第109話 グーとパー
メムメムの認識阻害のお蔭で騒ぎになることなく二十階層にやってきた俺たちとD・A。
すると早速、ミオンが虚空に向けて誰かに話しかけるようなアクションをする。
「はいは~い! いつもD・Aのダンジョンライブを視聴しているファンのみなさ~ん、いつも元気なミオンでーす! 今日も張り切ってダンジョンを楽しんでいきたいと思いまーす! それでね、今日はなんとスペシャルなゲストたちと一緒に探索することになりましたー!!」
(おお……ミオンの生挨拶だ)
D・Aがダンジョンを探索する時、一番最初に視聴者たちに向けて挨拶をする。
あれだ、ユーチューバーが動画冒頭でする挨拶みたいなものだ。
その役目は、明るく元気でトークも上手いミオンとなっていた。時々カノンやシオンも挨拶をすることもあるが、やっぱりミオンのプロのようなトークと比べると物足りなく感じてしまう。
それだけ、彼女のアイドル技術というか視聴者を喜ばせる技術は凄かった。
そのトークを生で見ると感心してしまう。
なんというか、これが本場のアイドルか! みたいな感動を覚えてしまっていた。
因みに、誰が撮影しているのか分からないけど、ライブを配信している誰かはしっかりとミオンが映るようにしている。
それを分かっているから、ミオンはああやってカメラがなくともトークができているのだ。
ミオンは突然ばっ! と俺たちの方に反転すると、手の平を向けてくる。
「そのゲストっていうのがね、なんとなんと今話題沸騰中のメムメムさんと、テレビにも出ちゃった許斐士郎さんのパーティーなんだ! みんなビックリしたでしょ!? 実は私もビックリしました! だって話を聞かされたのが昨日だったんだもん!!」
「シロー……ボクは今アイドルとやらにびっくらこいてるよ。知識溢れるエルフのボクでさえ、“なんか凄い”という陳腐な表現しかでてこないんだ……」
「うん……その気持ちは凄く分かる」
感動しているのか呆れているのか、どっちとも取れない表情を浮かべて話すメムメムに、俺も同意するように首肯した。
なんかこう、俺たちとはパワーが違うよね。パワーが。
「今日は許斐さんたちと楽しくダンジョンを探索するから、みんなも楽しんで見てね~! ということで、早速行こっか!」
虚空に向かって大きく手を振っていたミオンは、再び俺たちの方に身体を向けて提案してくる。
切り替えが凄く早いのもそうだが、彼女のテンションについていけず戸惑ってしまう。楓さんと島田さんに限っては感動しっぱなしだしな。
「ちょっとミオン、許斐さんたちが困っているじゃないですか。今日はコラボなんですから、いつものように張り切らずペースを落とした方がいいですわ」
「そうにゃ。カノンたちは平気だけど、シローちゃんたちはミオンのテンションについていけないにゃ。こっちが気を使った方がいいにゃ」
「うん……そうだよね。初めてのコラボだから張り切っちゃった。ごめんなさい……」
シオンとカノンに叱られ、ミオンが俺たちに向かって謝ってくる。
すると島田さんと楓さんが、慌てて口を開いた。
「み、ミオンちゃんが謝ることないよ!」
「そうです! ミオンさんはいつも通りにやって頂いて構いません。寧ろそれを望んでいます!」
「そう? じゃあ島田さんと五十嵐さんも元気出していこー!」
「「お、おーー」」
ミオンが笑顔で手を掲げると、二人も恥ずかしそうに手を上げる。
これがライブとかだったらもっと声を張り上ていたと思うのだが、流石にダンジョンの中は恥ずかしいらしく控え目だった。けど、ミオンを悲しませたくないという健気な気持ちは充分伝わってくるよ。
二人とも、凄い楽しそうだな……。
見慣れない光景に頬をかきながらあははとカラ笑いを浮かべていると、いつの間にか目の前にいたアナスタシアに手を差し出された。
「……ヨロシク」
「え、あ、うん……よろしく」
その手を取って軽く握手を交わす。すんごいすべすべで柔らかい。
そういえばアナスタシアって、ペラペラではないけど日本語を喋れるんだよな。D・Aのメンバーとも普通に日本語で話してたし。
手を離すと、彼女は灯里やメムメムにも握手をしに行った。
なんとなく握った手を見つめていると、その手がパンッと両手で塞がれてしまう。
ビックリしていると、下からひょっこり現れたカノンが笑顔でこう告げてくる。
「シローちゃん、今日はよろしくにゃ! 一緒に探索できるのが楽しみにゃ!」
「うん……そうだね」
「カノンさん、私もよろしくね!」
「も、勿論アカリちゃんとも楽しみにしてたにゃ!」
横から現れた灯里が、俺の手を握っていたカノンの手を離すように自分から繋ぐ。
灯里は一応笑っているのだが、心の中では笑っていないことを俺は知っている。カノンも慌てて笑顔を振りまいた。
あのー、なんかここだけ空気悪くなってるからその辺にしておこうね。
そう声をかけたいのだが意気地がない俺に代わって、ミオンがバスガイドの如く先導する。
「は~いみんな行くよ~お喋りしてると置いてっちゃうからねー」
「ほら、もう行くって」
「そうですね」
「そうだにゃ」
階段を後ろ向きで登っていくミオンの後を追うように、俺は灯里とカノンの背中を押して先を促したのだった。
◇◆◇
二十一階層に転移してきた俺たち。
この後の流れを確認しようとすると、シオンがこう提案してきた。
「九人の大所帯で探索するのは時間が勿体ないですし効率が悪いですので、折角なのでパーティーをシャッフルしませんか?」
「シオン! それすっごく良いと思う!」
シオンの案に、ミオンが食い気味に親指を立てる。
パーティーのシャッフルか……確かにいいかもな。九人でモンスターと戦闘してもほとんどは手持ち無沙汰になってしまうし、折角のコラボなんだから俺たちとD・Aを混ぜて探索した方が面白いかもしれない。
その案に誰も異議を唱える者はおらず可決されると、今度はどうやってパーティーをシャッフルするかという話題になる。
ふとくじ引きが浮かんだが、この場で作るのは時間がかかるし自分で却下した。
「グーとパーでわっかれましょ! にしようよ!」
「でもそれだとパーティーの編成に偏りが出ませんか?」
ミオンの案に楓さんが意義を申し立てると、カノンが問題ないと告げてくる。
「D・Aは全員アタッカーだからその辺は気にしなくていいにゃ。それに二十一層程度のモンスターには遅れを取ることはにゃいだろうし」
「そうですね、カノンさんが言うなら大丈夫でしょう」
ということで、シャッフル方法はパーティーでのグーとパーでわっかれましょになった。
「なあシロー、彼女がいうグーとパーとやらはどうやってやるんだい?」
「ジャンケンがあるだろ? あれにチョキを無くして、グーはグー同士、パーはパー同士になった人がチームを組むんだよ。数が合わない時はやり直しで、俺たちは五人だから三人と二人に別れたらいいんだ」
「なるほどねぇ、こちらの世界は面白いことを思いつくんだな」
まあ流石に異世界では“グッパ”なんて思いつかないだろうな。
あっ、因みに俺はグッパ派ね?
これも大富豪と同じで、地域によって呼び方ややり方が異なるんだ。
グッパでわっかれっましょとか、グーとパーでわっかれっましょとか、グッショッショとかよく分からない掛け声もあったりする。
今回はグーとパーでやることになった。
俺たち五人は輪になり、グーとパーを行う。
「「グーとパーでわっかれっましょ!」」
その結果、俺と灯里がグーで、楓さんと島田さんとメムメムがパーになった。
さらにD・Aとも合わせると、このようなチームになる。
グーチーム、俺・灯里・ミオン・カノン。
パーチーム、楓さん・島田さん・メムメム・シオン・アナスタシア。
「それじゃあ、お昼頃になりましたら一度合流しましょう」
「午後にはもう一回シャッフルするから、視聴者のみんなも楽しみにしててねー!」
なるほど、シャッフルはもう一度あるのか。
そうだよな、特定のパーティーでやるより色々な人と組んだ方が楽しいもんな。
チームに分かれた俺たちは、二手に分かれて探索をすることになる。
グーチームが集まると、カノンが笑顔でこう言ってきた。
「シローちゃんと灯里ちゃんと組めるなんてラッキーだにゃ」
「うん、私もカノンさんとチームになれて嬉しいよ」
「あれれ~、二人とも仲良くなるの早くな~い? 私も負けてらんないなー頑張るぞー!」
ミオンさんや、多分二人はそんな生優しい感じじゃないと思うよ。
(大丈夫だろうか……)
表面上は仲が良く見える二人を前に、俺はひそかな不安を抱いていたのだった。
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