第112話 パーチーム
「……」
「……」
「……」
(気まずい……沈黙が気まずいっ!)
パーチームで探索することになったのだが、誰からも話題が振られることがないため静かな時間が続いていた。
その原因は、パーチームに場を盛り上げるようなキャラが一人もいないからだ。
メムメムとアナスタシアはウトウトしながら歩いているし、シオンは先導しているだけで話をしたりはしなかった。
午前中のグーチームが賑やかだっただけに、テンションの落差が酷い。
まあ俺としては明るく楽しくやるのも良いけど、こういった落ち着いた感じの方が好きだから問題ないんだけどな。
でも、折角DAとコラボしているのだから、彼女たちと話をした方がいいよな。こんなチャンス滅多にないし。
勇気を振り絞って話しかけようとする寸前、先にシオンが口を開いた。
「メムメムさん、少し聞いてもよろしいかしら」
「なんだい? なんでも言ってごらんよ。おっと、シローの履いてるパンツの色は教えられないぜ。流石にそれはシローが可哀想だ」
「メムメムさんがいた異世界とは、どんなところですの?」
渾身のギャグを完全スルーして問うシオンに、メムメムもスルーされたことは気にせず「う~む」と顎に手を当てて唸る。
「分かりやすく一言で言うなら、ボクたちの世界はファンタジーなんだよ」
「ファンタジー……ですか?」
「そうさ。人間ではない種族がいて、魔術があって、魔物がいる。大きく括ればそれしか違いはないよ。畑を耕し、獣を狩り、鉄を掘る。そうやってみんな生きているんだ。それはこちらの世界も同じことだろ?」
「ええ、まあ」
「けど、異世界はこっちの世界のような科学技術はない。ボクからしたら、こちらの世界は十分SFの世界さ」
そうかもしれない……俺たちからしたらSFって、オーバーテクノロジーとか宇宙コロニーで暮らしたりすることを想像するけど、メムメムからしたら俺たちの世界はすでにSF世界のように見えるんだろう。
「こっちの世界には異世界を題材とした漫画が沢山あるだろう? あれは本当によくできていてね、まるでこっちの世界に来たことがあるんじゃないかってぐらいどれも詳しく描かれている。シオンは異世界の漫画を読んだことがあるかい?」
「いえ、ありませんわ」
「なら是非読んでみてくれ。設定とか細かいところは多少違うけど、大体のイメージはあれで補えるよ」
「分かりましたわ、ありがとうございます」
へぇ……異世界を題材にした漫画ってそんなに似ているのか。
俺はメジャーな漫画しか読んだことがないから、今度メムメムにタブレットを借りて読んでみようかな。
「……魔術」
「ん、なんだいナーシャ」
ナーシャって誰のことだと思ったけど、アナスタシアの愛称のことか。
というか、二人はもう愛称で呼び合う仲になったの? 早くない?
「ワタシたちの世界で、魔術は使える?」
「ああ、使えるとも」
「それは、メムメム以外の人でも?」
「さぁ、それはどうだろうね。試してみたことがないから分からないな」
あれ、使えるって言わないのか?
メムメムは以前、ダンジョンにいる冒険者だけは魔術を使えると言っていたよな。でも今は濁した回答を言っている。
なにか理由があるんだろう……まぁ、本当のことを言ったら世界中がパニックになるし、曖昧にするのは正解なのかもしれない。
「ワタシも……魔術使ってみたい」
「いつかできるさ。人間の進化の可能性は果てしない。他の種族より短命な代わりに、成長速度は目を見張るものがある。ボクが会ってきた人間は凄いやつばっかりだったぜ」
「楽しいお喋りはそこまでですわ、モンスターが来ますわよ」
シオンの言う通り、四体のモンスターとエンカウントする。
ヤドカリンが一体に、ナマークが一体と、あれは……シザーデだったかな。見た目は星型のヒトデなんだけど、何故か宙に浮いているモンスターだ。後部が刃物のように鋭くて、クルクル旋回しながら襲いかかってくる。そのシザーデが二体いた。
「ボクがナマークをやる、シオンはヤドカリンを、シローとナーシャはシザーデの相手をしてくれ」
「分かった」
「了解ですわ」
「~~~~~~~」
おお!?
びっくりした、メムメムが作戦を告げた瞬間、アナスタシアが急に歌い出したのだ。
言葉はロシア語なのか歌詞の意味は分からないけど、聞いていると胸の奥が熱くなってきて、やる気が昂り力が沸いてくる。
楓さんのファイティングスピリットみたいな感じだ。
それと当然だけど、歌がめちゃくちゃ上手い。ロシアの歌姫と呼ばれていることだけはあるよ。
「それでは、わたくしも参りましょうか!」
そう言って、シオンは収納空間からマシンガンを取り出す。それは玩具ではなくて、自衛隊が使うような本物の銃だ。
現実世界の兵器は、ダンジョンのモンスターにはダメージが入らない。では何故シオンが現実世界のマシンガンを使うのかといえば、それは彼女のもつユニークスキルを使用するためだった。
「いくぜいくぜい! 今日もド玉にぶっ放してやるぜい!」
「喋ってないでさっさとやりますわよ!」
シオンが持っているマシンガンに顔が現れ、口から汚い言葉を吐き散らす。
射程距離まで近づいたシオンがトリガーを引くと、銃口から光る銃弾が発射され、ヤドカリンを強襲した。
シオンのユニークスキルは『
その力により、現代兵器をダンジョン産の武器として使用することができるのだ。ただ、使用用途や性能はそのままなんだけど、攻撃する際にはMPを使用したり、ダメージ計算は本人の攻撃力に価するらしい。
でも、現実世界の武器を使えるのって結構便利だよな。
魔術スキルのレベルを上げなくても、ロケットランチャーで易々と高火力を放てるし。
しかもこのスキルは一度使った兵器はそれ以降、コピーして発現できるんだ。だから何度も本物を現実世界から持ってこなくても済む。
本当にチートスキルだと思うよ。
「シエエエエエ」
「っぶね!?」
シオンの戦いに見惚れてボケっとしていたら、飛来してくるシザーデに襲われる。
寸前に気付いてギリギリ躱せたけど、軌道を曲げてまた飛んでくる。
(見惚れてる場合じゃないぞ、俺も集中しなきゃ!)
とはいっても、どう戦おう……。
電動ノコギリみたいに高速回転している刃の身体に、どう戦えばいいのか見当もつかない。
バックラーで受け止める?
ダメだ、ぶった斬られるイメージしかわかない。
剣で受け止める?
これもダメな気がする。俺の剣だと直接受け止めたら折れそうな気がするぞ。
(だったらこれしかないよな!)
俺は正面から飛んでくるシザーデに右手を向けて、魔術を放った。
「ギガフレイム!」
放たれた豪炎がシザーデに直撃する。
よし! と手応えを感じたが、なんとシザーデは火の中を突っ切ってきた。
「マジかよ!?」
慌てて横っ飛びして、シザーデの攻撃を紙一重で回避する。
ギガフレイムでもダメって、じゃあどうやって戦えばいいんだ!?
戸惑っていると、不意にアナスタシアが戦う姿が目に入った。
「アイス」
「シエエエッ!?」
(そっか、下か!)
地面から氷柱が生え、タイミング良くシザーデの肉を貫く。
シザーデの外側は鋭い刃に覆われているが、内側は柔らかい肉で弱点になっているのか。
攻略法が分かったものの、俺はアナスタシアみたいに下から攻撃する魔術なんてできないしな。
仕方ない、一か八かになるけどやってみるか。
迫ってくるシザーデに対して、俺はタイミングを計ってスライディングする。下に潜りこんだ瞬間、剣を突き上げた。
「はっ!」
「シエエッ!?」
「ファイア」
イメージ通りの攻撃ができた俺は、追撃にと直接火炎をぶち込む。燃え盛るシザーデは、そのままポリゴンとなって消滅した。
俺は立ち上がりながら、安堵の息を吐く。
(危なかった~、上手くいってよかったよ)
タイミングを間違えていたら、串刺しになっていたのは俺の方だ。
我ながらよく危ない橋を渡ったと思う。多分アナスタシアの歌がなかったら、ビビッて失敗してたかもな。
全てのモンスターを倒して戦闘が終わると、みんなで集まった。
するとシオンがややヒいたような顔を浮かべ、俺に尋ねてくる。
「シローさん、よくあんな真似できましたわね……。横で見てヒヤリとしましたわ」
「スゴカッタ」
「シローは意外と無鉄砲なところがあるからね。それが阿呆なのか蛮勇なのかは、結果次第だけどさ。ボクは嫌いじゃないぜ」
「あれしか方法がないと思ったら、咄嗟に身体が動いてたんだよ。もう一度やれと言われてもできる保証はないかな」
うん……今になって怖くなってきたぞ。
「はぁ……あの刹那に気に入られるだけはありますわね」
「アレクセイでもあんなことしない」
でしょうね。もっとスマートな倒し方があると思うよ。
まあ刹那だったら当たり前のように、俺がやったことを成し遂げられると思うけど。
「今度からシザーデはボクが担当するよ。楽しくやろうってのに、流血沙汰になっても面白くないからね」
「うん、お願い」
というか、最初からメムメムがシザーデの相手をしてくれても良かったんじゃない?
頭に浮かんだ疑問を口に出さず、俺は心の中に仕舞っておくのだった。
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