第111話 懐かしき思い出

 


「そりゃーー!」


「パワースラッシュ!」


 俺とミオンの斬撃が同時に炸裂すると、コアドラはポリゴンとなって霧散した。

 最後の一体を倒した俺は、ふぅ……と一息つく。


 ミオンと一緒に戦うのは命懸けだな。

 敏捷性は俺とそこまで離れてはいないのだが、バスターソードのリーチが長い上に二本あるので巻き込まれないようにするのが大変だ。モンスターよりもミオンの行動に意識を割かれてしまうので、精神的疲労が半端ない。


 ただそのお蔭かどうかは分からないけど、集中力が極限まで研ぎ澄まされ終盤の方は【思考覚醒】が発動していた気がする。


 というか、あの状態になってなかったらミオンの豪快な戦いについていけない。モンスターと戦うよりも、どうミオンの攻撃に当たらないかを探り続けていた気がするよ。


「凄いねシローさん! 私を意識しながらモンスターと戦ってたよね!? あーいう息の合った感じ初めてだから、すっごい楽しかった!」


「シローちゃん、途中から後ろに目でもついてるのかってぐらい動き出しが早かったにゃ。あれが覚醒シローちゃんだったのかにゃ」


「うん、多分最後の方はそんな感じだったと思う」


 尊敬の眼差しを向けてくるミオンとカノンにそう答える。

 どうでもいいけどカノン、人をソシャゲのキャラみたいに言うのやめてくれる? なんだよ覚醒シローって……。


「士郎さんって、あの状態に自分でなれるんですか?」


「いや、なろうとしてパッとできるもんではないよ。でも最近は、自分の意思でできるように練習したりしてるけどね」


「自分で覚醒できるようになったら、シローちゃん強すぎにゃ」


 スキルについて談義している時、不意にくうううううううという可愛らしい音が鳴り響く。


 一瞬時が止まり、俺たちは揃って音の発生源に視線をやった。

 やっぱりというか、そこにはお腹に手を当てて恥ずかしそうに顔を赤らめている灯里がいる。


「えへへ……お腹空いちゃったみたい」


「灯里ちゃんの腹ペコキャラにゃ! 生で聞けてラッキーにゃ!」


 待てカノン、それ以上灯里を辱めるな。すんごい照れちゃってるじゃないか。

 あと、腹ペコキャラを名物的な感じに言わないでくれる?


 心の中でツッコんでいると、ミオンが収納空間からスマホを取り出し時刻を確認する。


「あっ、もう十二時超えちゃってるよ。みんなのところに戻ってご飯食べよ!」


「そうしよう」


 十二時過ぎてたか、そりゃ灯里のお腹が鳴る訳だよ。モンスターと戦うのに夢中になり過ぎちゃったな。

 俺たちはカノンの索敵魔術を頼りに、合流場所に急いで戻ったのだった。



 ◇◆◇



「遅いですわよ、どこで道草くってましたのかしら」


「あっはは~ごめんシオン」


「ごめんなのにゃ、うっかり時間を確認するの忘れてたのにゃ」


「全く、あなたたちはわたくしがいないと本当にダメですわね」


 シオンに叱られ、カノンとミオンが申し訳なさそうに謝る。


 自由奔放な二人の手綱を引いているのは、しっかり者のシオンだった。同じアイドルの仲間だけど、彼女はお姉さん肌でDAの大黒柱な存在だ。そこに惹かれるファンも多くいるらしい。


 パーチームはすでに合流場所に戻ってきていて、結界石を発動してレジャーシートを敷いている。お昼ご飯を食べる準備は万全だった。


「まあ小言はこれくらいにして、ご飯を食べましょうか」


「うん!」


 ということで、俺たちは綺麗な海が見える砂浜で昼食を取ることにした。

 ここにテントや道具があったら、すぐにバーベキューができそうだ。


(バーベキューか……そんなのあったな)


 ふと懐かしい記憶が甦る。

 大学に入学したばかりの頃、一度だけリア充が沢山いるサークルのイベントに参加したことがあった。


 今と同じように海辺でのバーベキューだったのだが、全然楽しくなかった。一年生の俺たちは買い出しや雑用ばっかりだったし、他の人たちは酒を飲んでは騒いだり暴れたりして、挙句の果てには岩場の影でエロいことをしている人もいた。

 結局散らかったゴミも全て一年生が拾って片付けたし、今思い出すと最悪だった気がする。


 やはりパリピ軍団のノリには合わず、彼らと関わるのはやめておこうと決心し、声をかけてくれた数人の男友達とたまにゲームで遊んだりして、彼女も作らずバイトに没頭する寂しくも悲しい大学生活だった気がするな。


 まぁ、あいつらと遊んだことは結構楽しかったけど。


「はい士郎さん、お茶もいる?」


「ああ、うん……ありがと」


 つい大学時代を思い出してボーっとしていると、灯里がおにぎりとお茶を渡してくれる。

 お礼を告げながら昆布のおにぎりを加えると、幸せな気持ちが溢れてきた。


 大学時代の俺よ、今の俺は楽しくやってるぞ。


「あー! 灯里ちゃんの生お弁当にゃ!」


 なんでもかんでも“生”をつけるのやめてくれないかな。


「いいにゃ~、美味しそうだにゃ~」


「じゃあカノンさんもいる?」


「いるにゃ! 食べたいのにゃ!」


 羨ましそうにしているカノンに、灯里がおにぎりとおかずを分けて渡すと、カノンは「うみゃいにゃ~うみゃいにゃ~」と美味しそうにガッツいた。


「そういえば、DAの皆さんもお弁当だよね」


「そうですわね。わたくしたちは専属の料理人が栄養バランスを考えて美味しく作ってくれます。まぁ、好き嫌いをして残す人もいますけどね」


「だ、誰のことかにゃ~」


 島田さんの質問をシオンが答えながらカノンを睨むと、猫娘はしらばっくれるようにそっぽを向いた。


 今シオンが言った通り、DAの食事はほとんど事務所に管理されている。お菓子とかも極力食べてはいけないそうだ。


 そういう所を目の当たりにすると、アイドルって大変な職業だなと実感する。それでも我儘言わずやっているんだから、本当に凄いよな。


 灯里もD・Aに加入していたら、彼女らのように食事管理を徹底されていたんだろう。多くの量を食べる灯里は、加入したとしてやっていけたのだろうか……。


 その後も、ご飯を食べながら楽しく談笑を続ける。

 俺たちのことや、DAのこととか。余り深い内容は聞けなかったけど、彼女たちの一面を知れたことは単純に嬉しかった。


 ご飯も食べ終わり、少し休憩を取った後。

 午後の部の探索チーム分けをまたグーとパーで分ける。


 その結果、このようなチームになった。

 グーチーム、灯里、島田さん、楓さん、カノン、ミオン。

 パーチーム、俺、メムメム、シオン、アナスタシア。


 俺は午前のチームとは全員違うけど、他の人たちはメンバーが被ったりしている。

 まあそれはどうしたってどこかはなってしまうし仕方ないことなので、このチームで決定された。


「じゃ、じゃあ行こうか」


「そうですわね。ご飯も食べたばかりですし、ゆっくりいきましょう」


「シロー、悪いがおんぶしてくれないか。なんか眠くなってきた」


「シオン……ワタシも」


「「……」」


 大きな欠伸をするメムメムとアナスタシアに俺とシオンが「ええ……」と呆れた声をもらす。


 今思ったんだけど、この二人って外見は結構似てるよな。銀髪だし、人形のように整っている顔だったり。性格は余り似ていないけど。


 俺とシオンは、揃って彼女たちにこう言った。


「自分で歩け(ですわ)」

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