第113話 コラボ終了

 


「~~~~~~~」


「ウバッ!?」


(動きが遅くなった!)


 コアドラと戦闘している最中に、アナスタシアから心が落ち着くような歌声が聞こえてくる。


 刹那、コアドラの挙動が一テンポ遅れる。恐らくだが、敵モンスターにデバフ効果をもたらす歌なんだろう。


 今が好機と、俺はコアドラに肉薄して斬撃の嵐を繰り出した。

 コアドラは絶叫を上げて背中から倒れる。肉体が粒子に変化して霧散していくのを横目に、メムメムとシオンの戦いを見据える。


「グラビティ」


「おゆきなさい!」


「姉さんのためならこの命惜しくはないぜええええ!!」


 メムメムが重力魔術によってシザーデを地面に封じ込めると、シオンが魂を与えた手榴弾を放り投げる。


 手榴弾は放物線を描くことなく、意思があるかのように一直線に進んでシザーデの肉体に当たった。その瞬間、ドンッ! と爆発が起きて土煙が舞い上がる。


 土煙が晴れるとそこにはシザーデはおらず、代わりに魔石がドロップしていた。


「強ぇ……」


 手榴弾の威力に呆然としてしまう。

 こう見ると、やっぱり現代兵器って強いよな。もし現代兵器がダンジョンでも使えていたら、もっと楽に攻略できるのに。


 そう思ってしまうほど、シオンのユニークスキルは驚異的だった。


 周りを見渡し、新手のモンスターが出現していないことを確認した俺たちは、ドロップ品を回収した後に集合する。


「シオンさんのユニークスキルってめちゃくちゃ強いよね」


「ありがとうございます。でもこのスキルは火力は出るのですが、私自身が強くならないのが欠点ですわね。それに、階層主が相手だと余り通用しませんの。何度やってもレッドドラゴンに殺されてしまいますもの」


「あの火力でもレッドドラゴンには通じないのか……」


 炎竜レッドドラゴンは、三十階層の階層主だ。

 見た目は文字通り赤いドラゴンで、翼があるから上に飛ぶし、高威力の火を吹いてきたりととんでもなく強い。


 レッドドラゴンを倒すことは、金級冒険者の登竜門と言われているぐらいのモンスターだ。


 D・Aと同じように炎竜を倒せず、二十九階層で立ち止まっているパーティーは結構多い。そこを越える者たちが、金級冒険者になれるのだ。


 強力なUSを全員持っているD・Aでさえ、未だにレッドドラゴンを攻略することができないでいた。彼女たちで無理なら、俺たちなんていつ倒せるか分からないよ。


「けど、今のわたくしたちにはナーシャがいますわ。今度こそ倒してみせますから、シローさんたちには是非ライブを視聴していただきたいですわ」


「……えっへん」


 シオンがアナスタシアを横目に力強く告げると、アナスタシアは胸を張りながらダブルピースをした。

 そうだな、彼女が加わった新生D・Aならレッドドラゴンを倒すこともできると思う。


「その時はボクも見させてもらうよ」


「ありがとうございます。おっと、もうそろそろ時間ですわね、合流場所に戻りましょうか」


 腕時計で時間を確認したシオンがそう提案してくる。俺も収納空間からバックを取り出してスマホで時間を確認すると、14:40となっていた。


 三時に戻らなければいけないから、余裕を持って行動した方がいいだろう。

 流石D・Aのまとめ役だな。カノンとミオンと違ってしっかりしてるよ。


 俺たちはモンスターとの戦闘を極力避けて、合流場所に向かったのだった。



 ◇◆◇



「あ、来た」


「お待たせー!」


 一足早く合流場所に戻ってグーチームを待っていると、時間ピッタリにグーチームが帰ってきた。先頭にいるミオンが、こちらに向かって大きく手を振っている。


「どうだった? 一杯楽しめた!?」


「ええ、とても有意義な時間を過ごせましたわ」


「イイ感じ」


「こっちはミオンが大暴れで大変だったにゃ……」


 D・Aで固まって感想を言い合っている中、俺たちのパーティーも固まって話し合っていた。


「ミオンさんとカノンさんが強すぎて、全くと言っていいほど出番がありませんでした」


「同じく……ヒーラーなのにバフスキルしか役に立てなかったよ」


「士郎さんたちはどうでした?」


「俺たちも似たようなものかな。シオンさんとアナスタシアさんのサポートって感じだったよ」


「こちらとしては楽に経験値を稼げて助かったけどね」


 そんな風にお互いどうだったかの感想を話し合った後、俺たちは帰るために自動ドアを探そうと動き出した。


 道中モンスターと何度か遭遇したが、こっちは九人もいるので軽くあしらえてしまえる。というか、ほとんどミオンが片付けていた。


 そうやって三十分ぐらい探していると、無事に自動ドアを発見する。

 自動ドアの前に集まると、ダンジョンに訪れた時と同じようにミオンが誰もいないところに挨拶をする。


「はいは~い! ダンジョンライブを見てくれている視聴者のみなさーん、D・Aのミオンでーす! 今日の探索はこれで終わりでーす、最後まで見てくれてありがとね! それと、急にもかかわらずコラボしてくれた許斐さんたちもありがとございまーす!」


「「ありがとう(にゃ)ございます」」


 ミオンが俺たちに向かって頭を下げながらお礼を伝えると、彼女に習って他のメンバーを感謝の言葉を伝えてくる。


「こちらこそありがとう、D・Aと探索できて楽しかったよ」


「ありがとうございました!」


「幸せな時間でした……」


「ありがとうございました……夢の時間ももう終わりかぁ」


「楽しかったよ」


 俺たちもD・Aのみんなに感謝を告げると、彼女たちは明るい笑顔を浮かべた。


「それじゃあ視聴者のみんな、次のダンジョンライブも見てね~!」


「それでは、戻りましょうか」


「そうだね」


 挨拶も終わり、俺たちは揃って自動ドアを潜り抜け、現実世界に帰還したのだった。

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