第123話 再確認
「士郎さ~ん、準備できた~?」
「う~ん、あとちょっと~!」
いつもより訪れるのが長く感じた土曜日。
今日もダンジョンに行くのだが、俺たちは普段より多くの荷物を用意していた。リュックサックだけではなく、もっと大きな荷物を背負う。
うっ……やっぱり結構重いな。歩くのも大変そうだ。最近は身体を鍛えている方だけど、細マッチョにはまだまだ遠いらしい。
「なにしてるシロー、情けないぞ」
「だったらメムメムも少しは持ってくれよ……」
「かよわいボクにそんな荷物を持たせる気かい? 君はもう少しレディに対しての接し方を学ぶべきだね」
(レディっていう歳でもないだろ)
何も持っておらずふんぞり返っているメムメムに、ムカッときて心の中で愚痴を零す。
失礼なことを考えているのがバレたのか、ぎゅーっとほっぺたを抓られてしまった。り……理不尽だ。
「ほら二人とも、遊んでないで行くよ。このままじゃ遅刻しちゃう」
「「は~い」」
ため息を吐きながら催促してくる灯里に、二人して気のない返事をする。
拉致事件から数日が経ったが、灯里の様子に変化は見当たらない。あれだけ恐い思いをしたのに、恐怖を感じたり脅えたりすることもなかった。
それどころか、以前より頼もしいというか逞しくなっている気がする。それが恐怖の裏返しなのかは分からないけど、尾を引かなくて安心した。
でも油断はできない。俺に心配かけまいと無理をしていないとも限らないからだ。
「よし、行こうか」
準備を整えそう言うと、灯里は「うん!」と眩しい笑顔を浮かべる。
この笑顔を二度と曇らせてはいけないと、俺は心に誓った。
◇◆◇
「はぁ……はぁ……お待たせしました」
「重そうですね……」
「沢山持ってきたねぇ」
「ま、まぁね……」
ギルドで待ち合わせている楓さんと島田さんと落ち合う。
俺たちと同様、二人も普段より荷物が増えている。だけど俺ほど持ってきてはいないみたいだ。まぁ俺はメムメムの分も持ってきてるから、必然的に多くなってしまうんだけど。
二人には灯里が拉致されたことは報告してある。
メムメムと関わる以上、二人にも危険が及ぶ可能性が十分にあるからだ。合馬大臣が警備を強めると言っていたし、メムメムも防御魔術を施してあると言っていたけど、そういったことがあると事前に知っておいた方が心の準備はできるだろう。
灯里のことは、楓さんも島田さんも凄く心配してくれた。
だけどこれ以上恐い経験を灯里に思い出させたくなかったので、その話題は控えてもらうように伝えてある。
「それでは行きましょうか」
「そうだね」
早速控室に向かい、ギルドに預けてある装備を受け取り、防具に着替えて列に並ぶ。
「では、よい冒険を」
スタッフに見送られ、俺たちは自動ドアを潜り抜けてダンジョン二十一階層に赴いた。
「あ~身体が軽い」
ダンジョンに転移してから、すかさず重い荷物を収納空間に入れる。
改めて収納スキルの便利さに気付かさせられるよ。重くかさばる荷物もすぐに出し入れできるからね。それも収納できる空間はまだまだ空いている。
荷物を整理した俺たちは、自動ドアを目指して探索を開始する。
するとすぐに四体のモンスターと遭遇した。
「コアドラ1、ナマーク1、シザーデ2。士郎さんはコアドラ、灯里さんはナマーク、メムメムさんはシザーデをお願いします。プロバケイション」
「「了解!」」
「ソニック、プロテクション」
楓さんが指示をしてくれて、島田さんがバフスキルを付与してくれる。
更に敏捷性が上がった俺は、砂浜を蹴って風の如くコアドラに接近する。
「ドラァ!」
「フレイムソード」
大振りのフックを頭を下げて躱し、燃える斬撃を繰り出す。直撃するが、コアドラは怯むことなく追撃を仕掛けてきた。右のジャブを左腕に纏っているバックラーで受け止め、喉に目掛けて刺突を放つ。
急所はダメージが大きかったのか、コアドラは呻き声を漏らしながら体勢を崩した。その好機を見逃すまいと、すかさずアーツを打ち込んだ。
「アスタリスク!」
「ゴアアッ」
六連斬撃を喰らったコアドラは悲鳴を上げ、ポリゴンとなって消滅する。
目の前の敵を倒した俺は振り返り、仲間の戦況を確認する。灯里はナマークを倒し終え、メムメムと一緒にシザーデの相手をしている。
楓さんは残りのシザーデを引き付けていた。凄いな楓さん……あのシザーデの攻撃さえいとも容易く去なしている。相変わらずなんて高い防御力なんだ。
メムメムと灯里の方は彼女たちに任せ、俺は楓さんの助太刀に向かう。
とはいっても、俺の攻撃力じゃシザーデのボディに大してダメージを与えられない。ならばと火炎を放とうとするが、その前に楓さんが大盾を振り上げた。
「シールドバッシュ!」
「シエエッ!?」
「今です!」
「パワースラッシュ!!」
楓さんは盾による
楓さんは朗らかな表情で、親指を立ててくる。
「士郎さん、GJです」
「楓さんこそナイスアシストだよ。あーいうやり方もあるんだね、勉強になるよ」
「上手くいって良かったです」
「アカリも中々良かったよ」
「メムメムが動きを止めてくれたお蔭だよ」
なんだかこのパーティーでの戦闘が久しぶりに感じる。
前回はD・Aとの混合パーティーだったからな。D・Aのメンバーは皆強くて頼りになるし、あれはあれで楽しかったけど、今の方が断然戦い易い。
前衛職に後衛職、それに回復職もいて編成は安定しているし、何よりこれまで培ってきた息の合う連携ができるのが強みになっている。それは信頼や絆といった精神的な面でも同じだ。
他のパーティーと組んだからこそ、今のパーティーが一番であると再確認することができた。
その考えは俺だけではなかったのか、他の皆も笑顔で口を開く。
「やっぱりこのパーティーが落ち着くよね」
「わかります。ミオンさんたちが悪いわけではありませんが、慣れている分いつものパーティーの方がやり易いですね」
「僕の役目は大して変わりないけど、メンタル的には今の方がすっごく安心できるよ」
「優秀な魔術師は誰と組んでも問題ないけどね。でも彼女たちのようにワンパクな探索にはついていけないよ。ボクにはこれくらいのペースが合ってるね」
結論、今のパーティーがやっぱり最高だよねってことだよな。
三ヶ月近く四人でずっとやってきたんだ。仲間の考え方や戦い方は身体に染み付いている。メムメムは割りと最近加入したけど、戦闘技術や戦術観は一番優れているし、俺たちにもすぐに合わせてくれた。
なんかもう、このパーティーでないと違和感があったり落ち着かないって感じだ。
俺は改めて、皆にこう伝えた。
「皆、これからもよろしくお願いします」
言った後に恥ずかしさがこみ上げてきたけど、他の四人は笑顔で頷いてくれたのだった。
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