疾い! 身体が凄く軽いぞ!)


 移動速度が今までよりもずっと疾く感じられる。砂の上だから動き辛いはずなのに、防具を着ていないんじゃないかと錯覚してしまうぐらい軽やかに動くことができる。まるで背中から翼が生えたみたいだ。


「はっ!」


「ゴアッ?!」


 コアドラに肉薄し、黒剣を一閃。胸の肉を裂き、血しぶきが飛び散った。


(全然抵抗感がない……ははっ、凄いなこれ)


 この前までは、コアドラを斬る時は硬い筋肉に抵抗を感じていた。だけどこの黒剣で斬ると、バターでも斬っているのかと思うほどスパスパ斬れる。その上軽く、手に吸いついて自在に扱える。武器が良くなるだけで、戦いやすさがこんなに違うものなのか。


「パワースラッシュ!!」


「ゴアッ!?」


 連続でダメージを与え、豪剣アーツでトドメを刺す。ポリゴンとなって霧散するコアドラを横目に、俺は灯里たちの戦闘を確認する。


「やっ!」


「シャア?!」


「グラビティ、今だよシマダ」


「了解!!」


「シャ……シャア」


 砂浜から飛び跳ねてきたサンドシャークのタックルを紙一重で躱すと、灯里は至近距離から矢を放つ。眉間に矢が突き刺さった砂鮫は、悲鳴を上げながら砂浜に逃げ込んだ。


 もう一体のサンドシャークはメムメムに近づこうとしたが、タイミングよく発動した重力魔術によって砂に潜っているサンドシャークを圧し潰す。そこへ島田さんが飛び掛かり、新しい緑色の鎌による斬撃で首を刎ね飛ばした。


 灯里たちは大丈夫そうなので、ヤドカリンを引き付けている楓さんの助太刀をする。

 横からフレイムを放ってダメージを与えると、ヤドカリンの注意がこちらに向くが、すかさず楓さんが【挑発】スキルを発動しながら盾をぶつけると、敵意タゲが彼女に戻った。


「プロバケイション」


「ナイス楓さん!!」


 背後から斬りつける。新しい黒剣でも、流石に最硬の甲羅を斬ることはできず弾かれてしまった。ならばと俺はさらに懐に入り、左手をヤドカリンの身体に触れると、魔術を発動した。


「ギガフレイム!」


「ギギギィ……」


 ゼロ距離からの豪炎を浴びたヤドカリンは、プスプスと真っ黒に焦げると消滅していった。


「GJです、士郎さん」


「楓さんも、ナイス」


 連携で倒せたことをお互いに褒め称えてから灯里たちの戦闘を伺うと、どうやら俺たちより先に終わっていたらしい。一度集合し、それぞれ感想を伝え合う。


「めちゃくちゃ良かったよ。装具を変えるだけでこんなに良くなるんだね」


「ね! 前よりも威力が上がってるし、撃ちやすくなってるもん」


「性能の差は馬鹿にできませんね」


「久しぶりに杖を持ったけど、悪くないもんだよ」


 みんな新しい装具に手応えを感じているみたいだ。

 性能が良くなっているのもそうだけど、新しいものを使うのってテンションが上がるよな。財布とか時計みたいにさ。


「僕も鎌を変えてみたけど、前と遜色ないぐらい使いやすいよ」


 緑色の鎌をブンと振り回しながら喜ぶ島田さん。

 彼の場合は強化ではなく、完全に新しい物になっている。それというのも、今まで使っていた死神の鎌を信楽さんが見た時、もう使わない方がいいと注意していたからだ。


『この鎌は呪われてやがるな。呪物カースシリーズって言ってよ、強力だが持ち主を徐々に呪っちまう厄介な武器なんだよ。おれぁもまだ二つしか見たことないが、これ以上は使わない方がいいぜ』


 それを聞いた時、島田さんは『ええ!?』と心底驚いていたっけ。

 俺もカースシリーズの武器なんて初めて耳にした。なんでも、使用者になんらかの負荷をかけるらしい。死神の鎌の場合は幸運値を0にしてしまうものだったけど、ステータス以外にも作用されることがあるんだとか。

 なにか不気味な声が聞こえてきたり、鬱になったりと精神が病んでしまう兆候が出てしまうと言っていた。


 島田さんは精神的な負荷の実感はなかったみたいだけど、もしかしたら彼が重度のダンジョン病になったのは死神の鎌に要因があるかもしれない。


 どうやって死神の鎌を手に入れたのかと聞かれた時は、たまたまフリーの冒険者とパーティーを組んだ時に、その冒険者から「もう引退するからあげるよ」と言われて貰ったそうだ。

 島田さんは強い武器が貰えてラッキー程度しか思わなかったと言ってたけど、もしかしたらその冒険者は死神の鎌を不気味に思っていたのかもしれない。


 とまぁそういう経緯があって、島田さんは死神の鎌を使わず収納空間に仕舞っておいて、信楽さんが作ってくれた『風緑の鎌』を使っていた。

 子供のようにウキウキしている島田さんに、楓さんがこう告げる。


「それならもう死神の鎌は使わない方がいいですね」


「だね。あんな怖い話聞いたら二度と使いたくないよ」


 やれやれとため息を吐く島田さん。

 カースシリーズもそうだけど、ダンジョンには俺の知らない未知なことがまだまだありそうだ。


「武器にもっと慣れたいし、階段を探しながらどんどんモンスターと戦っていこうか」


 そう提案すると、みんなは同時に首肯する。

 この新しい相棒で、もっともっと強くなってやるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る