第98話 慢心
灯里を助けるために二十階層で二体のキングモンスターと戦うことになってしまった俺たち。
序盤は楓さんの卓越した防御技術によって押していたのだが、黙っていたシルバーキングに邪魔をされてしまう。
どうやらあのゴリラは俺が目当てのようだった。
メムメムの作戦は俺が一人でシルバーキングを、他の三人がキングトレントを相手にするというものだった。
正直キングモンスターを一人で相手にするのは厳しいけど、それしか打開策がないのならばやるしかない。
「ゲゲゲゲ!」
「根の攻撃が下からきます! その場から動いてください!」
地面が揺れ、裂け目からひゅんと根を振り上げてくる。
楓さんが事前に伝えてくれたお蔭で、俺たちはギリギリ回避することができた。
キングトレントは枝による攻撃だけでなく根による攻撃もあるんだった。ちゃんと頭の中に入れておかないと。
俺はその場から駆け出し、楓さんと合流する。
そしてメムメムの作戦を彼女にも伝えた。
「士郎さんが一人で!? そんな無茶です」
「無茶でもやるしかないよ。楓さんはこいつの方を頼む」
「死なないでくださいよ。貴方が死んだら、また灯里さんが自分を責めてしまいますからね」
「そうだね。灯里は自分の所為だって言いそうだ」
俺と楓さんは先ほどと同じように徐々にキングトレントとの距離を縮めていく。
十分な距離に達した時、俺は再びキングトレントに迫った。
「ウホホホホ!」
「お前の相手は俺だ!」
その瞬間、木の上からシルバーキングが落下しながら拳を振り下ろしてくる。
攻撃を躱した俺は、奴の顔面に向けて横一閃を放った。しかし斬撃はブリッジによって紙一重で躱されてしまう。
俺は追撃せず、地面に横になっている灯里のもとへ駆け出した。
「ウホ!?」
俺の狙いが灯里だと気付いた銀王猿が慌てて追いかけてくる。
あの猿はなんでここまで灯里に執着するんだ。なにか理由があるのか?
「ウホオオオオ!」
「っぶね!」
ジャンプして、俺の背中に拳を叩きつけようとしてくるシルバーキング。
俺は横っ飛びすることで、ギリギリ躱した。
シルバーキングは追撃することなく、灯里の側に戻っていく。
やはり灯里を取られたくないようだ。
だけど、これで俺の役目を一つ達成することができた。俺の役目は、キングトレントとシルバーキングを引き離すことだったからだ。
後は、俺がこいつと一対一で勝つだけ。
「来いよクソゴリラ」
「ウホーーーー!!」
煽って挑発すると、シルバーキングは雄叫びを上げながら凄まじい勢いで突進してくる。
この巨体に突っ込まれたら身体がバラバラになってしまうので、俺は横にステップして回避した。
「スラッシュウエーブ!」
「ウホッ!?」
隙があったので飛斬を放つと、シルバーキングの後頭部に直撃する。
どうやら奴は俺が遠距離攻撃をできるとは思っていなかったようだ。もう見せてしまったので警戒して次を当てることは難しくなるだろうけど。
「ウホオオオオオッ!!」
シルバーキングは俺に接近してきて、嵐のような猛攻を繰り出してくる。
空気を裂く音が凄まじく、まともに喰らってしまったら一撃でノックダウンだ。
(だけど……これなら避けられる!)
シルバーキングはびゅんびゅん拳を振り回しているだけで、当たればもうけものといった単純な攻撃だった。
隻眼のオーガのようにフェイントを仕掛けてきたり次の攻撃に繋がるような手順を踏んだりしていないので、避けるのは意外と容易い。
こういった一撃で殺される威力の攻撃をしてくる敵が初めてであったならば、俺も恐怖を抱いて冷静に躱せずやられていたかもしれない。
だが俺は、ミノタウロスという同じタイプの敵とすでに戦っている。あの経験があったからこそ、俺はシルバーキングの攻撃を完璧に回避することが可能であった。
――いや、それだけじゃない。
(分かるようになってきたぞ)
シルバーキングの一挙手一投足が、鮮明に見えるようになってきた。
攻撃を回避していることで集中力が高まってきたのだろう。エンジンがかかってきたと言えばいいか。
多分これは【思考覚醒】のスキルが発動しているのだろう。
このスキルは任意で行うアクティブスキルではなく、自動的に発動するパッシブスキルだ。
しかも【体力増加】など常時発動しているスキルではなく、【思考覚醒】はいつ発動するか分からない特殊なスキルである。
だけどその効果は絶大で、相手の動きが手に取るように分かったり身体が勝手に動いたりと全能感を得られる。
このスキルに、俺は何度も助けられてきた。
このスキルが発動している間は、誰にも負ける気はしない。
「はあああ!!」
「ウガアア!?」
放たれた拳を、身体を回転させながら躱し胸部に斬撃を与える。
呻きながらも放ってきたフックを屈んで躱し、奴の両足を斬りつける。
今度は地面ごと蹴り上げて土による目くらましをしてきたが、すでに俺はその場から移動して剣を振り上げていた。
「アスタリスク!」
「ウガアア!?」
シルバーキングに六連斬撃を与える。
苦しそうに呻き声を上げながらも反撃してくるが、それさえも事前に来ると分かっていた俺は容易く回避してもう一度アーツを叩き込む。
「パワースラッシュ!」
「ウホオオッ」
豪剣を喰らった銀王猿はたまらず後方に下がった。
すうううううううううと大きく息を吸うと、叫び声を放ってくる。
「ウガアアアアアアアア!!」
キングモンスターが使う
その効果は相手の戦意を削ぎ落し身体を硬直させる。
だが残念だったなゴリラ。
俺には【キングススレイヤー】という称号があり、キングモンスターと戦う時に能力値が上昇するのに加え、ハウルに対しても耐性があるんだ。
お前の咆哮なんかでビビったりはしないんだよ。
「行くぞ!」
「ウ、ウホ?」
ハウルが俺に効いていないことを不思議に思っているシルバーキングに向かって駆け出す。
一瞬で肉薄すると、怒涛の連撃を繰り出した。
「はあああああああああああ!!」
「ウガアアア!?」
シルバーキングは反撃せず、両腕を上げてガードしている。
だけど奴の皮膚はそれほど固くなく、斬撃が通って切り傷を増やしていった。
(いけるっ! これなら俺一人でも倒せる!)
手応えを感じていた俺は、一人でも倒せると確信していた。
それが油断だったのだろう。
シルバーキングは突然方向転換し、逃げ出してしまう。その行先は、灯里のもとだった。
「あの野郎、また灯里を!」
灯里を攫うか、それとも人質にするか分からないが、そうはさせまいと怒りながら追いかけたその時。
シルバーキングは急に足を止め、身体を反転させた。
「しま――」
「ウヒ」
「がは――」
灯里のもとに向かうのは俺をおびき出す作戦だったのだろう。
まんまと策に嵌ってしまい、下卑た笑みを浮かべるシルバーキングが放った拳を回避することができず、強烈な一撃によって冗談じゃないほど吹っ飛ばされ、そのまま意識を失ってしまったのだった。
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